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「おい―――これは返しておく」

「!」


ローがポイッと軽く投げてよこしたのは、スモーカーの心臓だった。
相変わらず果物並みに適当にポイポイ扱うそれに苦い顔になったのはシノだけではなく、スモーカーもまた眉間の皺を深くしてそれを自分の胸に戻していた。

見ていたシノは、いつの間にこの人の心臓を…と不思議に思い、ローを見上げる。
別に答えが欲しかったわけじゃないが、ローはフイと顔を逸らしてしまったので、シノはきょとんとするばかりだ。


「?」

「………お前のは後で返してやる」


そうじゃないんだが……言われて、そういえば、と思い出す。
しばらく無かったので慣れきっていたが、心臓なかったんだった。

そんなことをぽけっと考えているのがわかったのか、頷いたシノを見下ろすローの目には、呆れが多分に含まれているような気がした。





外の光が差し、ナミがガスを吹き飛ばすと、一気に視界が開ける。
シノからすると、やけに近代的…どころか、未来的なロボに目を輝かせる男達。
中には人が入っているらしいが、それなんてガン○ムって話である。
ドフラミンゴの部下達が墜落するのを見ながら、シノは改めてこの世界の科学力に疑問を感じた。



トロッコから降りたシノは、背負った包みを持て余して、うろうろと視線を彷徨わせていた。
誰かにコレを預けたいのに、誰にどう声をかけたらいいのかわからないのだ。
出来るだけ人と目を合わせず喋らず、迅速に済ますにはどうすれば…と人見知りらしく思い悩んでいると、ナミとたしぎが話す声が聞こえて、シーザーを引きずったままそちらへ向かう。
シーザーの悲鳴を足音のように響かせて行くと、たしぎがナミに頭を下げているところだった。



「お願いします!!子供達の事私に預けてくださいっ!!!」



シノはこの時、素直に驚いていた。
この世界に疎いシノにとって、海軍とは天竜人の作った政府の下部組織―――世界貴族の私設軍のように捉えられていたからだ。
シャボンディでは、天竜人のために世界で3人しかいない海軍大将を惜しげもなく遣し、その派遣もまた早かった。
まあ、ピカピカの実の能力の恩恵とも言えるが。


「(天竜人の奴隷には目を瞑るのに、誘拐された子供達は助けるんだ……)」


身分や権力から発生する差別には阿るものの、人道的なことも行うらしい。
皮肉ではなく、シノはただただ驚き、感心していたのである。
海軍の中にも、こんな風にか弱い存在に目を向ける者がいることに―――


「(海賊になった私が偉そうに言えることじゃないけど……)」


G−5らと行動を共にし、海軍の心象が大きく変わったのは事実であった。
なら、コレもあの人に…とシノは包みを握る手をぎゅっと握りしめた。

ナミは少し渋りながらも、彼女の意気込みに負けたのか、子供達のことを託していた。
シノもこれに乗じようと、その場を離れようとするたしぎの前に姿を現す。


「!あなたは」

「…あの………っこれ…!!」


たしぎは、突然現れたシノ(とシーザー)に目を見張り、躊躇いがちに差し出された大きな包みとシノを見比べる。


「これは……?」


というか、何故彼女が自分に…しかも、何を差し出しているのかわからず、たしぎは首を傾げる。
そもそもこの包みは一体。


困惑するたしぎとの沈黙が辛い。
シノは焦れ、再び「……ん!」と握った包みを強調する。


「シノ?何それ?」

「!」


代わりに包みを開けたのは、何故かナミである。
泥棒猫の異名は伊達ではないらしい。
好奇心いっぱいにひったくられ、シノは絶句した。

そうじゃないのに…
女海兵さんにあげようとしたのに。
違うのに!

というのがよくわかる顔で自分を見上げるシノに、てへっと舌を出すナミ。
海賊から差し出された正体不明の物体に戸惑っていたたしぎとしては、ほんの少し安堵した。
そして、はしたないようではあるが、開けられたそれを後から覗き込む。


「!!これは」

「何よ〜〜!!お金じゃないじゃない!!」


重さや感触で可能性は低いとしていたが、ナミは中身を見て大きく落胆していた。
せめて気の利いた財宝とか入れときなさいよ!と誰に向かってか、内心でブスくれる。


「もしかして……私達の電伝虫ですか!?」


シノはこくりと頷いた。
中身は大量の電伝虫―――海軍との戦闘時、ローが奪ったものだった。
ナミは「お宝じゃないならいいわ」とあっさりたしぎにそれらを押し付ける。
ぶっちゃけ、袋の中でうようよ動くそれらは非常に気持ち悪かった。
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