OP連載

□05
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車窓から広がる海原の素晴らしさに、シノは顔を輝かせた。
潜水艦の甲板からの景色とは、また違った趣がある。
窓際に手をかけ、キラキラと光る水面を飽きずに眺める様はまさしく子供といった風で、微笑ましい。
ボックス席の片側にロー、反対にシノとベポが座り、ベポははしゃいだ様子のシノに「あんまり身を乗り出したら危ないよ」と兄貴風を吹かせている。
窓際も譲ってやり、少女の面倒を見る白熊。
なんと素晴らしいことか。
微笑ましそうに彼女達を見ていた車掌、旅行客の視線に、自然と温かみが増すのは当然だった。
大太刀を肩に掛け俯く、強面風の青年は、意図して視界から外している。


「ありがとうベポ君!じゃあ交代ね」

「!うん!」


やはり白熊の方も見たかったのか。
我慢して譲ってあげてたんだね。
また譲ってあげる女の子も偉いね。
可愛いなぁ。


ローも内心、このほのぼのとした光景には密かに癒される思いではあった。
あったのだが、この生ぬるい視線がイラついた。


ギロッ!!


「「ヒイッ!?」」


見てんじゃねぇよ、とばかりに睨みをきかせるローに、乗客たちはいそいそと視線を逸らした。
整った顔立ちに酷い隈とが相俟って、何とも恐ろしい眼力。
よくよく見やれば、腕いっぱいのタトゥーにはDEATHとか書いてある。


((((目を合わせちゃダメな人だ…!!))))


この防衛本能こそが、人を長生きさせるのかもしれない。

人々の視線をこれまた視線ひとつで蹴散らしたローは徐に、ベポに窓際を譲り、まるまると大きな白熊の背から車窓を眺めているシノの首根っこを掴んだ。


「!?」


窓の外に気を取られていたシノは、目を白黒させる。
気づけば、ローの隣に座らされていた。


「外が見たけりゃ、こうすりゃいいだろ」

「!」


窓際だ。
ベポと交代しなくても、自分の側から見ればいいと。

シノは正面になったベポと、隣でまた俯いて寝る体制になったローとを何度も見比べた。
ベポはにっこりと「良かったね!」と言う。
シノは頷いたが、親切にしてくれたのがローなものだから、対応に困っていた。
ベポなら素直にお礼が言えたのに。


「……」


人の心臓盗るわ、家族とも言える島の動物達をバラすわ、いい印象なんてまるでない男のパーカーの裾を、シノはちょんっと握った。
第一印象最悪だったけれど、少なくとも船に乗ってからこっち、ひどいことはされていない。


「………あ…ありがと……――――。」


目もあわせずに言われたほんの小さい呟きの続きを、列車の喧騒は消さずに届けただろうか。
裾から手を離し、再び窓際に張り付いたシノは、ローが一瞬帽子のツバをいじったのに気がつかない。



キャプテン―――――と、初めて彼女の口から出た日のこと。



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熊って本来『頭』で数えるけど、ヒロイン合わせて『匹』で。
小さい子と熊だけで入れるレストラン少なそう→ペンシャチ強制連行の図。
ダンス・クラウドはオリジナルです。
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