OP連載

□03
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食堂で好奇の目にさらされるのに耐えられず、音波に身を変え、瞬時に甲板まで飛んだシノは、物陰で膝を抱えてジメジメした物体その2になっていた。
発見したローの眉間の皺がまた深くなる。


「オイ」

「…」

「逃げたらバラすからな」


その一言で、逃げる気満々だったシノがギクリと震える。
しかし、隙あらばとは思っているようだ。
こちらを窺う様は、人間の女というよりは手負いの小動物のようで、どこか憎めない。
こういう動物的なところが、シノを根暗に見せずに済んでいるのだな、とローは淡々と思う。
クルーたちが「懐かせたい!ベポ羨ましい!」となるのも少しはわかる。
……何だかんだで、ベポを可愛がっているローは充分動物好きである。



「あっちでベポも同じような顔してたが…」

「!」


気にしているらしい。
やはりベポのことは相当好いているようだ。


「お前はどうしたい」

「……?」

「気候が安定してきた。直に次の島へ着くだろう」


あの空島しか知らず、航海術もないシノが、海上で逃げる可能性は最初から考えていない。
あるとすれば、次の島で、だが。



「お前が本気でこの船を降りてえなら、それまでに心に決めておけ」



まさか選択肢が与えられるとは思わなかったのだろう。
シノの目が見開かれ、久しぶりにローとまっすぐ目がかち合う。



「お前を強引にクルーにしたことは認めるが、おれはあの大鷲に約束してきた手前がある」




――――空島で上昇する大鷲を見上げて、決めた。



『なかなか面白い能力だ。あの女、音を操るか……仲間にすれば役に立つ』

『『『『ええええーーーーっ!!?』』』』

『文句あんのか』

『ガラスを引っかく音は嫌っス!』

『あれはおれもイヤだなぁ…あの鷲もあの子のことすごく大事にしてるみたいだし』

『何か言ってたか、ベポ』

『うん…あの音でちょっと聞きづらかったけど……我が子たちを返してもらうって言ってたよ』

『我が子、か…』



それから大樹に向かう道中、しきりに襲い掛かってきた猛獣達。
巣の奥に、大事に匿われていたシノ。
空島中の生き物達が、彼女を守ろうとしていた。
今まで島を海賊達から守るため、ずっと先陣をきって戦ってきた少女を―――

だからローは『約束』をした。



『おれは海賊だ。欲しいものは奪う。お前を倒してな』


『まあ、クルーになるかどうかは本人次第だが』


『――――あいつがおれのクルーになるのなら、おれは絶対に裏切らねぇと誓おう』




「――――お前がおれのクルーになるなら、おれは絶対に裏切らねぇ。だからお前も相応の覚悟をしろ」



そう言い残して踵を返す後姿に、シノは口を開けては閉じる。


「覚悟…」


海賊になる覚悟……?そんなものない。
海賊といえば、ふらりとやってきて島を荒し、動物達を傷つける、下品な敵だ。
なりたいと思ったことも、なろうと思ったことだってない。




「………でも…………ベポ君は…好き………」


「お゛っお゛れ゛も゛だよーーっ!!」

「!!?」


ばふっ!!

突進してきたオレンジ色のツナギに視界を奪われ、頭は白いもふもふにガッチリ押さえられる。


「もがもがもがっ!!」

「ごめんねシノ!!おれっシノにみんなと仲良くしてほしかったけど!!でもシノが泣いてシノにはおれしかいないって思ったら嬉しくなって!!」

「もががっ!!」

「おいベポ。離してやんねーと…」


くたり…


「シノ!?」


顔を見ようと腕を緩めると、そこにはぐったりとしたシノがいた。


「ひどい!!誰がこんなこと…!?」

「いや、オメーだよ」


てゆーか多分、シノって自然(ロギア)系だから物理攻撃避けられるだろ、と思ったシャチ。
そうなのだが、ローの話に駆け寄ってきてくれたベポの告白(?)でそれどころじゃなかったのだ。
シノは、我がことのように悲しんでくれるベポのもふっとした手に、震える手で触れる。


「ほんと…?私、ベポ君にべったりでウザくなかった…?」

「そんなわけないよ!!シノはおれの妹分なんだから一緒でいいんだよ!」

「!!」


シノは感動の迸るまま、ベポの首にぎゅっと抱きついた。
白い毛が、ぽたっぽたっと落ちる涙を弾く。


「わ゛だじも゛ご゛め゛ん゛ね゛ベボぐん゛っ!!!」



ひしっと抱き合う女の子と白熊。
ビジュアル的にはかなりほのぼのするが、ベポを慰めながら甲板まで付き添ってやってきたシャチにしてみれば、存在は忘れられられるわ羨ましいわでむかっ腹が立つというものだ。


「ベポめっ!お前は結局ずりーんだよ!!」


帽子ごと頭を掻くシャチにつられ、ちらほらいたクルー達も何だ何だと目を向ける。
するとどうやら、我らが愛くるしい航海士と新入りの少女が抱き合っていて、仲直りの真っ最中のようではないか。
新入りの少女の存在も、こうしてだいぶ船に馴染んできたところであった。
その翌朝には、次の島が見えた。


シノは寝起きしているベポの部屋(兼測量室)で、島を見つけた見張りの声を拾っていた。
ベポの黒い鼻から出る鼻提灯を見つめ、シノは腹を括ることにした。



海岸線をぐるりと回り、港にほど近い海岸に船を着ける。
クルー達は島へ繰り出そうと、甲板に集まっていた。

シノは相変わらずベポに引っ付いていた。
いつもと違うのは、どこかそわそわと、クルー達の様子を窺っていることくらいだ。
ウロウロと視線を彷徨わせて、シノの動向を窺っていたローとたまたま目が合うと、今日はあろうことか、逸らそうとはしたが、何と、あのシノが、ローとまともに目を合わせたのだ。
それも自分から。

ローが口角を上げて見返すと、バッとベポの後に隠れてはいたが……いい進歩だ。


そして、ローが上陸の号令をかけようとしたその時。


ぴんぽんぱんぽーん!


船上に、不思議な音が響いた。


「なんだ?」

「何の音だ?」


「っクルーのみなさん!!」


ざわざわとするクルーたちに混じって、ただひとり高い、少女特有の声が上がる。
能力など使わなくても響くその声に、クルー達は揃ってベポを…ベポの後から顔を出し、引っ込みたいけど懸命に我慢しているだろうシノを見た。


「……ふっ……」

「「「「ふ?」」」」


「ふちゅ……っ!!!」


突如、口を押さえて涙目となったシノに、ベポが「え!」となる。


「(噛んだな)」

「(ああ噛んだ)」

「(…ガンバレ!)」


何か知らんが、不憫な新入りを拳握りしめて応援してしまうクルーたち。
顔がニヤけるのは致し方ないのである。
そんな彼らに視線を戻したシノは、キッと気合を入れた様子で叫んだ。


「ふつちゅかっ……っ不束者ですが…っ!これからよろしくお願いしますっ!!!!」


顔を真っ赤にして90度、音波化してないのにまさに音速で頭を下げたシノは、そう叫ぶなり、ぴゃっ!と素早くベポの後に隠れた。



「「「「ぐはっ!!!!」」」」



次々と胸を押さえて蹲る男共を呆れた目で見渡すローだったが、その表情は満足げであった。



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ベポは測量室を自室にして、そこで寝起きしている設定。
紅一点とはいえ新入りなので1人部屋にするよりいいかということで、ベポのお部屋に間借りしているかたちで。
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