探検家編

□キラキラ光るお空へ星よ
1ページ/2ページ




来る日も来る日も、命を削り海へ潜り続ける男の娘は、奇しくも海へ潜れぬ身体となった。
娘がまだ幼い頃の話だった。
父以外に身よりもなく、先祖を真似て家の裏の森を駆ける日々の中、興味本位で口にした果実は悪魔の力を宿していた。
その時から、いずれ自分も父のように海底を探索する、という少女の夢は散った。
それからの願いはいつか、自分にも行けるかもしれない空の上にあった。





「はァ!?何それ信じられないです!!この私を差し置いてってあ…!…切れたのです……」


電伝虫が目を閉じ、文句の矛先がなくなったクリームの唇がムグムグと動く。
適当な賞金首をいくらか狩りに島の外へ出ていたクリームは、こうしちゃいられないと、縛り上げたそれらを放り出した。
換金しに行く時間すら惜しい。


「えっ!?」

「おわあっ!!」


縛った賞金首達がおいそれとどこかへ行けぬよう、近くの木に一人一人逆さづりにしていくクリームに、山賊の大将が喚く。


「おいテメェおれ達をどうするつもりだ!?賞金稼ぎじゃなかったのか!?」

「せっかくだけど時間が無いのです。通報しとくからお迎えに来てもらって下さいね!」

「「「「はあァアアアアッ!!?」」」」


海軍に引き渡されるまで、隙を見ては反撃に出ようとしていた山賊達が文句を言うが、文句を言いたいのはクリームの方だ。


「本当ひどい話なのです!私を差し置いて空島へ行こうだなんて…でしょ!?」

「「「「いや知らねェよ!!!!」」」」

「じゃ、バイバイおじさん達――”瞬く箒星(トィンクル・コメット)”」


別れ際、小首を傾げてウィンクする少女の瞳から、不可視の……いや、本物の星が現れた。
瞳と同じ大きさだった星は、瞬く間に大きく煌いて、一般的な酒樽の大きさを越えた。
それにクリームがサッと飛び乗ると、星は飛行機のジェットのように、小さな星屑をキラキラと噴出させながら地上から空へと流れる。
真昼の星が空へ昇り、豆粒程の小ささになった頃、星の煌きに魅入られていた山賊達がやっと我に返った。
見惚れている間に取り込んだ光で、キラキラと輝かせていた目が怒りに燃える。


「「「「―――ハッ!!?ふざけんなーーー!!!!」」」」




星に乗り、星のように瞬き流れて空に消えていった少女の名はモンブラン・クリーム。
山賊を縛ってきた場所を近場の海軍に通報した彼女は自称探検家にして、先祖の残した偉業を確かめるため、そして生きるため、海に潜るばかりで大した稼ぎの無い父の代わりに、兼業賞金稼ぎのような真似をしていた。
いつものように、自分でも楽に狩れる程度の額の首級を探してジャヤを出ていたクリームは、先ほどの連絡を受けてからというもの、せっかく倒した賞金首を無駄にしてまで、家路を急いでいた。
栗に飾られたポニーテールが、勢いを物語るようにバサバサと靡く。
昼から夜になり、クリームの乗った星が一等輝きを放って見える時刻になってようやく、ジャヤが見えてきた。
それと同時に、作業を終えて、あとは船長を待つばかりだった者達にもその光が見えていた。


「あっ流れ星!」

「幸先いいなァ」

「ルフィも早く戻ってこないかな…あんな風に」

「そうだなあんな風に…」

「「「「……」」」」

「ん?」


ナミ、ウソップ、チョッパー、サンジの動きが止まり、彼らが釘付けになっている空を見上げたゾロが落ち着いてのたまった。


「こっちに落ちてきてんな」

「「「「のんびり言ってる場合かァーーー!!」」」」

「せっかく船を強化してもらったのに、ぶつかりでもしたらどうすんのよ!!」

「あーありゃ”お嬢”だから大丈夫だ」

「気にすんな」

「お嬢?」


マシラ、ショウジョウが空を見て宥めるが、”お嬢”という単語に反応したロビン以外には対して効果はないようだ。
ゾロが星を斬るか、サンジが蹴り飛ばすかで言い争い、どちらでもいいから何とかしろという3人が各々慌てふためいている。


「ああ。おやっさんの娘さ」

「ちょっと小金稼ぎに狩りに出てたんだが……空島に行く準備してるって教えたら怒られちまってよォ……」

「あら、泣いてるの」

「「泣いてねェよ!!」」



「よォし斬ったもん勝ちだなエロコック」

「ああ蹴ったもん勝ちだクソマリモ」


勝手に勝負のネタにされているとは思いもしない星が、話し聞かない野郎2人組みの対決を嘲笑うかのように、軌道を変える。
飛び出した剣と足の上をフワッと上昇してみせた星から、キラキラと輝く星が雪のように降り注いで消えていく。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ