HIT企画

□DEAR
1ページ/2ページ




※現代設定で同棲中の2人。



********



「何!?そなたそれで良いのか!」

「うん」

「…はァああァ……何と…!」

「!大丈夫?」


額に手の甲を当て、くらりと後へ倒れこむハンコック。
シノはテーブルの反対側に移動し、その背を支えた。


「ああ…わらわはな。問題はそなたじゃ!!」


ビシッ!!と、どこからか効果音が聞こえてきそうなハンコックの指先がシノを指す。
思わず背筋を正してしまったシノは、モゾモゾと正座した。
ハンコック曰く、彼女は恋の先輩らしいので、後輩らしくしているのだ。


「あの熊…ではなかったか隈男め…!!仕事とシノとどっちが大事なのじゃ!?」



来たるクリスマス。
医師として日々忙しないローにとって、一段と忙しくなる日のひとつでもあった。
行事や連休の日などは、羽目を外した怪我人が多かったり、スタッフが足りずにいつも以上に大変らしいのだ。
今に始まった事ではなし、祝日や行事日を一人で過ごすのはシノにとって当たり前になっていたのだが、ハンコックにしてみればあり得ないらしい。


「…ハンコックちゃんはルフィ君と?」

「そうじゃ!…ルフィの家のホームパーティに呼ばれていてな?……家族の一員?妻?として…という事であろう?」

「そっか…」


たしか、ナミ達もルフィの家でパーティと言っていた気がするが、そう言うのであればそうなのだろう、きっと、多分。
だって、ハンコックがとても幸せそうなのだ。


「それに比べてあの男は…!!」


一転、般若の様相になっても美しいハンコックを宥めたのが23日の午後の事だった。
その日もローは帰って来なかった。
一緒に暮らしていても、会える時間はごく僅かだ。
いずれ実家の病院を継ぐ予定とはいえ、医師として腕を磨く為にも最前線で救命医として働いているローは、病院で寝泊りする事の方が多いくらいである。
いつ呼び出しが来てもいいようにと、病院の徒歩10分圏内のマンションを借りても、住んでいるのはほぼシノだけ。



「(―――別に……寂しいと思ったことはないんだけど……)」



最後に話したのは4日前くらいだろうか。
夜中に帰ってきて、ごそごそしていたかと思えば早朝には「行って来る」と背を向けたローに「いってらっしゃい」を言ってそれきりだった。
そのかわり、休日はローと1日中ゴロゴロしていたりと、引きこもり生活を満喫していて、それなりに満足した日々を過ごしているつもりなのだが。
他者から見るとそれは、満足には程遠いらしく、よく怒られる。
シノが。

ハンコックのように、最初はローに怒っていても、最後は決まってシノが怒られるという不思議な現象が起きる。
曰く、それで満足しているからいけないのだ、と。
その程度でいい女だと思われていいのか、思わせていていいのか。
手がかからないと言えば聞こえはいいが、安く見られる恐れもあるのだ。
そう言って心配し、釘を刺してくる友人は皆、大抵シノとローの共通の知り合いが多いので「まあトラ男だし、今更あんたを手放すとは思わないけど…」とも言ってくれるけれど。



「いけない…のかな…?」


ロー以外とは、男と付き合った事もないシノにはよくわからなかった。
皆が危惧するように、今の状況に満足するばかりでは、いずれ関係が破綻する可能性があるのだろうか。
顔出しNGの謎めいた人気歌手としてCDを出して収入を得ているシノは、案外暇だ。
だからこそ家事も出きるし、ローに予定を合わせられる。

ノートパソコンを起動したシノは、ちょっとの好奇心からネット検索してみる事にした。



「んと……何ていれよう……何て言ってたかな?ナミ……あ、そうだ……”都合のいい女”っと…」


ポチポチとゆっくりなブラインドタッチの後、ずらーっと出てきた結果に、シノは


「……おぉぅ……」


早くも、ちょっと面倒くさいな…とか思い始めていた。



********



「チ…ッ!ガキのくせにアル中でおれの仮眠を邪魔するとはいい度胸だ…!!」


いつもより隈が3割り増しのローは、診終えたばかりの患者のカルテを記入しながら、イライラしていた。
二徹後の仮眠が30分で終了したのである。
今日が何日かすら曖昧になりつつある頭でカルテの日付を確認してみれば、そこには12月24日と記されていた。
さっきの患者もおそらくは、クリスマスに浮かれて酒を呷ったのだろう。
ブラインドが下りていてわかりにくいが、外は既に暗かった。
外を見ていつも思うのは、帰りを待っているシノである。
それが夜でも昼でも、時間の経過を感じていの一番に結びつくのは、シノの事だった。
それなのに、まともに2人の時間を過ごしたのはいつだったか…考えてもすぐに答えが出なくなった。
別に寂しいとかじゃない。
互いにそんな性分ではないのはわかっている。
ただ、早く帰りたいとはいつも思っている。


その後、ローが帰宅できたのは、イブも終わろうとしている深夜だった。
2人ともいちいちイベントに左右されない気質であるためか、そっと入ったリビングにはリースも何も無い。
シャンパンを開けた形跡すらなかった。
もう寝ているのだろう。
テーブルには、引っくり返されたご飯茶碗に汁物の椀が用意してあって、どう見てもクリスマスディナーではなかった。
シャワーを浴びてビールを開け、温めたそれらを平らげると、満腹感が眠気を呼び、肩の力が抜ける。
満たされている、と素直に感じた。
明日は2週間ぶりの休みだ。
更なる充足を感じられるに違いない。
そう信じて身を休めようとした直前の衝撃は、ガツンとローの頭を揺さぶった。
テレビは音が洩れると気を使い、PCをつけていたのが悪かった。
某大型検索ページからニュースや天気を見ようと、たまたまカーソルを合わせて出てきた検索履歴に指が止まった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ