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ローが”SAD”製造室へ侵入して間もなく、ヴェルゴは現れた。
「どうやらいい子で待っていてくれたようだが……どの道死ぬことに変わりない」
「それはお前の方だ。ヴェルゴ」
「ヴェルゴさんだ」
サングラス越しにでもわかる苛立ちを滲ませ、ヴェルゴは心臓をこれ見よがしに掴んだ。
届かない悲鳴と苦痛を思い浮かべたローが、それをひどく睨めつける。
「”ROOM”!!!”シャンブルズ”!!」
瞬く間に広がった円。
ローの手に心臓が一瞬戻る。
そこへすかさず、ヴェルゴの蹴りが襲う。
「ゲホッ!!」
ヴェルゴに蹴り飛ばされたローの手から、心臓が落ちそうになる。
だが、ここで離すわけにはいかない。
「(痛ェだろうが……我慢しろよっ!!!!)」
滑り落ちてゆくそれに指を伸ばし、けして離さないよう掠め取って掴む。
受身を放棄し転がりながら、強く抱え込んだ。
――自分の心臓なら、おそらくこうはいかなかった。
掴んだ瞬間、胸の痛みにのた打ち苦しんだことだろう。
それどころか、取り返すことすらままならなかったはずだ。
先程のシノのように…
『シーザーとモネだけならともかく……あいつが来るとなると、心臓をとられたままじゃ勝ち目がねェ』
『そんなに強いの?』
『ああ…おれも昔、奴には借りがある。それにあいつの覇気はかなりのものだ。お前じゃ太刀打ち出来ないかもな』
『それじゃあ……やっぱり私の』
『はァ?ふざけんな。言ったはずだ。んなもんいらねェ』
『でも』
『時が来たら適当な奴の心臓を身代わりにする。それでいい』
『よくないよ。もしかしたら身代わり用意する余裕がないかもしれないし、やっぱ私の心臓にしといた方がいいって』
『くどいぞ』
『キャプテンがね』
『……』
『いひゃい…』
さらに追い討ちをかけてくるヴェルゴの一撃を背に受ける。
吹き飛ばされ、出来た距離を利用してまた距離をとり、続けざまの攻撃を能力で避けた。
仮にもし、これがローの心臓のままだったなら、事前に適当な心臓と入れ替えることもしたかもしれない。
が、出来なかったかもしれない。
やるとすればヴェルゴ到着の直前だが、実際は海軍G−5との戦闘や麦わらの一味というイレギュラーの存在で、事態は大きく変わった。
身代わりを用意する余裕はなかったかもしれない。
『……絶対そっちのがいいもん。私じゃ勝てないかもしれない相手でしょ?』
『その時は自分で取り返す』
『心臓盾にされて?私の心臓の方がいいに決まってる。だって―――』
「まさかあえて攻撃を受けてまで部下の心臓を取り返すとはな……ぬるい」
「フン……おれのクルーの心臓はおれのものだ。自分のものを取り返して何が悪いヴェルゴ!!」
「”さん”だと言うに……このクソガキ……っ!!」
ヴェルゴの全身が黒くなっていく。
かつて手酷い借りがあったというのに、ローは不敵な笑みを見せ、それがさらにヴェルゴの怒りを買っている。
「”ジョーカー”からの伝言だ…『残念だ』と……!!!お前の嬲り殺しは既に決定している……生まれてきたことを後悔させてやるよ」
「お前がな!!!」
『いざとなったら、私の心臓はキャプテンが取り返すから大丈夫だよ』
出会い頭にローに奪われ、あれだけビビッて泣いていたくせに。
ともすれば、他力本願のようにあっけらかんと言ってのけたシノを、あの時はつい鍔で殴ったが…
強引に船に乗せたローを嫌い、口も利かなかった人見知りの野生児が、覚悟を見せたのだ。
「うちの管制官に手を出しといて―――タダで死ねると思うなよ」