OP連載

□19
2ページ/2ページ






(あんなに取り乱したキャプテンも珍しかったなァ…)



などとのんびり考えているシノは、ようやっと念願のローストビーフサンドを頬張る事が出来て大層ご機嫌である。
少しはこちらの世界観を把握してきたと自負してきたシノであるが、やはり七武海という称号の効力に関してはイマイチピンときていなかった。
そんなシノに苛立ったからか、はたまたただの八つ当たりか。
「もういっぺん言ってみろ…!」と凄まれながら、カネ○ンの悲劇が再来したおかげで、もぐもぐと膨らんだ頬がまだ赤い。
羽根を広げて懸命に濡れた布で冷やそうとしているスータが、実に甲斐甲斐しい。



「ところでお主…」

「?」


ほっぺが落ちそうな幸せを噛み締めているシノは、話し合いが終わってからこっち、ずっと物言いたげにしている視線に気づいていた。
一応キャプテンと同乗している者とあって、即座に逃げたりはしないが、そこはシノ。
自分から、何?と尋ねる社交性など持ち合わせておらず、こうして首を傾げるに至る。
これでも、出会った当初の彼女を思えば、ハートの海賊団の自称兄貴分達がさぞ誉めそやすであろう社会復帰ぶりだった。


「ドレスローザに潜伏しておったという話だが、カン十郎という侍を知らぬでござるか!?」

「カン十郎…!」


親子だろうか。
するとこの小さい子も、いずれこんなノッポに…?
2人の着物に懐かしさを覚えつつ、やはりワノ国は日本とは違うのだなと改めて思う。
シノのいた日本の昔の武士の平均身長は、今のシノとそう変わらないはずだ。
長いこと鎖国をしていたそうだが、この世界のノッポ遺伝子は世界共通なのだろうか。


(知ってるか知らないか…なら…)


「知ってる」

「「!!」」

「誠か!?」


と尋ねられれば、素直な性分なシノは「誠」とこっくり頷く。
危うく肩から落ちかけたスータが持ち直したところを、サンジまで、何の障害物もないダイニングの床で滑っている。
しっかりとデザートのクッキーと紅茶だけは持ち上げて死守しているが、目だけはシノをガン見である。
侍親子は「何と!!」仲間の情報に喜色を表しているが、シノは言ってもいい?のかわりにローを見上げた。
すると顔を見る前にぐしゃぐしゃと乱暴に頭を擦られたので、よしと判断する。
その衝撃で今度こそテーブルに落ちてしまったスータがキイキイとローに文句を垂れる中、シノは期待に満ち溢れた親子に向かって言う。


「あなた達の事も、知ってる…」

「!」

「あなたを逃がした後、カン十郎は逃げ回ってスクラップ場に落ちたって聞いてる」

「スクラップ場ってェのは?」

「いらなくなったオモチャ達の捨て場所」


僅かに動揺を見せる錦えもんに代わり、問うたのはウソップである。
作戦会議が終了するなり、訓練だ釣りだと目覚め、腰を上げたゾロやルフィを除いた数人がダイニングに残っている。
侍親子のようにシノという情報源がいる為に留まっているのもあるが、今しがた齎された情報は量も密度も凄すぎた。
吟味する時間は、いくらあっても足りはしない。


「私はドフラミンゴを主に見張ってたから詳細はわからないけど、部下はそう報告してたよ」

「でっではもしやカン十郎もオモチャに……!?」

「それは大丈夫よモモちゃん。そしたらカン十郎の記憶も消えているはず、でしょ?」


ナミの視線にシノが頷けば、ハッとしたようにモモの助は胸を撫で下ろした。


「そっそうか…!」

「では拙者は上陸次第その”すくらっぷ場”とやらに向かうでござる!してシノ殿、それはいずこにあるのであろうか?」

「地下交易港の下…だから王宮の地下って事になるかな」

「かたじけない!シノ殿…感謝するでござる!」

「ござる!」


シノは小さく首を横に振って答えると、再びサンドイッチにかぶりついた。
もぐもぐもぐもぐ……幸せである。
そんな彼女を見てこれまた至福のサンジがデザートをくれて、これまた幸せのはずなのに…


ドレスローザに近づくにつれ、次第に険しくなっていくローの表情に気がついてしまった。
まだローと付き合いが短い麦わらの一味は、それをローの地と、作戦に向けての緊張ととっているが、それは少し違う。
でも、ローがそれについて口を開いた事は一度もない。


「……」

「何だ」

「キイ?(姫様?)」

「もやもやする…」

「(…動物的勘か?)」


当たらずしも遠からず…なのだが、やはりどこか的外れなことを思ってしまうロー。
突然もやもやするとだけ言われて理解しろというのも無理な話だが、何も言わないローよりはマシなのではないだろうか。
そんな風に思ってしまったシノのもやもやが、むくむくとその大きさを増していくようだった。

ここが麦わらの一味の船ではなく、ハートの海賊団の潜水艦だったなら…そうでなくとも、第三者のいない場所であったのなら、シノはいつものように歯に衣着せず、口に出していただろうか。


―――卵を食われた親鳥

必死に冷静さを保ち、牙を研ぐ獣―――


以前シノが感じたままの顔をするローの”卵”がもしあるのなら、それは何だろうか?


「……ううん」


小さく首を横に振る。


「”卵”があってもなくっても、私は私だから」


だからきっと、シノのやる事なす事に、何ら変わりはないはずだ。
うんうん、と自分の答えに満足し、クッキーの甘さで決意に満ちた目をあっさり消したシノを、ローは怪訝な目で見下ろしていた。


「まるで意味がわからねェ」


そうだろうそうだろう。
何も言わないローに習ってみる事にしたシノは、またひとつ食べたクッキーに頬を緩めた。



********

カ○ゴンの悲劇→『未来の助手?』参照。
76巻でサボ君にも訪れたアレです。


ちょこっとオマケ↓


〜スータの功績〜


「(もぐもぐもぐもぐ…)」

「キュヒュヒュイ〜〜(姫様のお食事の邪魔はしゃしぇませにゅ〜〜)」

「おおっ!スータ大丈夫か!?」

「主人の為に身を挺すとは、なかなか根性のあるコウモリでござる」

「立派な身代わ…執事さんですね」

「身代わりっていうか盾っていうか…執事よね」

「健気ね」

「ワケのわからねェことをほざくからだ」


********

上から管制官、スータ、チョッパー、錦えもん、ブルック、ナミ、ロビン、ローでした。
ほっぺビヨビヨの刑から庇ってくれる献身的な執事、1匹如何ですか?
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ