IF

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そんな事をしているうちに集まってきたミンク族達は、ローとルフィの会話を聞いてまた咽び泣いていた。
ロー達の方でも、ドフラミンゴを倒したせいでカイドウの恨みを買っているので、ゾウに長居するのは危険だという。
この国に訪れた悲劇の再来を招くわけにはいかず、シノも心配そうに眉を顰めていた時だった。


「ニャー!!シノが目覚めたちゅうは本当がかァ!?」

「ネコ旦那…!!」


ドドドドドッと病人らしくなく駆けてくる素敵な殿方に、シノの頬は瞬く間に赤く染まった。
「無理すんじゃねェって言ってるだろォオッ!!!」と怒るドクターを尻尾にくっつけて、急停止したネコマムシの足が土埃で隠れ、担がれたシノ以外の騎馬達がゲホゲホと咳をする。


「だっ旦那っゲホッ!」

「おおシノ!!また顔が見れて嬉しいぜよ!!怪我は大丈夫か!?わしは今ちょうど治ったとこがやき!!」

「だから治ってねェっつってんだろ!!ネコマムシ!」

「そんなとこも素敵……」

「ゲホ…ッそうかァ?」


憧れの人にぽーっとなっているシノの下で、騎馬共が首を傾げている。
するとそこへ静かに歩を進めてきた人物がいた。


「おい」

「え?………えっ」

「あれはどういう事だ」


とうとう…この時が来てしまったのだ。
ペンギンは、何でおれに聞いたの…?とちょっとばかり世を儚んだ。

帰ってきた船長が親指で指すシノとネコマムシ。
近づくローの顔が、妙な威圧感を持って見える。

同じく騎馬になっていたベポとシャチは、さり気なく距離をとった仲間達を恨めしく思った。

ち、違うんだよキャプテン。

そんな風に口が動いてしまいそうになるが、言葉にはならない。
正直、何をどう弁解していいのかもわからないのだ。


だって、シノとキャプテンは―――だから騎馬達は、こう口を揃えるしかなかった。



「「「だってキャプテンがぼやぼやしてるから!!!」」」


「―――あ?」


「「「うわあああああ!!」」」


「え?」


突然方向転換して動き出した椅子に驚いたシノが、慌てて手摺を掴む。
ベポをはじめとした騎馬達が、急に「ごめんなさーーァい!!!」と叫びながら走り出したのだ。


「どうしたのベポ君!」

「つい本当の事言っちゃったから逃げてんの!!!」

「「そうそう!!」」

「?」


何で逃げる必要が?
いつも言いたい事言っているシノには理解不能かつ、無縁の逃亡理由だった。
わからない顔をするシノに向かって、騎馬達は口を揃えて言った。


「「「いいよな(ね)シノは気楽で!!!!」」」


どういう意味だ。
またしてもわからん事を言う騎馬達は、ローに命令された他の仲間達によって捕獲され、宴の中へと放り込まれた。


「…宴?」

「はァ…」

「あ、キャプテン」


ローにも、言いだしっぺ達の気持ちはわからないようだ。
ため息をつくローの横顔を、隣に降ろされた椅子から見上げると、微妙に疲れた顔をしていた。
シノはまだ知らないが、麦わらの一味と一緒にいたローは何だかんだで慣れつつある感覚だったりする。

ミンク族達によって、酒や料理がみるみるうちにこの場へ集められていく。
長い間眠っていて何も食べていなかったシノの腹も、匂いにつられて『きゅううう!』と空腹を主張しだした。


「…おいしそう……」


と、つい肉に目がいってしまったシノを「おい」と目敏いローが窘める。


「わ、わかってるよ……!つい…香ばしい匂いが誘惑するから!」

「つい、で手まで伸びるかもしれねェだろ」


お前の場合。

自分でも少し思ったのだろう。
病気の時とは違い、食欲はあるシノは「うぐ…」と口をつぐんだ。


「ニャニャニャニャ!!ラザニア食うたら怪我も治るぜよ!!」

「ネコ旦那!ありがとう…!」


シノの前に、ネコマムシサイズの皿がどん!と置かれる。
湯気を立てる熱々のそれはとても美味しそうで、シノの口の中いっぱいに唾液が広がった。


「悪ィがそいつは後だ。食ってねェうちは液体から慣れろ」

「いっ!」


ラザニアの誘惑を遮り、ローの手がスープの器を持って差し出した。
逆の手ではシノの耳を引っぱって、しっかり釘を刺している。

いつの間に、どこから持ってきたのだろう。
宴の席では物珍しいそれを、すぐに持って現れたローの気持ちと処置を、シノは自然に、呼吸するように、するりと受け取った。


「うん……」


包帯でボコボコする両手で恐る恐る持った器には、優しく香る野菜スープがほかほかと湯気を立てていた。
身体に入れる前なのに、胸がぽかぽかする。



「ありがとうキャプテン……!!」


「――フン」


「ゴロニャニャニャ!!」



聖杯を戴くかのように、ゆっくりと、少しずつ傾く器から目を逸らし、帽子のつばを直す男とシノに、ネコマムシの笑い声が降りかかった。
宴の火はよりいっそう明るく、勢いを増して、くじらの森を包んでいった。



********

前回にあたる『IF ゾウ』でのあとがきとは少し違いましたが、こちらでもキャプテンとネコマムシの旦那が出せました!
読んでいる途中で気づかれた方もいらっしゃるかもしれませんが、このお話、『IF ゾウ』のみならず『みんなでゾウに〜』ともリンクしています。
合わせて繋げて、ここに来ている感じになりました。
この後、宴の中でチョッパーとも話すうちに、サンジのご飯についての話もあったんじゃないかな?
この時まだ自分では動けないくらい重傷の管制官は、広い索敵は控えていてジャックの船団に気がついていません。
なので本編より少し察知が遅れています。
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