IF
□IN FILM"Z" IF モドモドverキャプテン
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「キャ、キャプテン…」
「14歳…」
「なんだ」
小さくなったのに、目つきと威厳だけはそのままという、何とも可愛くないトラファルガー・ロー14歳。
下手に刺激したくないので、シノとベポ以外は遠巻きに縮んだ船長を見守っている。
「シノより大きいね」
「当たり前だ」
がびん!となっているシノをよそに、ローはしれっとしている。
ベポは「じゃあシノの服は入らないかぁ」と頓珍漢な事を言った。
「たとえ入ったとしても女物なんか着るか。適当に何とかする」
「…で、その適当がこれなのね」
針と一緒にチクチクとぼやくシノを無視して、ローは「早くしろ」とふんぞり返っている。
大人の時は身体にフィットしていたTシャツはだぼっとしていて、ジーンズも裾を捲くり、ベルトで無理矢理にウエストを合わせている。
現時点でもシノより少し目線が上なくせして、これであと30cm近く伸びるのかと思うと妙に憎たらしい。
縫い目が粗くなりそうな所を、そうなった場合のローの反応を想像して平常心を心がける。
シノの頭の中の自分がどういう顔をしているか知る由も無いローは、やけに強張った顔で裾直しをしているシノを不思議そうに見ていた。
―――その様子を、あたたかく見守るトーテムポール達がいるのはお約束である。
「いいなあ〜いいよなあ〜今のキャプテンとシノ」
「ああ。同年代のカップルって感じで微笑ましいよな」
「?キャプテンとシノって元々年近いよ」
「ベポにはわかんねェかァ〜〜」
「熊だもんな」
「ああ熊だからな」
「熊ですみません…」
「「「「打たれ弱っ!!」」」」
一番大きいくせに、一番肩を窄めてしょんぼりさせて圧し掛かってくるベポに潰される出歯亀達も必死である。
大声でも出せば、たちまちローやシノに睨まれるのは目に見えているから、ツッコミも小声で済ませているのだ。
ここで白熊に潰されてしまえば元も子もない。
「たっ例えばだベポ…!」
「…?」
「お前と同じくらいの年のかわいいメス熊がいたとしよう……」
「ふむふむ」
ペンギンの話に耳を傾けはじめたベポの気分が持ち直し、トーテムポールの下段達が「ふい〜」と息を吐いた。
「そいつが、メチャクチャ年上の目つきの悪いこれぞ大海賊!!って感じの熊に誘拐されたら…!?」
「「「「(どんな熊だよ…)」」」」
「!心配…助けなきゃいかないかもって思う…!!」
「そうだ。それがいつものキャプテンとシノだ」
「そっそうなのか…!」
「「「「そうだ(さすがペンギン…)」」」」
全員で頷くと、ベポはさらに衝撃を受けたようだった。
両手を頬に当て「そんな…!あ!キャプテン大海賊だった!!」という事を思い出して、変な納得をしている。
そこへシャチが「それが見てみろよ」と促す。
「年相応の男女が2人いて…女は繕い物をしている。何それ彼氏のォ〜!?って感じだろ?ああ!おれもあんな彼女欲しい!っつーか嫁さんがしてくれたら超うれしい!!」
「だよな〜」
「「「「な〜」」」」
「ふーん……シノ、何か変な顔して針仕事してるけど…皆ああいうのがいいのか?」
「「「「……」」」」
何故か、極度の近視でも患ったかのような顔でチクチクと縫い目を睨んでいる。
彼女の脳内では現在、曲がった縫い目を見て「下手くそ」と見下すクソ生意気な14歳が想像上で大変な猛威を振るっていた。
「そっそこは…あれだ!照れ隠しだ!」
「そうだよ!自分より大きな服とか見ると女の子ってときめくもんだろ?」
「そうなのか?」
「そうだよ!だってよく彼シャツとかあんじゃん!」
「えーそれって嬉しいの男の方じゃね?」
「はっ!!」
「そりゃまた別の話だって!」
「そうそう…シノってあんま男慣れしてる感じじゃねェし、照れてんだよ!」
男というより、まず人に慣れていないのが我らが管制官である。
「そうなのかなあ…?」
首を傾げるベポには、何が何だかよくわからん話だった。
そしてこのすぐ後、トーテムポール達は14歳になってもキャプテンはキャプテンなのである、と思い知らされる事となるのである。