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ルフィとシーザーの戦いは、圧倒的に前者が優位であった。
”無空世界(カラクニ)”の有効範囲はゴム人間のルフィにはさしたる問題ではないし、毒系の技も効かないうえ、覇気使いでスピードも段違い。
見聞色どころか武芸はからっきしのシーザーには、ルフィの速さを捉えきれていなかった。
外なら空気中にいくらでも分散して逃げ切れるだろうに、この密閉された研究所ではシーザーのガス化は本領発揮出来ていない。
あのひ弱なシーザーならば、一撃でもくらえば致命傷ではないだろうか。
今もやっとのことで攻撃を避けているが、いつまで続くか…
となれば、シーザーが次にとる行動は予測できた。
シノの方にバッと振り返ったシーザーは、戦っている相手のルフィではなく、シノに向かって”無空世界(カラクニ)”を使った。
「っ!!」
「あーっお前っ!!!」
「シュロロロロ!!」
シーザーはシノを盾にし、ルフィと向き合う。
「おいコラ麦わらァ〜!!コイツの命が惜しかったら動くんじゃねェぞォ〜〜!!!」
シーザーの”青炎剣(ブルーソード)”が、シノの首すれすれに当てられる。
ルフィは慌てて出した拳を引っ込めた。
「シュロロロロ…ローへの人質として置いといたが、思わず役に立ったな」
「っ……」
「お前!!おいっそいつはトラ男の大事な仲間なんだ!!!手ェ出すんじゃねェっ!!!」
「バ〜カめ!!だから人質なんだよ…!しかしまァ…いかに同盟相手とはいえ、本当に拳をおさめちまうたァ……ガキだな」
「マスター!!」
「ご無事ですか!?」
そこへ、防護服に身を包んだ兵士達がたまたま騒ぎに気づいたようでやって来た。
「おお!!お前達来てくれたか!!」
「おのれ麦わらァ!!」
「おれたちのマスターに性懲りもなく…!!」
騙されている結果とはいえ、彼らの忠誠が立ち止まったルフィへと銃口を向ける。
彼らは気づかない。
「っち!来たのがヴェルゴだったらともかく…あの雑魚共じゃなァ…」
彼らの到着を喜ぶフリをして吐き捨てられた言葉が、嫌でも耳に入るシノの顔が余計に歪む。
シーザーは、両手で小さな火を灯す。
「そこを動くなよ麦わら!!”燃焼系”……”ミオークGAS(ガス)”!!!」
「うおゎっ!!!」
「って避けてんじゃねェーー!!!」
「変な剣がなくなって良かった…!!」
ルフィに向かって放たれた凄まじい炎。
くしくも、そのおかげでシノに突きつけられていた”青炎剣(ブルーソード)”がなくなり、ルフィも遠慮なくそれを避ける。
そして炎は、ルフィの向こうで銃を構えていたシーザーの部下達を巻き込んで燃え盛る。
「ひィーーーっ!!!」
「マスター!!?こっこっちにうぎゃああああっ!!!」
「ちっ!!ゴミクズ共がいちいちうるせェんだよ!!どのみち役に立ちゃしねェくせに」
この醜い言葉が、彼らの耳に届いただろうか。
彼らは泣き叫びながら炎に巻かれて倒れてゆく。
「何だとっ!!?こいつらお前の仲間だろ!!!」
「はァ〜〜〜?このおれ様がこォんなクズ共と仲間になんてなるわけねェだろボケ!!こいつらはなァあのガキ共と同じ!!おれの研究の礎となるためだけにあるモルモットだ!!」
「……」
「そうすることでしか価値もねェ社会のゴミ共を…そのためにおれが拾ってやった!使ってやってるんだ!おれの踏み台になれるんならそりゃ喜んで死ね……!!!シュロロロロロロ!!!」
馬鹿笑いするシーザーには、あの気迫がわからないのだろう。
ルフィから発せられる底知れぬ怒りを、シノは本能的に感じて身震いしそうになる。
ハンコックが焦がれる少年は、さすがに4億の首に相応しい。
(”小さなアリア”)
両腕を黒く染め上げたルフィの耳に、声が届いた。
「まったくこいつらのバカさ加減には目出度過ぎて呆れるぜ…こいつらが死に掛けた4年前の暴発事故もおれの仕業だってのによォ!!」
再び握られた青い剣が、シノの首に向けられる。
人質が有効だと思っているシーザーは、ルフィの動きに気づきすらしない。
(『私は大丈夫……だから』)
「!!!!」
黒い拳の一撃が、迷いなくシーザーに叩き込まれる。
(『打って……!!』)
シノの姿はなくなっていた。