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シノがローのいたはずの場所へ戻ると、シーザーがさっきよりも虫の息で海軍に取り囲まれていた。
普通ならここで、苦労して手に入れた人質の安否を気に掛けるところであるが、シノは動じることなく「…もう返してくれる?」と仕方なく話しかけた。


「ああ!もういいぜ嬢ちゃん」

「仲間を助ける方法がわかったからな!!」


頷いたシノは、顔にペンチなどをくっつけたままのシーザーの鎖を引いてその場を離れた。
現在の状況を一言で言うならば、『ドフラミンゴの追っ手が迫る中の宴会中』である。
シノの索敵は広範囲で行われ、チョッパーとの会話の最中でも、島及び近海の状況は概ね把握していた。
ローもドフラミンゴの仲間に何か細工し終え、宴もお開きになりつつある。
いつでも出発できるよう、一足先にメリー号に乗ったシノは、甲板の手すりにシーザーの鎖を繋いだ。
すると子供達とたしぎの乗ったタンカーが出発し、麦わらの一味とローも続々と船に乗り込んでくる。



「おいトニー屋。医療室はどこだ」

「こっちだぞ!シノの診察すんのか?」

「そんなところだ…シノ!」

「はーい」

「早く来い」


ぱしっ!


声を掛けられたシノがキャッチしたのは、放物線を描いてゆっくりと落ちてきた心臓である。


「アアアアアーーーっ!!!しっししししし心臓投げっ投げ……っいっ医者ァ〜〜〜っ!!?」


それを見てパニックになったのは他でもない医者のチョッパーであり、心臓の持ち主であるシノは、この扱いにちょっぴり慣れてしまっていた為、苦笑している。


「はっ!!医者おれだァ〜〜!!」

「おれも医者だ。ガタガタ騒ぐな……あそこか」

「患者の心臓投げる医者がどこにいんだよォっ!!!コノヤロー!!」

「仕方ないよチョッパー君…だってキャプテンだもん」

「仕方なくねェ!それ仕方なくねェよォ〜〜!!!」

「借りるぞ」


あまりの衝撃で廊下で泣き崩れるチョッパーを置いて、医療室を見つけた長い足がさっさと中へ入っていく。
シノは何だかチョッパーに申し訳ない気持ちになり、冷たい廊下から小さい身体をそっと抱き上げた。


「あの…なんか、ごめんね……」

「うっうっ……こっちこそごめんなァ…シノ…」


チョッパーは先程のやりとりで、シノの心臓に対する扱いが軽すぎると怒ったが、ローの方が医者のクセに余程ひどい扱いをしている。


「お前…何かあったら言えよ!何でも相談に乗ってやるからな!!」

「?うん」


溜まった涙を蹄で拭いて、キリッと見上げるチョッパーに頷いて、シノは心臓を戻してから、ヴェルゴに尋問された時に出来た傷などを治療してもらった。
心臓が痛めつけられたせいか、しばらくは体力を使うような運動をして負担をかけるような真似はするなよと言われたが、船旅でその可能性は低いだろう。
ローもそう考えていて、念のためと前置きしている。
ローとしてはそこで終わり。
あとは、ヴェルゴとの戦いで手来た自分の傷を自分で診るつもりだったらしく「もういいぞ」という遠まわしな『出て行け』を宣告された。

が、この医療室(城)の主はシノが抱っこした、この自称トナカイのタヌキ先生なのである。


「じゃあチョッパー先生。キャプテンをお願いします」

「おう!まかせろ!!」

「ぁあ?いらねェ」

「お医者さん2人いるとこういう時いいね」

「そうだな!(はっ!?おれ今”先生”って……!!)へへへっあんまりホメんなよ〜〜コノヤロォ〜〜」

「お前ら…」


ローの手が絶対に届かない背中などを治療していくチョッパーと、彼の手が届くように持ち上げて助手をしているシノは、ローの拒否など聞いちゃいなかった。


治療を終えて着替えたところで、ローの仕掛けておいた電伝虫に反応があった。



「(キャプテンまた悪い顔して…)」



一応通話先のドフラミンゴの音を聞き漏らさぬようにして、受話器を置いたローに続いて甲板へと向かう。
1人で余所のお宅を歩き回る勇気は、シノにはないのだ。
ローの背後をカルガモの親子よろしくついて行き、甲板を出たシノはチョッパーの姿を探した。
ロー以外、シノがマトモにコミュニケーション出来るのは彼くらいなので当然の行動である。
キョロキョロと見渡すシノがチョッパーの姿を見つけた時、この船きっての女性専用スカ○ターを持つ男の目がカッと見開いた。


「ふぬォオオオオオ!!!不意打ちボイン〜〜〜っ!!!?」

「っ!?」


気候に合わせて薄着になっていたシノは、唐突な雄たけびと飛び散る鼻血に恐れおののき、瞬時にローを盾に隠れた。
ぷるぷると震えているのは人見知りのせいだけではない。
ローは仕方なく壁になってやることに甘んじ、これからの航海を思い、帽子の陰で眉間の皺を深くするのであった。



*********

もしも本編13で、ローが管制官をぼっち潜入させなかったら…のPH編、これにて完結です!
皆様ありがとうございました。


ちなみにですが…我らがラブコックは当初、コートでモコモコになっていた管制官は外見からレディ予備軍だと思っていました。
ただし本能はレディ枠であるとアンテナがビンビン立っていたので、スープを取りに来てくれた時にはハートの煙を大量生産。
自分でも守備範囲が広がったのだろうか?と一瞬思ったりしていたところ、甲板でドキュン。
本能はやはり正しかったことを悟ったサンジでした。
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