OP連載

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それは、新世界へと船を進め、航海を続けていた最中の出来事だった。



「七武海に入ることにした」



我らがキャプテンは、ちょっとそこまで、みたいなノリでのたまった。





「いきなり七武海だもんなー。驚いたけどさすがキャプテンって感じだよな!!」


言われたときには一番オーバーに絶叫していたシャチが、ワクワクした様子で語る。
うんうん、と次々に頷くクルー達。


「七武海ってハンコックちゃんと同僚になるってことだよね」


こちらは言われても大してピンとこなかった、ハウス栽培されていたかのように世間の風に当たらずに育ったシノである。


「お、お前…女帝をちゃん付けとな…!!?」

「あっ崇めてもいいか…!?」

「なんで」


大げさに驚くクルー達を、シノは呆れた目で見る。
少し前に出会い、別れたハンコックは、今やTEL友ならぬ電伝虫友達である。
彼女に付き従うサロメに良く似た蛇が、ある日届けてくれた電伝虫により、晴れて電伝虫デビューしたシノとハンコックは、時々お互いの大好きな存在に関して心ゆくまでお喋りしている。
しかも彼女は盗聴妨害用の白電伝虫までくれたので、安心安全な友好関係を築けている。



「みんな、そろそろ次の島に着くよ!」


ダイニングに顔を出したベポに呼ばれ、シノたちは甲板へと出た。
そこには既にローがおり、ここ最近恒例となった、島へ降りる際のチーム分けを言い渡されるのである。
何故そのようなことをするかと言えば…


「シノ。沿岸からこの島全体を探れるか」

「問題ないよ」

「この島にいる海賊の顔ぶれを割り出せ。いつも通り賞金首以外は捨て置く」


ロー発案、ロー実行、クルー下準備による『七武海になるために、海賊の心臓100個海軍本部にプレゼント作戦』のためである。


シノの能力では、海賊たちの存在を探知し、会話などから素性を洗う程度が限度である。
ある程度名前などの情報を拾ったら、クルー達がそれを賞金首リストと照合し、ローが行って心臓を奪う。
これまでで、その作業を何度か繰り返しながら海を渡ってきた一行は、既に目標の半数近くの心臓を手に入れていた。



「―――海賊団が3つ、うち賞金首が7人か…少ねーな」

「結構みんなバラバラ…自由に行動してる」

「好都合だ」


ニヤ、とローが笑う。
何でこの人が笑うと、こう悪い顔になるのかな、などと考えていたシノの視線を間違いなく読み取ったローにより、今日も彼女の頬は引き伸ばされる運命にあった。




シノはだいたい、この作戦の決行中は潜水艦で待機である。
余程広い島でない限り、シノの索敵範囲の方が勝るため、船を降りずにナビに徹した方が効率が良く、シノもまた、人ごみに入らずに済むので割と快適に過ごしている。
シノが集中出来るよう、他のクルーも何人か残っているので、安全は保障されている。
大よそは、だが。



「ん?ここはどこだ?」



―――時折、こうやってトラブル(標的)の方からやって来ることもあるのである。





『9800万の船長が、道に迷ってこっちの船の方に向かってる』

「何だと?」

『あ、キャプテン、そこを左に曲がったところにえっと…4000万がいるよ』

「そっちはどうだ」

『もうすぐこっちの存在に気づくと思う』

「よし。お前らで何とかしろ」

『え』


何が「よし」なのだ。


「船を傷つけられるのだけは勘弁だ。それだけは回避しろ」

『う…だって、ベポ君』

『アイアイキャプテン!!おれ頑張るよ!ねっシノ!!』

『えー…うん……』

「クク……ああ、頼んだぞ」


嫌そうなシノと、張り切るベポが目に浮かぶようだ。


「キャプテン、シノたちは?」


町中で大っぴらに声を届けるわけにもいかず、”小さなメロディ”は各チームの代表の耳に直接届くようにしている。
そのため、会話を聞けなかったペンギンがローに問う。


「どうやら本命はうちの船の近くにいるらしい」

「あっちは…」


戦闘に長けた者は、船にはシノとベポくらいしか残していない。


「ああ。後がつかえてる。行くぞ」


(……まあ、どうせあいつらが勝つだろうがな)


ローは静かに笑みを漏らすと、大太刀の鞘を抜いた。




――――そんなことを繰り返していたら、あっという間に心臓は目標の100個を達成した。



船長のローはとうとう懸賞金が4億4000万に上がり…



『音凪のシノ 懸賞金2億ベリー』



シノまで、億越えの仲間入りをしてしまった。
何故…。
あんまり(直接的に)悪いこと、してないのに…。


「シノおめでとう!!すごいね2億だ!前のキャプテンの額と一緒だよ!!」

「ちくしょォ!!お前に先越されるなんてー!!」

「やったな!すげぇじゃねーか」

「おっおれも上がってる…!!」


今朝届いた新聞で更新されていた手配書を見て、クルー一同大騒ぎであった。
特に、船長であるローに続き2番目の高額賞金首となったシノは、一番の注目を集めている。

喜ぶ彼らを尻目に、シノはちょっぴりショックだった。
ずっと前に教えてもらったペンギン講座によれば、これは罪人の指数…日本では万引きひとつしたことなかったシノの背に、罪人という言葉が重く圧し掛かっていた。

今更なのだが。
海賊になってから1年以上経っていて、既に賞金首にもなっていて、本当に今更なのだが…


「私…あの時のキャプテンと同じくらい悪い奴って思われてるんだ……っ!!」

「何にショックを受けてるんだお前は…」


ダイニングテーブルに突っ伏して嘆くシノに、ローは相変わらず正直に失礼な奴だな、と思った。


「まあいい…この感触もそろそろクセになってきたところだ」

「ふゅへっへ…(クセって…)」

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