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ベガパンクの”元所長室”―――通称”秘密の部屋”にて、これまでのシーザーの悪行を記録させた電伝虫を取り出すシノを、ルフィはつまらなさそうに見ていた。
「何だァ〜それ?」
「下種の記録」
「ふーん」
鼻をほじってどうでもよさそうなルフィ。
このままじゃ飽きて、すぐにでもどこかへ行きそうだ。
シノはたくさんあるモニターをつけると、彼の興味を引きそうなものを指差した。
気持ちとしては、特撮モノを見せて子供の気をそらす親のそれである。
「ホラ、君の仲間がいるよ」
「ホントだ!!あいつら…ガスに呑まれそうだ……!!」
モニターに向かって一生懸命仲間を応援しているルフィ。
シーザーは喋る気力もないようだったが、やがて研究所全体に流れてゆく己の本音の数々に、顔色を失くしていった。
『まったくこいつらのバカさ加減には目出度過ぎて呆れるぜ…こいつらが死に掛けた4年前の暴発事故もおれの仕業だってのによォ!!』
ヴェルゴを倒したローは、丁度良くやって来たスモーカーの手を借り、”SAD”の運搬用トロッコを引いていた。
「何だこりゃァ…」
「うちの管制官の仕業だな…シーザーを捕獲出来た証拠だ」
『お前の顔はもう見たくねェっ!!!!”ゴムゴムの”ォ……!!!”灰熊銃(グリズリー・マグナム)”!!!!』
『イゴベガッ!!!』
「―――元々捕獲が終われば…シーザーの信用を失墜させ、匿名で海軍に通報するつもりだった……ガキ共のこともあったしな」
「ハッ…お優しいこって」
「おれじゃねェ」
シーザーの信用を落として混乱を招けば、”SAD”のタンカーを拝借して脱出するのに好都合だった。
その後の元囚人たちはどうでもいいが、薬物実験されていただけの子供はせめて通報してやってもいいか、とあの人見知りが言うからだ。
まあ、それで作戦に支障があるわけではなし、と許可を出した。
ローとてそこまで非人道的ではない。
だがここには呼んでもいない海軍が既におり、子供達を守ろうとする甘い海賊もいる。
結局はいらぬ世話となってしまった話だ。
こうなってくると、いよいよこのトロッコも盛大に役に立つのだろう。
麦わらの一味のおかげで、あの茶ひげ然り…シーザーの本性は思ったより知れ渡りつつある。
海賊海軍、子供達だけではなく、元囚人たちも加え、大勢乗せることになりそうだ。
「ホギャーッ!!シーザー!!?」
海楼石の錠を探してさまよっていたウソップが発見したものは、たくさんのモニターのついた部屋で繋がれているボロボロのシーザーだった。
パンくずの足跡のように、倒れている兵士たちが増えていくのを不審に思って辿ってきたウソップは、先程の放送が正しければ近くにルフィがいるのでは、と視線を動かす。
立っていたのは、シーザーの鎖を握っている小さな少女だけだった。
「!おいお前、ここの研究所の奴…じゃねェよな?もしかしてシーザーに捕まってた子供………でもねェよな」
捕まってるのは、シーザーの方だ。
しかも瀕死。
「なあ!!さっきの放送……うちの船長がそいつを倒したんだろ?ルフィはいねェのか?」
「……」
ウソップが問いかけるごとに眉を寄せるシノ。
彼が麦わらの一味であることは、近づいてきている段階で何となくわかっていた。
ここには彼の船長もいることだし、シノは放っておいたのだが……
「いない……?」
今しがたここでモニターを見ていたはずのルフィの姿が、忽然と消えていたのだ。
「……」
「……」
シノとウソップの間で、不自然な沈黙が流れる。
シノは嫌々、鼻の長い男に答えた。
「……どっか行った」
内心やっぱりか、と思ったウソップは、何だか疲れた様子のシノに同情を禁じえなかった。
「あー……うちの船長が世話をかけたみたいで……すまん!」
シノは少し考えてから、ゆるゆると頭を振った。
彼のペースには思わず挫けそうになったものの、ルフィはシーザーを倒してくれた。
正直さっきまで死にかけていたシノだけでは、シーザーの捕獲はこれ程スムーズにいかなかっただろう。
シノはキョロキョロと往生際が悪いシーザーの鎖をきゅっと引いた。
「グエッ!!」
「(コレに勝てなかった…なんてことは死んでも有り得ないけど…)」
「…っぐゥ……っ」
シノに無言で睨まれ、黙るシーザーだった。