OP連載

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こうして下僕…もとい、協力者を数多く得たシノは、ドレスローザの悲劇と小人達についてを知る。
動物達からしても、ドフラミンゴは迷惑な存在らしい。
恐ろしく、何をするかわからない強者は、ただそこにいるだけで脅威だ。
人間の海賊ともなれば、尚更である。
動物は強いものが正しいという過酷なルールの反面、人間のように、けして快楽や欲望のために相手を傷つけたりはしない。
生きるために、ただそれだけのために戦い、朽ちてゆく。
それが当てはまらない人間の強者には、付き従い忠誠を誓おうと、気まぐれに命を弄ばれる理不尽な恐ろしさがある。
ドフラミンゴはまさに、それを体現していると言っていい。
どんな植物も育てることが出来るトンタッタ族を攫って奴隷にしているだけでも、この島の植物を糧に生きている動物たちにとっては迷惑であるが、もしドフラミンゴがグリーンビットに足を運んだとしても、動物達は逆らいも従いもすることはないだろう。
ただひたすら、嵐が過ぎるのを待つかのように、逃げて隠れて震えて縮こまるのだ。


「よくもまぁそこまで…」


今でこそ海賊の一員となったシノだが、ハートの海賊団のクルーには心を許しても、未だ海賊というカテゴリは嫌いである。
この動物達の気持ちも、痛いほどわかる。
シノだって、ベポやローに出会わなければ、海賊になることなどなかった。


「キャプテンがあんな顔するはずだ」


きっとローとドフラミンゴの間には、シノの知らない深い何かがあるのだ。

シノはまた音波化すると、今度はドレスローザの蝙蝠たちとのコンタクトをとった。
グリーンビットに住まう蝙蝠たちでは、ドンキホーテファミリーの構成員をよく知らなかったのである。
こちらでも力に物言わせて協力を得たシノは、彼らにもドンキホーテファミリーの監視を手伝ってもらうことにした。
ローがいつ迎えにきてくれるかは未定だが、少なくとも数ヶ月という長丁場を、1人で乗り切るのは難しい。
シノだって、寝たり休んだりの休養は必要だ。
その間に何かあっては堪らない。
くれぐれもロー達の時と同じ轍を踏まぬよう、蝙蝠たちには後追いを避け、普段の生活圏からけして出ずに、日常の中で出来る範囲でやることを言い含める。


そしてシノは、最も要注意であるドフラミンゴの様子を見逃さないため、監視対象をドレスローザ全土から彼のみに絞った。
いくらシノでも、四六時中島全部の情報を処理し続けるのは限界がある。
かつて空島で海賊達を監視していた時だって、彼らに対象を絞って数日を過ごしていたのだ。
よってシノは、彼と同じ生活スタイルをとることにした。
ドフラミンゴが起きたらおはよう、ドフラミンゴが寝たらおやすみの生活である。



―――正直、病気になるかと思ったシノだった。



「もう何っ…何なの!?あのアラフォーすね毛野郎……!!」

「キュイ〜!!(姫様が乱心した〜!!)」

「キュウ!(落ち着いてください!)」

「キュッキュ…キュ…(無理もない…姫様お労しい…)」

「何であんなこと思いつくの?するの?頭おかしいでしょ!何がフッフッフーよ!!こっちはゲーゲー吐きたいっつーのっ!!」


夜、グリーンビットでドフラミンゴの就寝を確認した途端、シノは寝床にしている洞窟で頭を抱えてゼエハアと呼吸を荒げていた。
ストレスの爆発である。
ドフラミンゴの監視をはじめてからずっと、毎日何かしらの残虐非道生放送を聞き続けてきたせいで、プチッときちゃったのだ。
勝手に盗聴して逆恨みされてるドフラミンゴからすれば、知ったこっちゃない憤りである。
元は蝙蝠族たちの住まいであったそこに、シノが間借りするようになってから設えられたベッドの上で、シノは頭を抱えて蹲る。
その周りを蝙蝠たちがパタパタと舞い、遠巻きに様子を窺っている。


「毎日毎日こんなに遠くからアイツの周りだけ集中して聞き分けてるってのに聞こえてくるのがコレって何なの!?せっかくお金払って借りたDVDが毎回ハズレでグロくてつまんなくても、そっちのがまだマシな気分だわっ!!」

「キュ?(でぃーぶいでぃ?)」

「キュキュキュ!?(それは世に言う家庭内暴力というやつでは!?)」

「そりゃDVよバカ〜〜っ!!」


うわーん!!と喚きたいだけ喚くシノの言葉は意味不明だが、蝙蝠たちは健気にもオロオロと相手をしてやっている。
蝙蝠族を従え、瞬く間にグリーンビットの動物達を掌握したシノ。
彼女との付き合いは数ヶ月といったところだが、蝙蝠族たちをはじめ、動物達はこの理不尽ではない強者を島のボスとして立派に迎え入れていたのである。
蝙蝠族たちなどは、彼女と言葉を交わせる種族である特権とばかりに彼女を姫と崇め、勝手に族長に認定していた。
勿論、シノは族長になどなった覚えはない。


「………キャプテン……早く迎えに来てくれないかな……」

「キュー(キャプテン)」

「キューキュ(キャプテンか)」


眉を八の字にして、枕を抱えて寝転ぶシノを見守る蝙蝠たちの目が、スッと細められる。
ことあるごとにシノが口にする『ベポ君』や『キャプテン』とやらが、近い将来彼女を奪っていく恐れがあることを、本能的に理解しているからだ。


「キュ…(その時は…)」


もしかするとシノより強いかもしれないそいつらは、この島を統べるに相応しいのか。
そもそもその気があるのか。
それともただ、彼女だけを奪い去るつもりか。


「キュキュ(事と次第によっては、皆同じ気持ちだ)」


背を向けて寝転ぶシノを見ながら、うんうん頷きあう蝙蝠たち。
もしかするとローは、あの空島でのように、もう一度彼女を強奪しなければならない可能性が出てきたのかもしれない。



********

動物とは拳で対話。
人間以外にはわりとフレンドリーな管制官でした。

ヴァイオレットの能力もわかっているので、グリーンビットからはほとんど出ません。
そうでなくとも人前には行きたくないけど。
地下の様子は直接行ってからじゃないとわからないので、オモチャの家もトンタッタ王国も、実は音波化して何度か嫌々潜入もしています。
ただし見聞色の覇気には見つかってしまうため、なるべくドンキホーテファミリーの近くに行くのは避けています。
音波は目に見えないので、ヴィオラの千里眼でも捉えられませんが、基本集中して索敵中だと音波化せずに実体なので、グリーンビットの方が安全。
元野生児には案外快適生活である。
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