IF
□IF みんなでゾウへ行きました。
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「ガ…ガルチュー!ネコ旦那様……!!」
「ガルチュー!!ゆガラは恥ずかしがりのくせして挨拶好きじゃな〜ゴロニャニャ!!」
「…ネコ旦那様に会えたのが嬉しくて…!!」
きゃ!と両手で顔を隠してそっぽを向いたシノを、ネコマムシは「めんこいのー」とニャーニャー笑った。
宴の翌日の事である。
「シノ……?」
「な、何…あれ……」
「シノが…あのハイパー人見知りで一歩間違えばただのコミュ症動物娘が……!!」
一夜にして恋する乙女にクラスチェンジしてた。
一味騒然である。
特に、キャプテンとの仲を一番応援していたベポの嘆きはひどかった。
「どっどうしちゃったんだシノ……!!ままままさかネコマムシの旦那の事…っ!?」
「その……まさかのようだな…ベポ……」
ぽん、とペンギンの手が膝をついたベポの肩に乗った。
ベポの嘆きがさらにひどくなる。
「うそだああああっ!!!!」
「おれ達だって信じたくはねェけどよ…!!でもありゃどう見たって……なァ?」
とシャチが言えば、ペンギンが同意し、さらにバトンはジャンバールに渡された。
「なァ?」
「えっ……あっああ……なァ?」
そして次に標的にされた仲間達が「えっおれ!?…なァ?」「なァ?」と誰しも決定的な発言を避け、隣人に擦り付けていくという最低なリレーが繰り広げられた。
結局は巡りに巡って、最終的にバトンをベポに渡してしまったせいで、余計に白熊は大泣きする。
「うわあああああっ!!!!嘘だよォっそんなの嘘だよーー!!!だってシノはキャプテンと番(つがい)なのにィーーーっ!!」
「いや別に番ってわけじゃ……」
「ていうかシノってキャプテンのお手つきだっけ?」
「聞いた事はないな……だが…その……暗黙の了解というやつだろう?」
ジャンバールの意見に、だよなーと納得する仲間達。
ベポはまだ、わんわんと泣き続けている。
ローは今頃たった1人でパンクハザードで頑張っているはずなのに、それなのに……!!
「わああああん!!キャプテンに合わす顔がないよォ〜〜〜!!!」
白熊が本気で泣き叫ぶものだから、森に住むミンク族達が何事かと寄ってくる。
「何だ?」
「どうした?」
「あっいやその……」
しかも1人は侠客団(ガーディアンズ)の団長ペドロである。
周知の事実となっては、取り返しがつくものもつかなくなってしまう…!とオロオロするシャチ達とは裏腹に、悲しみにくれるベポはそこまで気が回らないらしい。
「うっ…ぐずっ……シノが……おれの妹が……ネコマムシの旦那に恋しちゃったんだよォ〜〜」
「「「「えっ」」」」
「バッコラ馬鹿!!ベポ…!!」
おいおいと咽び泣くベポの頭をシャチがぶっ叩く。
人がせっかく…!という気持ちで鼻息荒くしていると、衝撃の事実を聞いたミンク族達も毛皮の奥でポッと頬を染める。
「そっそうなのか…あの娘……!仲睦まじいとは思っておったが……!!」
「さすがはネコマムシの旦那!!」
「いやさすがじゃねェんだよ!!こっちは大変なの!!マジで!!!」
「む?」
ベポではないが、もしローが帰ってきたときにシノがこれでは、こっちだって困るのだ。
事と次第によってはシノ下船の危機かもしれないのだから。
しかしあの微妙な関係をどう説明したものかと思うのも事実で、もう知られてしまったのだからと不思議がるペドロ達をクルー一同で取り囲み、事情を説明する。
「―――フム……つまりゆガラらのボスとシノは互いに想いあっているが、じれったくも番の一歩手前である…と…?」
「「「「そう!!」」」」
「という事はつまり……シノの浮気……いや…のりかえ?という事か?」
「「「「そう!!……って違ェよ!!!シノはキャプテンのだっつってんだろ!!!!」」」」
「そっそうなのか…?しかし……」
説明された内容と状況からして、正解に辿り着いたはずなのに何故か責められるペドロは思わずたじろいだ。
じゃあ何だというのか。
「そう……あれは浮気なんかじゃねェ!!―――ただの気の迷いだ!!!!」
「それって結局浮気じゃね?」
どん!と拳を握って叫ぶシャチに、ペンギンの容赦ないツッコミが入れられる。
しかし、浮気という定義に当てはまるかどうかは、ペンギン自信疑問ではある。
「まァ……浮気じゃないってのには賛成だけどな」
ただ、シャチの言い分だと浮気の言い訳みたいだからおかしいだけで。
「っつーか元々キャプテンとシノは恋人ってわけでもなかったんだ。浮気は成立しねェよ」
「それはそうだが…」
「何だ……それならばただ見切りをつけただけでは……ナイノカ…?」
最後が思わず片言になってしまったのも、クルーほぼ全員の殺気を向けられては仕方ないというものである。
しかし、ペドロは内心(団長ともあろうものがァ!!)と自己嫌悪に陥っていた。
その間もえぐえぐと泣いていたベポは、涙も興奮も未だ冷めやらぬ様子である。
というのも、彼の手には酒瓶が握られていた。
「って酒ーーーっ!!?」
「昨日の残りよ。何があったか知らないけど今日は忘れて!!強く生きるのよ…!!」
こちらも聞きつけたらしいおばちゃんミンクから、励ましとともに酒を頂いているベポ。
彼があまり酒に強くない事を知っている仲間達は一様に、これは長くなりそうだ、と天を仰いだ。
願わくば、早く寝落ちしてくれまいか。
「うっ…うっ……もうキャプテンがはっきりしないのが悪いんだあああ!!!」
「ああそれはたしかに」
「一理ある気がする」
酒のせいで大好きなキャプテンに矛先を向けてしまったベポであるが、逆にクルー達はなるほど、と頷いた。
シノとの付き合いも、何だかんだで数年になるのだ。
当初はまあ、仲間になった経緯もあるし、お互いの性格もあるし、何しろシノがロリだしで色々無理があったけれども。
それらを乗り越えてからどれだけの月日が経つというのか。
船内の風紀以前に、自分以外がシノに過剰なスキンシップをするのを許さぬわりに、関係の進展が感じられなかった。
「…こうなったらキャプテンが”ゾウ”に来た暁には色々とハッキリしてもらわねェと……」
「だな」
「おれ…シノがキャプテンとかベポ以外に過剰に懐いてんの見るのやだけど……たしかに悪い事してるわけじゃねェもんな……」
一応方針のようなものが決まった所で、問題の方向からゴロニャーきゃっきゃと楽しそうな声が聞こえる。
口では理解のある事をいいながらも、やはり彼らにとって、ローとシノというのはもう決まった組み合わせで、それが崩壊するなんて本来考えたくもないのだ。
考えたくもなかったのだと、改めて気づかされた。
シノも無論、大事な仲間ではあるがやはり、ハートの海賊団にあってトラファルガー・ローという男は特別な存在なのである。
己が心酔するその男の隣にあって相応しいと認められる存在とは、いかに稀有であるのか。
そしてシノにも船を降りて欲しくはない。
一気にしんみりしてしまった海賊達に、ペドロ達も慌ててフォローを入れる。
「彼女は”少ない毛(レッサーミンク)”の小さな子ではないか。愛らしいのは認めるが、仮に彼女が本気だとしてもネコマムシの旦那がそうなるとは限らん…!!ネコマムシの旦那の好きなタイプは同じ猫のミンク族だ」
「はァッ!?てめェうちのシノが嫁じゃ足りねェっつーのか!!」
「表へ出ろ!!!」
「ここが表だ!!何故怒る!?ゆガラらわからぬ事を言うのもいいかげんにしろ!!!!」
「やるか!?」
ついにキレたペドロ達侠客団とハートの海賊団の一部が、やいのやいのと拳や剣を交えていく。
生まれながらの戦士たるミンク族は、それに動じない。
何だかんだ言いつつも、それがただの喧嘩や手合わせの域を出ない事を理解しているからだ。
動揺するどころか周囲も盛り上がりを見せ、新入り達と侠客団の即席試合を囃し立てていた。