OP連載
□04
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この世界で初めての人里もとい町で、シノは完全におのぼりさんとなっていた。
先日の喧嘩の一件から、ベポは兄貴分としての使命に目覚めたらしく、キョロキョロと視線を彷徨わせるシノの保護者を張り切って務めていた。
「ホラシノ!よそ見してちゃ危ないよ」
そう言って、ふらふらしそうになる小さな体を、大きな手がやんわりと軌道修正してやる。
シノはベポの親切に感謝しつつも、どこそこを見渡すのをやめることは出来なかった。
古新聞や海賊達からしか世間の情報を得られなかったシノにとって、その港町はまさにファンタジーであった。
英語と漢字が入り混じり、見たこともない品物がたくさんある。
元日本人の価値観からすると、信じられないような光景だ。
「みんな大きいね」
「シノはまだ小さいからね」
まだっていうか、もう成長期はとっくに過ぎたのだが…。
やはりこの世界では、シノの身体の方が、発展途上の子供並みに小さいのかもしれない。
ローも日本ではあまりお目にかかれないような長身だが、街を歩いているとどうやらそれが珍しくないのであろうことが窺える。
「そうだ!こうすればいいよ」
「わ!」
観察と思考でいっぱいのシノの目線が、急に高くなる。
バランスを崩すまいと抱き込んだのはベポのふかふかの頭で、肩車されたのだと知る。
「こうすればはぐれないし、ふらふら出来ないもんね」
「高〜い!ありがとうベポ君!!」
「フフ!いっぱいキョロキョロしてもいいからね」
「うん!」
そうやって半日、ベポと2人でデート(という名のショッピング)を済ませて船に戻ると、たくさんの紙袋をさげた2人を見つけたシャチが呆れたように言った。
「またたくさん買い込んだなー」
いや女の子だし、そのくらいの準備はいるかもしれないけどさ。
と続けたシャチであるが、10年以上無人島で暮らしてきたシノを思うと、正直こんな、普通の女の子みたいに必需品を色々と買い込んでくるのは少し以外にも感じていた。
空島から船に乗った時も、トランク1つと小さなリュックしか持っていなかった。
むしろ、相手は長年サバイバル生活をしていた野生児。
手ぶらでもおかしくないとか思ったりしたのだ。
すると、ベポの斜め後でシノが控えめにだが答えた。
あのシノが。
「……だって…船の中って森も何もないから…生活用品作れないし……」
と、実に野生児っぽい答えが返ってきていたにも関わらず、シャチは大声を上げてその場をユーターンした。
「うわああああっ!!ぺぺぺぺぺっペンペンペンギーーーンっ!!!!一大事だ!!シノがおれと喋ったーーーっ!!!!」
これには大々的に報告されたペンギン本人のみならず、船上にいたクルーたち全員が反応を見せた。
「何ぃ!?」「シャチてめーどんな手を使った!!」と口々に質問攻めに走る。
ひとしきり質問攻めが終わると、シャチに群がっていた面々が一気にじっと見てきたので、シノはいつも通りベポの背に避難した。
頑張ったね、えらいね、と努力をわかってくれた白熊の硬い肉球の感触を頭に受け、シノは微笑む。
「変なシャチ。シノだってメスなんだから色々支度だってあるよ」
ね?と促すベポに、頷くシノ。
動物にばかり囲まれていた彼女は、今更メスとか言われても全然気にしない。
「メスとか言うな!バカ!しろくま!」
「…白熊ですいません……」
「?」
しょぼーんと肩を落とすベポを気遣いながら、「なんか卑猥に聞こえんだろ!!」と注意するクルーたちに、シノは首を傾げた。