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モネの心臓を海に捨てた後、シノは再び研究所に戻っていた。
そうして間もなく、ローが注意していたヴェルゴの到着を知る。
ここは接触を避け、ローにまず連絡を入れるべきだと、シノは音速移動で念のためヴェルゴから遠い位置にある一室へと出る。


”小さなメロディ”で通信したローによれば、彼は今から麦わらの一味の船医を連れて、こちらへ戻ってくるとのこと。
シーザーの居所を聞かれたので、メイン研究室にいると返せば、麦わらの一味にシーザーの誘拐を任せた、と教えられる。


『麦わら屋たちがそっちへ行ったらナビをしてやれ。研究所で迷子になられたら面倒だ』

「……うん…!ちょっと待って……」


ヴェルゴは到着したばかりで、まだシーザーにすら接触していない。
ローに聞かれてシーザーに注意を払うと、彼は監視電伝虫で外の様子を見ながら高笑いしているところであった。
それだけなら何ということはない。
シノが気になったのは、高笑いとともに出た大きな独り言の方である。
映像に出ている何かに向かって、スマイリー、と親しげに呼びかけている。
その正体は、4年前の化学兵器暴発事故でパンクハザードを襲った毒ガスを圧縮したもので、ずっと炎の土地に閉じ込めていたらしく、久々の再会だとシーザー大喜びだ。



「………あのバ科学者……キャプテン、ちょっとマズイことになってるみたい」

『?』



この連絡を受けたローより、毒物兵器が迫っているのだから速やかにと忠告を受けた麦わらのルフィであったが、彼らは何故か研究所の前にド派手に不時着し、海軍G−5と見事鉢合わせしたのであった。



「なんでこんなことに……」


ローも時々、無自覚に向こう見ずなところがあるが、麦わらのルフィは余裕でその上の、そのまた遥か上空を突っ走っている。
何故わざわざ海軍のいるところに突っ込むのだ。
ローの提案だとは考えにくいから、彼らの独断なのだろうとは思う。
これをナビってどうしろと……?
シノはハンコックの話でルフィのことは少し知っているが、ほぼ初対面である。
他の一味も然りだ。


「(こんな状況で話しかけるとか……無理…っ!!どどどどうしよう…まずはキャプテンの仲間って名乗って…で行ってほしい方向を言う?あ、でも他の人の名前知らないし……聞くの?私が……??何て言って聞けばいいの?本日はお日柄もよろしく、とか……?あれ?あれ??)」


シノの脳内シュミレーションでは、まず研究所の近くに来た麦わらの一味に道を教え、それからキャプテンの仲間だと打ち明け、出来ることなら彼らには、ローのように自分と”小さなメロディ”で会話するときには、シーザーたちにバレないよう振舞ってもらえるよう話そうと思っていたのだ。
それをどう言おうか、まず会話の切り口は…と、シノにしてはかなり建設的に初対面の人間との会話を考えていたのに、つくづく麦わらの一味は計画というものを台無しにさせる才能に満ち溢れているらしい。


「うぅ〜〜っ……ベポ君たすけて……」


シノは頭を抱えながらも、この研究所を中心に島の半分くらいの範囲の状況を”エコーロケーション”で探っていた。
すると、ついにヴェルゴとやらがシーザーと接触した。



『―――モネはどうした?』

『それが外の様子を見に行ったっきりでなァ…ったく……この後大事な実験を控えてるってのに……!!』

『フム……して、ローと部下の女は?』

『お前んトコのG−5と戦った後は知らねェ。おれも忙しいんだ』


モネの不在で実験の準備が手間取っているらしく、シーザーはそのことに苛立っているようで、ヴェルゴが『妙だな…』と呟いたことはスルーしている。


『麦わらとG−5はともかく…ローの動向が気にかかるな』

『シュロロロロ…!!それならこれはお前に預けておこう』

『これは?』

『ローの心臓さ。おれは今からオモテにいる麦わらたちとG−5の掃除を兼ねてスマイリーに会ってくるからよ』

『そうか…あいつも浅はかな真似をしたな』

『あァ……おれはこの後子供らを回収したら公開実験に移る。さっきも言ったがおれは忙しい…着いて早々すまないが、ローの方は頼んだ』

『仕方がないな。ローにはこちらも少なからず縁がある』



……まずいことになった。
ローの心臓ではないが、あれは―――



ギュムッ



「っくぅあああアアアッ……っ!!!!」



シノは胸を押さえて、周囲を憚らず悲鳴をあげた。
それほどまでに、尋常な痛みではなかった。


「っぐっぅ……っはァ……アぁッ……」


能力を使うどころではない。
シノは狭い室内でゴロゴロ転がり、時折確かめるように潰される痛みに苦しみのた打ち回った。


「……ッ!!」


鮮血が床を汚し、口から垂れた血が頬を汚した。



「――――ほう……これは君のものだったか」

「!?」


無様に転がるシノの横に、黒い革靴が降り立つ。
苦しみで霞む目で見上げるシノを、サングラスの奥の目が無情に見下ろしていた。


「悲鳴を頼りにやって来たが……これは逆に好都合だな…」


ギュッ


「ァぐうっ!!!!」


見せつけるように目の前で握りこまれても、どうすることも出来ない悔しさで、ヴェルゴを強く睨みつけた。


「………ハァッ、は……わ、たしの……っ!!!」

「フム…どうやらあまり驚いていないようだ。ということはモネの予想が当たっていたということか……」

「っ!!」

「ん?図星かね」


シノの心臓に、ヴェルゴの真っ直ぐに伸びた指先が向けられる。
海軍の兵士が時々使う技の構えだとわかり、シノはただでさえ血の気の失せた顔を青くした。


「正直に答えてくれたまえ。君はローの部下で、その悪魔の実の能力でこれまで色々聞いていたのだろう……?」



謀れば命はない―――シノは、震える身体で頷く他なかった。
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