OP連載

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「―――で、次は工場の場所だが…シノ」


幸せそうにサンドイッチを頬張っているシノの頬を、ローは構わず伸ばした。


「ひふぇっこぼえゆ…っ!!」

「終わってから食え」

「ひょんにゃ……」


殺生な。
シノはほっぺが落ちそうなくらいおいしいサンドイッチを前に、ほっぺそのものが緊急事態となった。
零れ落ちそうになるのを手で押さえ、低い声で言われたおあずけに、しゅんとなる。


「くォらトラ男!!食事中の天使に何しやがる!!オロすぞ!!?」

「あァっ!?」

「おいおいおい!!またケンカすんじゃねーよ!」

「おれの仲間をどうしようとおれの勝手だ。てめェこそ…切断されてェか」

「ちょっとあんた達!!」


ウソップにナミも加わって制止の声を上げるが、両者の睨みあいは止まらなかった。
シノは頬を引っ張られたまま、何とか口の中のものを飲み込み、泣く泣くサンドイッチから手を離した。


「………アトデ…イタダキマス……」

「涎出てんぞ」


ゾロからの指摘で慌てて口を拭うシノ。
片言になってしまうくらい心残りらしいが、気を取り直して報告をはじめる。


「えっと…工場はこのあたり…」


シノの人差し指が地図の上を滑る。
サンジはその姿に涙を禁じえなかった。


(畜生っ!!おれが不甲斐ねェばっかりに……!!天使の朝食が……っ!!!)


皆が地図に注目する中、四つん這いになって床を叩くサンジだった。


(おれの料理をあんな風に味わってくれていたおれのっおれの……!!)


「マイエンジェルぅ〜〜〜っ!!!!」



「サンジ…お前…」

「抑えきれない心の叫びがもれちゃったのね」

「肝心のエンジェルには怯えられてるがな」


一味には慣れっこの奇行であるが、シノは挙動不審なコックに思いっきりビクついていた。



「キュッキュ…(わかるぞ人間…)」


「何かの鳴き声…?」

「誰だお前!?一体どこに…」


鼠のような声を辿ったチョッパーは、それがシノの胸あたりからする事に気がついた。
シノが「あっ」と思い出したように服の中に手を突っ込むと、細長い黒い棒のようなものが出てきた。


「お前…どこに、何を、入れてやがる…」

「ともだち」


”どこに”と”何を”の部分に妙な力が入っているのは気のせいではないだろう。
ローの顔がまた恐ろしいことになっているが、シノはケロリと鷲掴みにしていた手を広げた。
すると棒だったものに、一対の大きな翼が広がる。


「キュッキュッキューッ!!キュキュキュッキュッキュイーーッ!!!」


「え!?何?コウモリ!?」

「何て言ってんだ?」

「えーっと……『ええいっひかえおろう!!このお方をどなたと心得る!!このお方こそグリーンビットを統べる若き王にして、我がコウモリ族の姫君、シノ様にあらせられるぞ!!!』だって!!お前お姫様だったのか!!?」

「何てこった!!おれのエンジェルがプリンセス……っ!??どーりでクソ可愛いわけだぜ……っ!!!」

「いや、お前のじゃねーし」


ウソップの冷静なツッコミは、サンジの耳には届かなかった。


「お前は、グリーンビットで、何を、してたんだ?」

「ひゃんひょおひほほひへひゃひょ!(ちゃんとお仕事してたよ!)」

「キュッ!?キュウッキューーーッ!!」

「『何と無礼な!?この隈人間めっ姫様から離れろー!!』」

「そーだそーだ!!この無礼者がァ!!!」

「サンジさん…コウモリさんとすっかり意気投合してますね…ズズッ」

「キュキュイ、キュキュッキュ…キュイキュッキュ……!!キュウ…キッ!」

「『姫様はくる日もくる日も、挫けずドフラミンゴの監視を続けておられたのだ…時にはあの腐れ外道ぶりに涙し震え、心が折れそうになってもキャプテンとやらが迎えに来るのだと、頑張って……!!何ともお労しかった…それを!』」


黒い翼が目元をおおうように畳まれる。
何とも人間くさい仕草をするコウモリである。
シノはどうしてもついて行くと聞かなかったこのコウモリ…名をスータといい、彼を連れてきたのをちょっぴり後悔していた。
スータの言い方だと、何だかシノがローのために頑張ってたみたいではないか。


「…ほう」

「な、何…?」

「いや…」

「べっべつにキャプテンのために頑張ったとかじゃ……!!」


引っ張る手が離れ、あわあわとフォローを入れようとするシノ。
ローはそんなシノをじっと見下ろした。


「違うのか」

「え」


そう言われると…

元はといえば、ローに強制…もとい、頼まれてやっていたわけだから…


「……あれ?違わない…?」

「だろ」


首を捻るシノの頭に、ローの手が乗った。
そういえば、ここに手を置くことが出来るのも随分久しぶりだったのだな、とローが懐かしく思っていると、コウモリの赤い目がギラリと光ったような気がした。


「……キュィイ?」

「『……貴様が”キャプテン”?』って目!目が怖いぞ!!」

「コウモリの分際でなかなかの殺気だな」


ゾロがニヒルに感心していると、「こら」と叱ったシノが拳を落とした。


「キュッ!!」

「ダメでしょ。キャプテンは船長で仲間なんだから。ホラ、自己紹介して」

「キュゥ…」


拳骨の痛みを振り払い、スータは不承不承、片翼を胸の前へと持ってきた。


「キュッキュ……キュ…(わたくし姫様付きのスータと申します……お見知りおきを…)」


しかし、チラリとローを窺う視線はとてもじゃないが友好的とは言い難かった。
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