OP連載
□09
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「(しっ…知らない人がたくさん…!!)」
美女とヒーハーがいる甲板、そして隣に来た軍艦に乗ったたくさんの元囚人達。
シノは甲板に続くドアの隙間から、そっと様子を窺っていた。
すると、背後に大きな気配を感じて振り返る。
クルーの止める声も聞かず出てきた、包帯に血を滲ませ、満身創痍のジンベエだった。
「ハア…すまぬが……道を…」
開けてくれんか、と続くはずだったが、ドアに張り付いていたシノがパッと消えたことで、その言葉もまた消えた。
もしや先程のアナウンスの娘ではという疑問もあったジンベエであるが、今はそれよりも、この先の面々に用があった。
「北の海(ノースブルー)トラファルガー・ローじゃな。ありがとう。命を救われた……!!」
「寝てろ。死ぬぞ」
「……」
「あ!シノ」
ベポはお馴染みとなった、服を掴む小さな手を感じて首だけ後を向いた。
知らない顔ばかりで緊張しているのだろう。
出てきただけでも偉い偉い、と心の中で妹分を褒めていたベポは、いきなり七武海ボア・ハンコックに呼ばれ、ビクッと姿勢を正した。
「ケモノ!電伝虫はあるか?」
「あるよ。あ…!………ありますすいません」
「!!」
「いいなーお前女帝のしもべみたいで…っいで!!」
全然よくねーよ!!
シノはペンギンの手の甲を抓った。
あわあわと電伝虫を差し出すベポの後で、シノは突然やって来ておいて、大好きなベポを顎で使うハンコックに怒りを覚えていた。
彼女の行動自体は理解できる。
このまま海上で立ち往生するより、彼女の提案通り、九蛇の海賊船を呼んで女ヶ島へ行く方が安全だ。
ハートの一味はその時、誰もが彼女の行動に少なからず驚いた。
人前に出たがらないシノが、つかつかと甲板を歩いて、あの海賊女帝の前に立ったのだから。
「…っちょっとあんた!!」
「何じゃ小娘」
電伝虫の受話器を置いたハンコックは、敵意をあらわに向かってきた小さな娘を眉を上げて見下した。
「シノっ?何やってんだ!!」
「相手は海賊女帝だぞ!!」
腰が引けながらも、ペンギンたちは慌てて耳打ちする。
本当なら、どん!と仁王立ちで初対面の人間をまっすぐ見上げるシノを表彰してあげたいくらいなのだが、何分相手が悪い。
シノが前にしているのは、あの海賊女帝、王下七武海ボア・ハンコックなのだ。
彼らの焦りも空しく、シノは小さな身体でめいっぱい胸を張って言ってのけた。
「このベリーナイスな素敵白熊の名前はベポ!!ケモノなんて言って粗末に扱って!いじめないで!!」
「?どこをどう見てもケモノではないか。畜生風情に何を言うておる」
「す…すいません…」
「「打たれ弱っ!!」」
「違うもん!!ベポ君は可愛くて優し…っもがもがっ!!」
「あーーっ!!」
「落ち着けシノ!いい子だから!なっ!!」
「もががが!!」
反省の色も見せず、至極真っ当であるという態度のハンコックに更なる怒りを燃やしたシノを、やむなく羽交い絞めにして口を塞いだペンギンとシャチ。
ベポは、自分のために怒ってくれたシノを、彼らごと抱きしめた。
「シノありがとう!でもいいんだよ、おれ気にしてないし!ケモノだし!」
「むぐっ!」
口を塞がれていようと、でも!と反論しているのは誰であろうとわかった。
ベポはペンギンたちの手を離し、シノをひょいっと抱き上げる。
シノはぶすっと頬を膨らませ、目の前にある毛むくじゃらの顔に向かって、余は不満である!と顔全体で訴えていた。
「ベポ君が大好きだから腹が立ったんだもん!!悪い!?」
「ううん!!おれすっごい嬉しいよ!!だからいいんだ」
むぎゅうっ
心底嬉しそうに小さな身体を抱きしめる白熊。
そしてそれに絆され、ついにはむすっとしながらも、真っ白の太い首に手を回した少女。
この寸劇に感動したのは、大勢の元囚人達である。
「うおおおおん!!何てっ何て互いを想いあってる2人…いやっ1人と1頭なんだぁーっ!!」
「うううっ美しい光景だー!!」
「何あれかわいすぎるーぅ!!!!」
「セットでお持ち帰り出来るー?」
「チッ」
「ヴァナータ達もなかなか面白い一味じゃないの!」
軍艦で大げさに騒ぐ者たちに舌打ちするローと白熊たちを見て、イワンコフは楽しそうに締めくくった。
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「アイアイ」と「キャプテン」を別個でなら言えるけど、「アイアイキャプテン!」と繋げるのは、何故か恥ずかしさを覚えるヒロインでした。