HIT企画

□雲と嵐を巻き起こせ
1ページ/2ページ




海賊としての生を終え、再び現代日本に生まれたらしいシノだったが、最近やっぱここ、私の知ってる日本じゃなくね?と思い始めていた。


まず第一に、普通の日本の男子中学生は町を支配したりしない。
不良が秩序とか、町として終わってるんじゃないかなーとかのんびり他人事のように思っていたりするが、何を隠そう、彼とは幼稚園からの付き合いであり、他人だけど他人顔出来ない微妙な関係だ。
今更義務教育とか、猿と机並べるようなものと思っているシノにとって、悲しいかな、彼とは妙に馬が合った。
主にぼっちとか、群れないとかそのあたりで特に。
もっとも、本物の猿山の方が、互いに君臨できて性に合っていたのだろう事は言わぬが花である。

彼の名は雲雀恭弥。
バトルマニアで時々戦いを挑まれる事以外なら、わりといい友人である。
教室で授業受けなくても、応接室で課題やらせてくれるし。
応接室の主たる雲雀が許しているせいで、シノにとって応接室=保健室みたいになっている。
気分は不登校児だ。
学校は来てるけど。
それが雲雀の出した条件でもある。
何せシノときたら、義務教育に留年がないのをいい事に、学校に来たがらないのだ。
風紀委員長としても、幼馴染としても何か思う所があったのだろう。
教室に行かなくてもいいから、応接室には登校してくるように、と言った雲雀自身、自分にクラスや学年は関係ないと公言して憚らない。
群れたくない気持ちの理解者としては、シノの応接室登校は許容範囲だ。
無論、他の雑魚なら咬み殺すのだが。




「ちゃおっス」

「……」


そしてこれが第二の理由である。
が、シノは無視してソファで寝転んでいた。
見知らぬ赤子が拳銃片手に流暢に喋りかけてこようと、シノの天下一品の人見知りの前では霞んで消える程度のインパクトでしかない。
普通の赤子ならこの時点で構ってもらえない悲しさから泣き叫ぶのだろうが、この暗殺者気取りの赤子にそんな可愛げはない。


「何してんだ?」

「……」

「フム……医学書か。お前、医者になりたいのか?」

「……」


ただ、昔無理矢理勉強させられて覚えた英語の読み書きや、知識を忘れるのは勿体無いので、時々英字に触れるようにしているだけだ。
ちなみに会話はほとんど出来ない。
あくまで読み書きだけだ。
あの世界では、それだけで足りていたから。


「ツナにも今度ねっちょり洋書を読ませてみるか。まずはイタリア語からだが、お前も読んでみるか?」

「……」

「お前もやるな。オレをここまで袖にする女はなかなかいねーぞ」


へー。
ふーん。
赤ちゃんだから?
こんなに、らしくないのに。
とてもそうは思えないけどな、などとシノが腹の内だけで思っていると、ようやく部屋の主が戻ってきた。


「やあ赤ん坊」

「ヒバリ、ちゃおっス」

「…これ窓から入ってきた。早く外に放して」

「オレはスズメか何かか?」


似たようなもんである。
いや、害がないのと動物な分、雀の方がいい。
むしろ歓迎する。

こっちを見ないで指差すシノの人見知りと動物好きは、リボーンも知るところであるので「つれねーな」と肩をすくめる。


「自分でやればいいだろ」

「構うとつけあがりそうな感じだから」

「歯に衣着せないにも程があるぞ」


もしここにツナがいたなら「正直すぎるよ!!明け透けだよ!!」と白目になるくらいには、シノは何でも素直に口に出すタイプだ。
それに、言い方は他にもあったにしろ、シノの言葉は100%以上に正解である。
もし実力行使に出たとしたら、見込みありと判断されてボンゴレ入りがトントン拍子で待っている。
今でさえ充分粉をかけていると言えるのに、実力や手の内を曝して勧誘に拍車がかかるだろう事を、シノは頭より先に肌で感じているのだろう。
直感の鋭い奴だな、と笑みを深めるリボーンにはそれが仕事で、十八番だ。
あくまで雲雀としか話そうとしないシノは既に、しっかりロックオン済みだった。


「じゃ、また来るぞ」


自慢だが、世界最強のヒットマンは標的を外したりしないのだ。



********



「恭弥。いつの間に学校はマフィアのものになったの」


リング戦などというふざけたものをやり始め、学校に生徒以外の不法侵入者が劇的に増えた。
しかもこんな時に限って雲雀はいない。
見知らぬ外人(ディーノ)につられて、どこかに行ってしまったっきりである。
とりあえず、たぬき娘(チェルベッロ)を倒してみたものの、不可思議な事に、同じ様なのが後から後から出てくるのだ。
家庭内害虫と同じ様に、1匹みたら30匹は覚悟しないといけない系なのだろうか。
しかも、奴らを駆除しようとすると幻覚に陥ったりする。
これは見聞色の覇気で何とかなったが、オトオトの実の能力で音に関する探知を得意とするシノにとって、それが役に立たなくなるというのは非常にもどかしく、ストレスであった。
一応、応接室を借りている身として雲雀には報告したが、その矢先。
妙なおっさんが応接室を訪ねてきた。


「君がシノか……チェルベッロの術師達を尽く破るとはな…」

「……」


そのツルハシは武器と思っていいだろうか。
懸賞金もかけられた覚えがないのに、見知らぬおっさんに名前を知られているというだけで、何か嫌だ。
やっちゃってもいいだろうか。


「君に提案がある。君の幼馴染の雲雀恭弥にも利がある事だ」


少なくとも、ここが雲雀の根城であると理解して来ているという事は、その覚悟があるという事でいいだろう。


ていっ


「ぐはっ!!!」


音速で接近して”ショック”を叩き込まれたおっさん――沢田家光は、あっけなく一撃で倒れた。
報せを受けて帰ってきた雲雀は、応接室前に積まれたチェルベッロの山を一瞥した後、応接室の床に転がった家光を見下ろし、シノに尋ねた。


「何これ」

「さあ…?なんか居た。リング争奪?がどうとか言ってたけど、よく知らない」

「…そう」

「あ、このおじさんは何か知ってそうだったから生け捕りにしといたよ」

「わかった」


このシノの働きによって(?)並中がリング争奪戦の舞台となる事はなかった。
かわりに、リング戦の戦場が並盛町のあらゆる場所に分けられてしまう事となったのだが、それより大きな問題は、門外顧問沢田家光の敗北であった。
門外顧問チームは謂わば、ボンゴレの暗躍集団である。
暗殺は専門のヴァリアーがいるが、その他の調査や根回しなど、ありとあらゆる秘密作戦を担っている重要機関のボスが日本の女子中学生にワンパンで負けたのだ。
おかげで門外顧問からは敵視されるようになり、リボーンからは更なる勧誘と注意を向けられ、ストレスが溜まり始めたある日の事だ。


ボン!とピンクの煙に包まれて、10年後の未来にご招待。
ふざけんなである。
リングなど持っていなかったシノは特にミルフィオーレに探知もされることもなく、音波化して漂って情報収集後、風紀財団地下アジトに合流した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ