OP連載

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サウザンドサニー号がドレスローザに上陸する少し前の事である。
シノは一足先に、ドレスローザに戻っていた。


シノの仕事とは、ヴァイオレット…即ち元王女ヴィオラの身柄を確保する事である。
ローの計画に乗り、カイドウとの衝突に賛同してくれれば良し。
しなければ、彼女を拘束してドフラミンゴの”目”を奪う。

ここ数ヶ月のシノは、ドンキホーテファミリーにとって、いるかもわからない、知りもしない侵入者だった。
ところが今度は、姿を消せるシノだけではなく麦わらの一味達もいるうえ、ドレスローザ内にいるということがはっきりバレている。
こちらの動きを悟られない為にも、彼女を押さえるのはどうしても必要な事だった。
そしてヴィオラの居場所を探知し、かつ単独で迅速にそれが行える者といったら、シノ以上の適役はいない。

シノも、彼女の事情は粗方知っている。
彼女を拘束したとして、それでリク王の命が危ぶまれれば、彼女は協力どころか反旗を翻すだろう。
シノだって、好き好んでドレスローザの悲劇の被害者である彼女達を危険に晒そうとは思わない。
実力行使になるのなら、彼女が自らの意思ではなく、無理矢理連行されたという工作だって厭わない。
そう強く思うのはやはり、ローの目にも彼女達とよく似たものを感じるからだった。


音波となり、ドレスローザを漂うシノは、ヴィオラが1人になる機会を窺いながら、誰にも知られることなく微笑んだ。
ほんの数年前まで、動物達としか関わりを持たなかった自分が、詳しい事なんてわからなくても、誰かのために頑張っている。
その事を船でローに言われて自覚して、何だかこそばゆくて。
思い出したら自然と笑っていた。
こんなのも悪くないと思えたのだ。


ヴィオラは麦わらの一味の動向を探っているらしく、彼女の部下達のいる建物から動こうとしない。
彼女が見た事を報告するために、常時数人の部下が情報伝達のために電伝虫を持って待機している。
シノが聞いているとも知らず、ジョーラに船の接近を教えているようだった。
彼女の役割はやはり、シノととても似ている。
ヴィオラはシノと同じで、情報を暴く側の人間だ。


それからしばらくしてサニー号が上陸すると、ヴィオラの部下達は僅かばかりを残し、麦わらの一味を探しに消えていった。
彼女を司令塔に、バラバラになった一味を包囲するつもりのようだ。


今が話をするチャンス、とシノは残された部下達を素早く倒すと、ヴィオラの前に姿を見せた。



「!?あなた…どこから…!!」

「……私はシノ……ハートの海賊団のシノ」

「トラファルガー・ローの…!!」


一方的にだが知っている相手とあって、どうにか自己紹介を終えたシノは、事情を話すべく口を開こうとしていた。
突然部下を倒して現れたシノを警戒していたヴィオラは、「あの」とか「えっと」と言いながらもじもじするシノを注意深く観察する。
自分をどうこうするのであれば、この少女なら、おそらく気づかれぬまま意識を奪うことも出来ただろうに、それをしなかった。
目的があるはず、とヴィオラはシノを注視する。
何だか恥ずかしがりやの小さい子みたいで、憎めない気がするのは置いといて。


「……あなたの力を、かしてほしい、です……ヴィオラ…さん…話を……」

「っ……私はヴァイオレット!!人違いなら早く出て行くことね!部下達を呼び戻すわよ!」


それを聞いたシノは、へにゃ、と眉を下げた。
ヴィオラは、じり、と後退する。
七武海の海賊団、しかもその中で二番目の高額賞金首だ。
シノの顔も、その首に2億という大金が掛けられていることも、ヴィオラは知っていた。
だのに、彼女の顔はまるで、己の言葉に悲しんでいるようで。
傷つけたくはないと言われている気がして、その小さく華奢な容姿と相俟り、ヴィオラに奇妙な罪悪感と警戒心を植えつけた。


その2つの感情を裏付けるように、シノはその姿を消した。
ヴィオラでは相手にもならない実力を持ってして、あっという間にマウントを取り、電伝虫を奪っていた。
殴られてはいない。
蹴られてもいない。
ただ、押し倒されただけ。
馬乗りになったシノは、電伝虫から手早く受話器を取ると、それを放した。


「あっ!」


受話器を取るといっても、通話する、という意味ではなく、電伝虫に取り付けられていた受話器をダイヤルごと取って野に返したのだ。


「部下は来ないよ…近くにいないの、わかる……あなたの声も聞こえない。そういう風に、したから……」

「目的は何!?」

「………っ」


そう強く問いただせば、何故かヴィオラよりもシノの方が途方に暮れたような顔をする。
困惑するヴィオラをよそに、シノはただ、最初に言ったことを繰り返した。


「ちからを…力をかしてって…話がしたいって言った…!!」


ただでさえ人と話したくないシノが、そう言っているというのに!
シノは話したくないのに話さなければならず、なのに話は聞いてもらえず、少し気が立っていた。


「……何…話って」

「……っ」

「ねえ…!」

「…ぅう〜〜っ……」


そりゃあ、少しは警戒されるかもと思っていたけれど、だからと言って、シノは元々対人スキルが乏しいのだ。
やけくそ気味になるのも、致し方ないといえる。


「…やっぱやだ…」

「え?」

「やっぱり知らない人は嫌いです…!!」

「ええっ?」


どう考えてもこの体勢だとヴィオラが被害を受けている感じなのに、何でシノの方が何かされたみたいになっているのか。
よくわからない状況に、ヴィオラのほうがうろたえる。


「ちょっとあなた、何、どうしたの?」


そもそも説得とか、シノのガラじゃないのだ。
しないといけないのは、シノが一番よくわかっているのだが、やはりシノは、人間とのコミュニケーションは苦手だと再認識させられただけであった。


「っもういい!ヴィオラ!ちゃっちゃと私の心読んでどうにかして!!」

「ええええ〜〜〜〜〜っ!!?」


ヴィオラは堪らず叫んだ。
それでも部下達は来ない。
なるほど、たしかに聞こえないようにされているようだ…と冷静に分析している場合ではなかった。
元々シノは、言葉で人と探り合うのが苦手で嫌いだった。
動物達とは、言葉を交わす事がないとは言わないが、あってもそれは、本心からの素直な言葉。
人間の使う言葉とは、一線を画するもの。
シノは飾るのも、飾られるのも嫌で、我慢ならない性質だった。
それは生まれ変わる前から引き継がれ、空島で育ち強く磨かれた、シノの美点であり、欠点でもある。

一方ヴィオラは動揺を隠せない。
心を読め、だなんて言う人間は初めてだった。


「それで決めて!どうするか!」

「何を言っているの!気は確かなの?何を考えているの!?」

「だからそれを読んで決めてってば!もう…っ!!」

「え…?あ…そ、そうよね……えと…ごめんなさい……」


何故か謝るヴィオラだった。
シノは、もたもたするなとでも言いたげにぷんすかしている。
極めて意味が分からないが、ヴィオラとしては特に損はないはず。
本人から強要されて心を見るのは初めてなものだから、少々困惑しつつも、いつもの構えをとった。


「そ…それじゃあいくわよ……”心覗き(ピーピングマインド)”!!!」
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