IF

□IF みんなでゾウへ行きました。
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仲間達より一足先に、ゾウの背に飛んだシノはこの国の音に耳を澄ませ、早くもこの国に好感と懐かしさを覚えていた。
ブーブー文句を言う仲間達が登り終える頃、1人棒立ちになっている大きな背中の横に立つ。
遥か遠い記憶の情景に成り果てていた光景が目の前にあるのだ。
感慨深く鼻を啜る兄貴分の手を持ったシノは、明るく両手でその腕を振る。


「いいところだね」

「うん!!みんな……ここがおれの故郷”ゾウ”だよ!!!」


涙を拭いて振り返るベポに、仲間達は皆あたたかい笑みを浮かべて頷いた。


「私…ここ好き」


シノもそう言ってベポを見上げた。
まさかその直後、ハグを通り越した感激の鯖折りを決められるなど思いもせずに―――



「いい?ベポ君!私が自然系(ロギア)だったから良かったものの…!」

「はい……」


ひとまず中心部である”クラウ都”を目指す事にしたハートの海賊団達が、門を越えて歩いて行く。
歓迎の鐘が鳴り響く中、ベポはせっかく辿り着いた故郷で、プンスカする妹分をしょんぼり肩車していた。


「風で新聞が飛んできたくらい傷ついたから今日はベポ君に乗ってく!!」

「「「「(それ無傷じゃん…!!)」」」」

「うんいいよ!!肩車久しぶりだね」

「えへへ…!」


仲間達の心のツッコミなど知る由もなく、シノは快諾したベポに照れくさそうに笑う。
もうツッコむ事すら馬鹿らしい2人に呆れながらも、ムードメーカーの2人に引っぱられるように、一味も好奇心を刺激されていく。


「うわ〜やっぱここってあの”ゾウ”の背なんだなーー!!地面の弾力慣れねー!」

「おう」

「痛くねェのかな?」

「単純に人間を巨大化させて考えてみろよ。おれら何て蚊みたいなもんだろ」

「たしかに」

「あんな立派な門が立ってるくらいだしね」


わいわいと歩いて行く珍しい外の客人に、森の中から次第にいくつもの目が向けられる。
勘の良い面々はすぐに気づいたが、シノが何も言わない上に、敵意は感じられないので放っている。
通常の島ともまた違うこの”ゾウ”では、余所者は殊更珍しい。
好機の目で見られるのも当然だ。

辿り着いた”クラウ都”では、歓迎の鐘を聞いたベポのようなミンク族が一行を迎えてくれた。
ベポのように皆が熊ではなく、犬や猫や猿、多種多様な種族のようだ。
故郷とはいえ、ほとんど記憶の無かったベポにとって、それはまるで眩しいほどに待ちわびた邂逅でもあった。
ミンク族達は同胞のベポを歓迎してくれたが、ベポが海賊であり、しかも仲間連れという事情も鑑み、彼らは”クジラの森”に身を寄せる事となった。



「――ニャー事情はわかったきに!ゆガラ達の身柄は一旦わしが預かるきに」

「!旦那!!」

「わしの名において仲間とともにこの”クジラの森”への滞在は許す!!ベポとその仲間達もゆっくりしていくぜよ!!」

「旦那ありがとう!!」

「ありがとう!!」

「世話になる」

「ありがとうございまーす!!」


頭を下げるベポをはじめ、ハートの海賊団も礼と喜びの声を上げる。
ネコマムシに目通りする前にベポの頭を降りていたシノも、ベポに習って頭を下げる。


「かまんちゃ。それよりベポ」


声を掛けられ面を上げたベポにつられ、シノもそろりとネコマムシの旦那を見上げた。


「ゆガラよう帰ったのう…!!わしゃ嬉しいぜよ!!!」

「「だっ旦那…っ!!」」

「ん?」


何か1人多くね?と見渡したシャチは、ベポと同じくネコマムシの旦那をうるうると見上げ、胸の前で両手を握っているシノを見つけた。
「よーし宴ぜよ!!!」
「えっマジで?」
ヒャッホー!!と大勢と共に歓声を上げたシャチは後になって「この時のおれマジ冴えてた…!!」と思い出しては、「ならそん時どうにかしとけよ!!」と仲間達から大バッシングを受ける事となる。
この時は誰も…さしもの兄貴分すら気づいていなかったのだから、仕方ないといえば仕方ないのだが…
火を消し損なったと判明した時には既に遅く―――恋の火は、誰の目にも明らかな程燃え上がっていた。
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