IF
□IFPH13
1ページ/2ページ
「お前には別にやってもらいてぇことがある」
というローの要求を、全力で拒否する意向を示したシノ。
ベポにしがみつき、オレンジのツナギに顔を埋めてイヤイヤと首を振っている。
あまりの悲愴っぷりに、ベポが困りきった顔でローを見た。
「キャプテン…」
「……ダメだ」
ローに忠実なベポは、それ以上何も言わずシノを撫でた。
するとシノはベポを見上げ、ローを情けない顔で窺う。
なんだその目は、と出掛かった言葉を、ローは何とも言えず呑み込んだ。
まるでローが、こいつらをいじめたみたいになってる空気が解せない。
「………ちっ!仕方ねェ…」
「…!」
ドフラミンゴの情報を得るのに、これほどの適任は他にいないのだが…
かといって、この人見知りを雑踏の群れに放り込んで、きちんと機能するか。
改めてローはその難題に道を塞がれた気になり……とかなんとか言い訳して、本当のところ、本気で嫌がるシノに根負けしただけである。
「じゃあお前、おれとパンクハザードな」
じゃあ、の使い方おかしくないか。
シノは思ったが、黙ってこくんと頷いた。
1人で人ゴミに投入されるよりマシだ。
ローがこれ以上譲歩するとも思えないので、シノはベポとのしばしの別れを覚悟した。
「ベポ君の腹毛が恋しい……」
「我慢しろ」
「アイアイ…」
いつまでも船の上でベポとの別れを惜しむシノにしびれをきらし、終いには首根っこ引っ掴んで連れてきたロー。
彼らは今、パンクハザード島の氷側に位置する研究所へと足を踏み入れていた。
この研究所のシーザーという男に目通りするためだ。
ローの思惑では、この研究所にある『ある物』を見つけて破壊し、シーザーの身柄を捕獲したいらしい。
通された研究室で、研究所への滞在を交渉しているローのそばで始終だんまりを決め込んでいたシノは、シーザーの視線がこちらへ来たことでム、と眉を寄せた。
「ところでロー。このガキはなんだ?」
「おれの仲間だが、それがどうした」
「仲間ぁ〜〜?」
中途半端にガス化しているシーザーの、ゆるゆるとしたシルエットの中の顔が、ぐにゃりと歪んだ。
首も無いのに顔らしいものを傾け、面白半分の嘲りを隠そうともせず、シノを見る。
シーザーの中では、ローの座るソファの背もたれから顔半分だけ見せているシノなど、怯えて警戒する子供にしか映っていないのだろう。
ナメられているとわかるのはムカつくが、シノの注意はそれよりも、後方でガリガリと羽ペンを動かすモネという女に向けられていた。
「あなた”音凪”ね。元懸賞金2億ベリー」
「……」
ビン底眼鏡を外し、笑みを浮かべるモネ。
シノは彼女から目を背け、やはりと警戒を強くした。
能力や強さ云々はともかく、シーザーという男より余程狡猾そうな気配がする。
シノは本能的に、このモネの方が厄介に感じた。
「あらあら…フラれちゃったかしら」
「こいつは極度の人見知りだ。返事や愛想は端から期待するな」
「人見知りねぇ……こんなのが2億とは、政府もヤキがまわったかぁ?」
「噂では海軍の軍艦2隻を同時に沈めたとか」
「ほぅ……この小娘がなァ」
そう言うと、シーザーの身体がゆるりと伸びて、上半身の人型を乗せてシノの目前に現れた。
ジロジロと不躾な目線にイラっとしたシノは、覇気を込めた手で角の片方を掴み、無理やり首をあっち向いてホイにする。
グキッとか音がしたが、知ったことではない。
「いでェーーっ!!!」
「こっち見ないで」
「ぐぬ…っそーいうのは先に口で言えバーカっ!!!このアホめっ!!」
「話しかけないで……口が青くなる」
「なるか!?おれのは生まれつきだっ!!おいロー!!てめェどういう教育してやがる!!」
「シノ」
滞在する話は纏まったとはいえ、ここで変に機嫌を損ねて、やっぱナシじゃ困るのだ。
ローが制止すると、シノは不承不承といった様子で角から手を離した。
「ならねェから安心しろ」
「……(こくり)」
「そっちじゃねぇっ!!いやそれもあるがっ、それよりまずおれに詫び入れろ!!」
「人見知りだと言ったはずだ。こいつに妙な期待すんな」
「悪いのおれみてーに言ってんじゃねーよ!!謝れよバカ!人として!」
突然の暴挙に文句言ってたはずが、文句すら空気読めよとばかりにいなされるとは、とんだ不条理だ。
キーキー喚くシーザーに、モネが噴出す。
「っぷ!マスターに人として…とか…ぷフッ!」
「くぉらモネっ!笑うんじゃねぇ!!」
「……」
「シノ、滞在は長いんだ。ほどほどにしとけよ」
「アイアイ」
「やっぱお前ら帰れーーっ!!!!」
―――しかし、それで素直に帰るわけもなく…
結局の所、シーザーの機嫌を損ねようが損ねまいが、ローたちがパンクハザードへの滞在を諦めるわけがなかった。