OP連載
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「ん?」
ドフラミンゴを盗聴監視しはじめてから、はや数ヶ月。
シノは電伝虫で話すドフラミンゴの会話から、聞き覚えのある名を拾った。
「!大変っ!!」
シノすぐさま電伝虫の番号を押した。
プルプルプル…ガチャ、と口頭で伝えてくれる電伝虫の向こう側は、しばらく顔を見てないあの人であった。
―――電伝虫が鳴ったことで、ローは歩いていた廊下から、手ごろな部屋へと身を隠した。
盗聴を警戒し、緊急の連絡以外はしないと決めていたにも関わらずくるということは、そういうことだ。
部屋に映像伝達用電伝虫がいないことを確認し、受話器をとる。
「どうした」
『…キャプテン?』
「ああ。何だ」
ある程度予想していたが、相手はシノだった。
緊急事態の起こる割合でいえば、ベポたちよりもシノの方が高いと考えてのことだったが、それは半分正解で半分間違いだった。
彼女の話を聞けば、むしろ危険なのはこちらの方だ。
「―――なんだと?」
言い含めておいたはずが、シーザーとモネはジョーカーにローのことを密告していたという。
するだろうとは思っていたが、気分が悪いことにかわりはない。
『モネって女の人がキャプテンのこと報告した後、ドフラミンゴがヴェルゴって人に電伝虫で話してた。軍の仕事が片付き次第、ヴェルゴって人がそっちに行くみたい』
「!あいつがか」
『キャプテン知ってるの?』
「ああ…借りのある相手だ」
まずいことになった、とローは表情を険しくする。
シーザーとモネだけならば、心臓を取り返す算段もついていた。
時機を見て奪い返すつもりだったが、ヴェルゴが来るとなれば、奴はローを殺すつもりで間違いない。
「チッ!予定が狂った」
もし何も知らず、心臓を握られたままヴェルゴが来ていたらと思うと、目も当てられない。
計画は最初から躓いてしまう。
「お前を潜伏させておいて正解だったな」
『肯定すればいいのかどうか…』
褒められたと喜べばいいのか、あれだけ嫌がっても強硬された手前、シノには迷う所である。
涙目でごねていたシノを思い出し、この島に来て初めてローの表情にも笑みが浮かぶ。
「助かった。また何かあれば連絡しろ。そっちについては合流してから聞く」
『!…うんっ!!』
合流―――つまり、ローが迎えに来る時ということだ。
自分では意識していなかったが、シノは電伝虫越しでも隠しきれない喜びをいっぱいに込めて、返事をしていた。
相変わらず素直な反応に、ローが頬を緩めているとは知りもせずに。
「ククッ…またな」
『アイアイ!』
ガチャ。
電伝虫の受話器を置いたシノは、傍から見て、それはもう、ご機嫌だった。
さっき緊急だと慌てていたのが嘘のようだ。
後姿だけでも幸せが伝わってきそうな光景に、蝙蝠たちはジト目になる。
「キュ、キュキュ…(姫様、ご機嫌麗しいようで…)」
「キュッキュ(キャプテンだ)」
「キュイキュ(ああキャプテンだ)」
「な、なに?」
「キュ、キュキュイッキューキュキュ?(失礼ですが、姫様はキャプテンとやらとどういうご関係であらせられるのでしょうか?)」
「キュッキュキュイ(随分楽しそうだったのですよ)」
「えー?」
控えていた蝙蝠たちのどことなく不機嫌な様子を不思議がっていれば、思いも寄らぬことを言われて驚く。
「楽しそう…私が…?」
ベポ君ならともかく…確かに迎えに来てくれるのは嬉しいけど…
「キャプテン相手に?」
小首を傾げれば、一斉に頷く蝙蝠たち。
「そうかなぁ」
そう見えたのか。
「(不思議だ…)」
まあいいや、と流して盗聴に戻るシノの後で、蝙蝠たちがまたヒソヒソと噂していたのを、ドフラミンゴに集中していた彼女は聞いていなかった。
「キュキュ(もしや姫様の番であるかとも思ったが)」
「キュイ(そうでもないのかもしれぬな)」
「キイ…(いやでも…)」
蝙蝠たちの、まだ見ぬ”キャプテン”に対する警戒は、今日も続くのだった。