OP連載
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「そこの白熊と娘!!トラファルガー・ローの一味の者だな!!」
白いコートを肩に掛けた男が、オレンジのツナギを着た白熊と、お揃いのそれを着崩した少女に向かって叫ぶ。
それに伴い、男の後ろに控えている数十人の海兵が、一斉に彼女たちへ銃口を向けた。
ベポは円らな目をさらに丸くしたが、シノはそれを一瞥しただけで、何事も無かったかのように歩き続ける。
大嫌いな知らない人間にかかずらっている暇は無いのである。
「止まれ娘!!お前達が奴の一味であることはわかっている!!よって連行する!抵抗する場合は射殺も厭わん!!」
「……」
男の話など聞こえていないように歩き続けていた少女は、立ち止まった白熊に首を傾げる。
「どうしたの?早く行こうよ」
「まずいな…海軍に見つかっちゃった…」
取り囲む海兵を一瞥すらせず、まるで他人事のように白熊の袖を引く少女に、男は青筋を立てる。
勢いよく腕を振り上げた。
「構わん!!撃てぇっ!!」
無害そうな小さな少女への発砲に躊躇いがないと言ったら嘘になる。
だが、海兵たちは外見に騙されるなと己を奮い、引き金を引いた。
重なり合った銃声が、一斉に少女達を襲う。
「自然系(ロギア)か……!!」
避けることなく立ったままのシノに浴びせられた銃弾は、全て彼女を通り抜けた。
「ぐあァっ!!!」
「アイ〜!!アイ!アイ!アイ!!」
「っぐっががァっ!!」
「大佐!!」
「大佐殿…!!」
銃弾の先から消えた白熊が男の隣に現れ、何発もの蹴りを浴びせる。
「おれの妹分に手を出したらタダじゃおかないよ!!」
「白熊が喋ったァーーーっ!!?」
「!!…喋ってすいません…」
「「「「打たれ弱っ!!」」」」
海兵たちは上官である男が倒されたことで動揺したが、白熊の打たれ弱さを好機と見て、銃を構え直した。
「今だ!!撃て撃てぇ!!」
「”フレア・ヴィブラート”」
ベポ目掛けて放たれた銃弾の雨の前に、瞬時に現れたシノが腕を振るう。
常人には見えない音波の膜が、降り注ぐ銃弾を次々と爆発させて消してゆく。
音波を極限まで振動させ、物質を超沸騰させているのだ。
その隙を逃さず、ベポが海兵たちを次々と倒していく。
「船へ急ごうっシノ!皆に連絡して!」
「うん」
町に散らばった仲間達全員に”小さなメロディ”で連絡すると、先に戦闘になっていたらしいローから『早く来い!』と言われてしまった。
向かってくる海兵の相手をしながら、シノは一旦”小さなメロディ”を解除して、索敵に切り替える。
”ROOM”のおかげで非常にわかりやすいローの位置を見つけると、そこに敵戦力が集中しているのがわかった。
「キャプテンたちも戦ってる!早く来いって!!向こうに敵が集中してるみたい」
「狙いはキャプテンの首だね!そうはさせないよ!!」
「アイアイ〜!!」と気合を入れて走るベポを追いかける。
シノは他の仲間達の居所を確認しながら、またローに連絡を入れた。
「私とベポ君はキャプテンに近いから合流するけど、他の散らばった皆は離れてるからまっすぐ船に戻るよう言うからね」
『それでいい。お前らは早くこっちに来ておれ周りの雑魚を片付けろ』
「アイアイ」
シノとベポが駆けつけて雑兵を一掃した頃には、ローが海軍中将を倒し、戦闘は終了した。
その場は勝利を収めたが、追っ手が来るのはわかりきったことだ。
新世界に入ったばかりだというのに、慌しいままに潜水して一時身を隠すハートの海賊団。
まだ島に入って半日だったのに、見つかるの早すぎである。
「それもこれも、このツナギのせいだと思う」
ハートの海賊団です!と主張するツナギが、そもそもの元凶ではないだろうか。
ローですら、服には必ずといっていい程シンボル入りである。
特注か。
ハートの海賊団のシンボルを知らずとも、少なくとも海賊だというのは一目瞭然である。
「まあ仕方ねェ。キャプテン有名人だし。これもポリシーって奴だ」
「でも今回は何か変な言いがかりつけられて攻撃されたんだよ。濡れ衣!」
シノを宥めていたペンギンは「濡れ衣?」と、不思議そうに繰り返した。
一緒にいたはずのベポにも視線で問うが、こちらも首を傾げるばかりである。
「トラガー?何とかって人の一味だろ!って」
ムスッと腕を組んで怒るシノ。
ベポとペンギンは、互いの顔を見合わせた。
もしかして…
「そんな人知らないのに…!!」
「「(キャプテンの名前知らないんじゃ……!?)」」
がーん!!と1人と1頭の心がひとつになった。
それなら、他人事として聞き流していたのも当然というものだ。
ベポは、あれは人見知り発動してただけじゃなくて、本当に心当たりがなかったんだ…!とわかった。
ペンギンはそこで、そういえばキャプテンの名前って誰も呼んだことなくね?と気づく。
さながら、子供の前ではお父さん、お母さんと呼んで、子供が親の名前にピンとこないようなものだったのだ。
「あ、あのな…シノ、そりゃぁ今まで一度も名乗らなかったキャプテンにも非はあるかもしれないけどな?」
「?」
手配書や、クルー以外の者からはしばしばローの名が出ることはあったはずだ。
これでキャプテンの名前知らないとか、本人に知れたら…想像するだけで怖い。
「トラファルガー・ロー。おれたちのキャプテンの名前だよ」
「!」
ベポが教えてやると、シノはハッと目を丸くした。
「キャプテンの名前…………別にあったんだ!!」
「オイ!!」
「いや、だって皆キャプテンキャプテン言うから…!」
それが名前だと思っていたが、たしかにキャプテンといえば、船長の意である。
「シャチとかペンギンだってシャチじゃないしペンギンでもないから、キャプテンもキャプテンだとばっかり……」
「…わかるようなわからねーような……」
「プフフッ」
「笑い事じゃねーよ!!」
怒られたベポが、またしゅんとする。
本当にしゅんとしなきゃいけないのはこいつなんだが…とペンギンはあたふたするシノを半目で見た。
といっても、目深に被った帽子で定かではないのだが。
雰囲気でわかる。
「ちゃんと覚えとけよ。自分たちのキャプテンの名も知らねェとか有りえないからな」
「う…はい」
今度こそしゅん、と肩を落としたシノ。
船長の名前だとかいうのはともかく、近しい人の名前をきちんと知らないというのは失礼だと思ったからだ。
少しはしゅんとしろ、と思ったが、いざ肩を落とされると、思ったより胸が痛いのは何故だ、と内心で自問自答してしまうペンギンだった。
それを振り払って、今はキャプテンの名前を教えてやらねば!と意気込む。
「よし。じゃあ念のため復唱!ほら、言ってみろ」
「え?……う、うーんと……ト、トラ、トラガール・リョウ…?」
「うろ覚え感ハンパねーな…(っつーかむしろ…誰だよ…)」
トラ『男』ですらない。
近い未来、麦わらから呼ばれるはずの名が、人知れず霞んだ瞬間であった。
翌朝になると島のログもたまり(実は、島の海底に潜んでログをためるという反則技を使っていた)島を離れてしばらく経つと、浮上した潜水艦にニュース・クーが訪れた。
どこにいても、海上にさえいれば毎朝届けてくれるこの鳥を、シノは尊敬している。
新聞そっちのけでベポと一緒に鳥に手を振るシノを見つけたクルー達の反応は、呆れたり、無言で壁に手を打ち付けたり、デレデレしたりと実に様々だ。
その中では、呆れた部類に入っていたローは、新聞を広げてざっと見ると「シノ」と声をかける。
昨日ローの名前をマスターしたばかりのシノは、その声に心なしか得意そうに振り返る。
ペンギンはそんな彼女を見て(頭は悪くないんだけど…正直すぎるんだよなぁ…)と苦笑した。
どうせキャプテンとしか呼ばないんだろうから、披露する機会なさそうなのに…まあ、そこが可愛いんだが。
ベポの次くらいにシノに物を教える機会が多いペンギンは、呼ばれてちょこまかと近寄るシノの動向を見守っていた。
本人は普通に歩いているつもりだろうが、クルー達とはだいぶ違う歩幅のせいで、ちょこまか動いているように見えるのだ。
我らが船長も、そんな姿を密かに気に入っているのは見る者が見れば明らかで。
「良かったな」
「?」
そう言って渡された1枚の紙に首を傾げるシノ。
ペンギンは、あ、とその紙の正体がわかった。
シノの顔が、ぎょっと驚きの色に染まった。
『音凪のシノ 懸賞金5500万ベリー』
おそらく、先の海軍との一戦が原因だろう。
自然系(ロギア)なら、それ以外のさしたる罪状がなくともこれくらいの額は当然だ。
「自分の名前は読めるんだな」
「!」
「それとも顔写真か?」
ビク!と決まり悪げに目を泳がせるシノを、ローはニヤニヤと追い詰めている。
「(キャプテン…相変わらず人が悪い……)」
昨日の聞いていたんだな、と理解したペンギンは、ローに遊ばれるシノをあたたかく見守ることにしたのだった。
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漢字には強いけどアルファベットには弱い管制官。
キャプテンにお勉強を言い渡される日も近い…かも。
知らない人がキャプテンの名前呼んでても、知らない人がいる!っていう驚きが強くて、あまり頭に入っていなかったのです。
基本的に上陸してためるログですが、海底にある魚人島のことを考えると、磁気を発している島(場所)の範囲内であることが重要なのかな、と思い、潜水艦ならこういうログのため方も出来るんじゃないかと思ってやってみました。
不可能だったら『二次だから』ということでお願いします。