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ネコマムシとペコムズに会いに来たルフィと合流したローの背後には、麦わらの一味の倍近い人数のハートの海賊団のメンバーが勢ぞろいしていた。
その中には、ベポを中心に騎馬戦のように担がれた御輿、もとい椅子に腰掛けたシノもいた。
皆でポーズをきめているようなので、麦わらの方をあまり見ないようにしながら、小さく両手を挙げている。
でもやっぱり友達のフィアンセが気になるので、チラ、チラと視線を遣すシノを含め、ルフィは「おう!!」と快活に笑って流した。
そして「話があるんだ」と言うローについて行った。
紹介すると言っておきながら、さっさと同盟相手と連れ立って行こうとするローに、ハートの海賊団達から盛大なブーイングが起こった。


「ぞんざいっ!!!」

「おれらぞんざい!!キャプテーーーン!!」

「ただの『同盟』だ。別に仲良くする必要もねェだろ」


そうだけど!


「キャプテンさすがー」

「シノ!?」


人見知りだけが嬉しそうである。
まだ本調子ではないものの、意識があれば近場の盗聴くらい何でもないので、無理に初対面のルフィと引き合わされるよりは、目も合わせずに一方的に監視する方が気楽なのだ。
しかし、ルフィがシノの名に反応した。


「そーいやさっき聞いたなァシノって…」

「シノ!!意識が戻ったのか!?大丈夫か!?気分は!?熱は!?ちょっと待ってろ!!ネコマムシの処置が終わったらすぐ診るから!!」

「あー!そうそう!お前らをゾウに呼んだ奴だったっけ!」


珍しく人の話を聞いていたルフィがぽん!と手のひらに拳を乗せる。
わたわたとネコマムシの処置をしていくチョッパーを、ローが「必要ねェ」と見下ろした。


「うちのが世話になったな。あいつはさっき診といたが安静にしてりゃ問題ねェ」

「そっそうか!良かった…!!イヌアラシやネコマムシ達を除けばあいつが一番の重傷だったから心配してたんだ」


わりと遠くでされている会話だが、シノには手に取るようにわかる。
磔にされていた者達と敢えて言わない所に、優しさを感じた。
麦わらの一味だという事はわかるが、まだちゃんと会った事がなかったので、シノはこのかわいい先生にお世話になっていたのだという事を今初めて知った。
シノはチョッパーに聞きやすい程度に声を飛ばし、ぺこりと頭を下げた。
御輿の下の連中も倣う。


「ありがとうタヌキ先生。お世話になりました」

「「「「なりました!!」」」」

「誰がタヌキだコラァ!?っつーかお前らは知ってるだろ!!おれはトナカイだ!!」


今会ったばかりのシノ以外、ハートの海賊団には既に間違われた後である。
しかし反省の色はあまりないのか、シノを見上げて「やっぱお前もそう思うよなー!」「だよな!」と同意を得て喜んでいる。
チョッパーは手を動かしながらもそっちを睨んだが、担がれたシノは素直なもので「タヌ…トナカイ先生…ごめんなさい」と頭を下げるので、勢いを殺されてしまった。
尚も間違おうとしたのも気にならないくらい虚をつかれて、次に先生呼びに照れたチョッパーの頬が赤く染まる。


「そっそんな、わかってくれたら別にいいんだよコノヤロがっ!」

「素直な子ね」


子供には優しいナミの目が優しくなるが、彼女はまだ知らない。
シノがナミより年上であるという事を。


「だろォ!?うちの管制官馬鹿素直で可愛いだろォー!!」

「やらねーぞォ!!」


自慢げなハートの海賊団の高いテンションに麦わらの一味は若干引き気味となっているが、何もいつもこう馬鹿騒ぎしているわけではない。
それだけ、シノの目覚めを喜び、ローとの再会が嬉しいのだ。
それがわかっているからシノも、この恥ずかしさに甘んじて耐えている。
御輿のように担がれて、誰かの後ろにも隠れられず、注目されて見せびらかされても、頑張って耐えている。


「あっ!でもうちに来るなら歓迎!」

「美女は歓迎!!」


ただ、俯いて下に見える頭を識別しながら、後で覚えてろよ…とは思った。



「シノ?おおシノじゃないか!!」

「おーい皆ァ!!シノが起きたぞ〜〜!!!」


晒し者にされているせいで、ミンク族達にもシノの目覚めが波紋のように広がっていく。
敵の襲撃を察知し、単独で解毒薬を手に入れ、麦わらの一味をいち早くこの”ゾウ”へ呼び寄せただけではなく、最後には毒ガスの脅威を敵にも浸透させて撤退の一因を作ったシノは、ミンク族達にとって麦わらの一味にも劣らぬ英雄だった。
ベポの仲間で、モコモ公国の国民でもないのに、国の重鎮たちに負けじと傷つき、果敢に立ち向かった戦士の目覚めは、くじらの森のミンク族達に大きな喜びの報せであった。


「シノちゃん無事で良かったよォ〜〜〜!!!」

「良かったなァベポ〜〜お前らも心配してたもんなァ〜〜!!」


おいおいと泣きながら己の無事を喜んでくれる動物達(ミンク族)に、シノもほわりと笑った。


「良かった…皆も無事で…」


シノが最後に見た彼らは、毒ガスによって倒れ伏し、成す術なく蹂躙されていく姿だった。
まだ包帯が目立つものの、この国の多くの命が助かったのだとわかり、シノの目も潤む。
少しは助けになれただろうか。
結局は麦わらの一味によって救われた部分が大きくても、皆が無事を喜んでくれる事が、ほんの少しでも力になれた証のような気がして、シノは嬉しくなった。

すると感激に咽び泣く声が増し、感極まった者達の中から、ガルチューしだそうとする者が。
さすがは生まれついた戦士の一族。
身体能力だけは素晴らしく、感激のガルチューが勢いよく飛んでくる。


「「「「ガルチュー!!」」」」

「わーー!!」

「ベポ避けるぞォ!!」

「アイアイ!!」


ジャンバールがサッとその身を盾にした隙に、シノを連れた騎馬(ベポ)達が逃げ惑い、次々と襲ってくるガルチューを、させるかと仲間達が防いでいく。


「ガルチューさせろよ!」

「重傷だっつってんだろーが!!」

「うちの病み上がりに!!」

「そうだぞ皆!やめろ!!」

「!?ペドロさん…!!」


先ほどルフィに真っ先にガルチューしていたペドロが、サッと間に入った。
やっと話のわかる奴が来たか、とハートの海賊団達が拳を収める。


「おれもしたいが我慢している!!」

「「「「ペドロさァんっ……!!」」」」


興奮さめやらぬミンク族達に、シノは申し訳なく思った。


「ごめんね皆……気持ちだけもらっとくね…」

「「「「シノ〜〜!!」」」」


無事でよかったよォ!!
優しいよォ!!

そんな声が混じった鳴き声を聞きながら、ハートの海賊団の面々はしみじみと思った。


「「「「(こいつ動物的なものには優しいんだよなァ…)」」」」
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