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「おいしいねぇ」

「……」


湯気を立てるスープをはふはふと味わい、幸せそうに頬を緩めるシノに対し、同意も何もないローとスモーカーはただただ器を傾けた。
こんなにおいしいものを食べておいて、なんたる仏頂面であろうか。
何やら腹の探りあい、小難しい話をする男共を差し置き、シノはスープを飲みきると、新たな食料調達へと繰り出していった。
シーザーはローの目の届く所に置いてある。



「あっお前!」

「ふ?」


音速で骨付き肉他、とりあえずおいしそうなものを片っ端から集めて両手に持ったシノは、自分より遥かに下から聞こえる声に耳を傾ける。
仲間内以外、誰に話しかけられようと無視か無言がデフォルトのシノが、骨付き肉を銜えていても振り返ったのにはきちんと理由があった。


「にゃに?ひゃぬひゃろひゃん(何?タヌ太郎さん)」

「タヌキじゃねェよ揃いも揃って!!っつーか変な名前つけんな!!おれはトニー・トニー・チョッパーだ!!」


タヌキだから。
…だったのだが、違うらしい。
揃いも揃ってとは何のことだ?と首を傾げるシノに、チョッパーは自分がトナカイであると念を押す。
ローの二の舞はゴメンなのだ。

シノは口の中のものを食べきると、チョッパーに合わせて屈んだ。


「私シノ。君みたいに口達者なタヌキは初めてだよ。よろしくね」

「おう!よろしくー…ってだからトナカイって言ってんだろ!!お前ら人の話ちゃんと聞けよな!!ルフィか!!?」

「あっそっか!ごめんつい…」


小さな蹄をとって握手をしたが、怒ったチョッパーによって振りほどかれてしまった。
久しぶりにベポのような動物と話せたことで、つい嬉しくて気が緩んでしまったようだ。
シノは眉を八の字にして謝りつつ、遠くにいるベポがまた恋しくなった。


「そっそれよりお前心臓は大丈夫か?ローは無事取り戻せたんだよな!その後の経過はどうだ?」


一方チョッパーは脱線してしまった話を戻しつつ、思いのほかしゅんとしてしまったシノにあわあわと両手を大きく振った。
シノはそんな、愛らしい自称トナカイに笑顔で答える。


「うん!大丈夫だよ。だってキャプテンが持ってるもん」

「そっか!ローが持ってんなら大丈夫かァ……ってえええええっ!!?お前自分の心臓まだ戻ってないのか!?」

「うん?ああ…キャプテン後でくれるんらっへもぐもぐ」

「あっさりしすぎか!!」


しかも最後のほう思いっきり食うの再開してんじゃねェか!
チョッパーはガクッと両手をついた。

軽すぎる。
心臓を直接殴るという一歩間違えば即死してもおかしくない仕打ちを受け、あれだけ血を吐いてのた打ち回っていた人物の言葉とは思えないほどの軽さだ。
あんなひどい状況を見ていることしか出来ず、モチャ達のことがありながらもずっと頭の隅で気にかけていたチョッパーは、一気に気が抜けた。
先程も思ったが、まるで一味の誰かを彷彿とさせるような、ぽよんぽよんの軽さを感じる。


「もしかしてチョッパーは医学に詳しいの?お医者さん?」

「そうだぞ…お前……心臓は大事なんだぞォ……!!」

「えっあ…アハハ……」


笑って誤魔化そうとするシノに、恨めしげな目をするチョッパーだった。
本当は、ローにもひとつくらいお裾分けしてもいいかなーとたくさん持っていた肉をひとつ、チョッパーに差し出すシノ。
それを「誤魔化されねェからな!」なんて言いつつ受け取るチョッパーと一緒に、シノもぱくりと頬張る。


「おいひいねぇ…」

「まァな!サンジのメシは最高なんだぞ!」

「あのクネクネしてた人…ちょっと怖かったけどすごいんだね」

「うっ…ま、まァな…」


だからこそスープの列に再度並ぶことはしなかったシノだが、この腕はなるほど自慢するだけはある。
女好きのコックが、どんな調子でこの少女相手にスープをやったのか大体想像がついたチョッパーの表情は固い。


「キャプテンもお医者さんなんだよ」

「ああ」


チョッパーはその言葉で、先程ローが子供達の体内から薬を大幅に取り除いてくれたことを思い出した。



「だからね、私も大丈夫なんだよ」



この曇りのない笑みの向こうに、『何としてでも取り戻す』と言っていたローの言葉が蘇る。


「そっか」

「うん」


再び肉に口を付けつつ、やはりどこか少し…この少女はルフィに似ている、と思うチョッパーだった。
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