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「マスター!!!敵全員が研究所内A棟ロビーに侵入!!!さらに奥へと動き始めました!!!」
「んなァアにィイ〜!!?中へェ!!?そうか!!ローだな!!あいつらを檻から出しやがったのはァ!!!」
部下からの報告で慌てふためくシーザーを見て、シノは「ふふ」と笑った。
喉にこびりついた血が邪魔をして、少し咳き込んでしまっったが。
「ヴェルゴの奴ァ何してんだ!!」
ヴェルゴは既に、ここにはいない。
奴はシノの心臓だけを持って、ローと海軍その他の討伐に向かったからだ。
嵩張るシノは邪魔になるだけ。
それならば、いざという時の人質として、シーザーのもとに動けない本体を置いておこうと。
モネが倒されたことは、ヴェルゴはとうに知っている。
彼女の任務がシーザーとその研究を守ることならば、ヴェルゴが一時的にしろ引き継がざるを得ない。
そして、彼自身の海軍での立場を守るためにも、正体を知ったスモーカーたちを生かしておけない。
ヴェルゴはシーザーを守る保険としてシノを残し、侵入者を皆殺しにするつもりだ。
シノは誰にも気づかれないまま、能力を使った。
(”エコーロケーション”)
すると、シノの頭の中に、この研究所で起こっていること全てが音情報として流れ込んでくる。
―――シノにつけられた海楼石の手錠は、ローの入れ替えていた偽物だった。
(ゲートが封鎖された…少し取り残されているのは海軍かな。キャプテンはどこだろう…多分ヴェルゴはキャプテンから殺しに行くはず…)
ローの戦いはわかりやすいので、戦っているのであればすぐにわかる。
今の所、大きくスパスパ切れているような場所もないので、ヴェルゴはまだローの姿を捉えていないと考えていい。
(”SAD”製造室……いた!!キャプテン)
間をおかずして、館内放送でもローの製造室侵入が叫ばれる。
となると―――製造室に向け、高速で移動する何かを探知した。
”エコーロケーション”は超音波を発して反響から索敵、監視を行う技であるが故に、一定以上の…例えば黄猿のような、音速よりも速い移動速度の物質は捉えきれないという欠点がある。
この高速で移動する”何か”は、黄猿程ではないにしろ物凄い速さで、姿形を事細かには捉えきれないが――声までは誤魔化せない。
(この大きさ…状況から、元々ヴェルゴ以外に考えられないけど…)
電伝虫で誰かと話しているようだ。
置いていかれた音の筋から、会話の内容を辿る。
(ドフィ?)
……って誰だ?とシノが思っていると、何かが近づいて来たのがわかった。
それはヴェルゴと同じくらい凄まじいスピードで、扉を蹴破った。
「もう逃がさねェそオオオ〜〜!!!!シ〜〜ザァアア〜〜!!!!」
「シュゴォーー!!!」
「……麦わらの…ルフィ君……」
突然の乱入者にシノは、ぽかん、と瞬きをした。
ここで少し時を遡る―――檻の中にいた面々は、全員一瞬のうちに研究所に瞬間移動させられていた。
ローの能力である。
彼はルフィ達の鎖を斬ると、再び作戦続行を告げた。
「お前らは予定通りシーザーを誘拐しろ。今度こそしくじるな」
「おおっありがとうトラ男!!それよかあいつは無事なのか!?あのちっこい奴すっげえ血ィ吐いてたぞ!!」
「知ってる…その前に」
ローは、未だ鎖を斬られていない海軍2人の精神を戻した。
「きゃーー!!!」
「何を女みてェな声出しやがって小娘が…」
あの出で立ちではそうならない方がおかしいが、それを言っている場合でもない。
次いですぐさま命乞いをするたしぎをスモーカーは責めるが、たしぎに言い返されれば黙るほかなかった。
「女の方がいくらか利口だな」
ローはスモーカーの心臓を”メス”で抜いた。
「白猟屋。お前を助ける義理はねェが」
「!!てめェっ」
「お前らが生きて帰ることでヴェルゴが立場をなくせば、おれにも利がある。ただし―――」
ローは、鎖で繋がれたまま転がるスモーカーたちを見下ろし、片手で弄んでいた心臓を手のひらの上で止めた。
「ヴェルゴからあいつの…シノの心臓を取り戻すまでは余計な真似はするな。万に一つ、てめェらの行動であいつの心臓になにかあったら……わかるな」
スモーカーの心臓に、ローのタトゥーだらけの指が絡む。
指輪についた宝石の土台のように。
「――……ああ」
「よし」
懐に心臓を仕舞ったローは、スモーカーとたしぎの鎖を斬る。
「全てが終わったら心臓は返してやる。それまではおれとコイツの一味の邪魔は…」
と言いかけたところで、コイツ…即ちルフィの姿がなかった。
焦ったローが気配のする方を見れば、既に遠くの方で防護服を着た兵士を倒していた。
「おい!!何を勝手に……あてもなくさまような麦わら屋!!!まずは研究所のシャッターを開けなければ、お前の仲間も死ぬぞ!!!」
「えーーっ!!?そうなのかーーーっ!!!じゃあそれどっちだーーーっ!??」
「大声を出すなっ!!!」
「そう言うお前も大声だけどな」
「フフ」
「見つかりたいのか!」と憤慨するローとは対照的に、フランキーとロビンは暢気と言われても仕方のない落ち着きぶりである。
「それよりおれはサニー号を何とかしてェんだが」
「勝手にしろ!!」
多少ルフィのペースに振り回されつつも、ローは彼らを率いてシャッターを開け、滑り込んできた全員に脱出の道しるべを残してきた。
それぞれが、それぞれの目的のために走り出す。
ローもまた、目的の場所へ向かう。
「おいロー。てめェどこへ行く」
「おれの勝手だ」
「そこにヴェルゴがいるのか」
「ヴェルゴはいねェが―――すっ飛んで来るだろうな…血相変えて」
「おれも行く」
「好きにしろ……行き先はD棟”SAD”製造室だ」
「!」
一足先に能力を使い、ローは姿を消した。