OP連載

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パッカパッカと本物の馬よりもやや軽快な足取りでシノとヴィオラを乗せてくれている馬は、勿論オモチャである。

マントを目深に被った2人は、ヴァイオレットを捜索しはじめたドンキホーテファミリーの構成員を掻い潜りつつ、王都の中を移動していた。
シノはヴィオラの腰に掴まりながら、ローとの通信を終えたところである。
無事グリーンビットから地下通路で来られたのはいいが、お花畑の本部で小人達と作戦会議なるものをしているらしい。



「あなた…本当に私と一緒にいていいの?もしもの時、あなた1人の方が身軽でしょう」


オモチャのお馬さんに揺られながら、ふとヴィオラが後を振り返って言うと、シノはふるふると首を横に振った。
そしてヴィオラに掴まる手を少しだけ強くする。


「……ありがとう」


シノの心を見たヴィオラは、それが監視などではなく、自分を守るためであると理解していた。
既にドンキホーテファミリーは、ヴァイオレットの裏切りも見据えて捜索しているのは間違いない。
そんな中、ヴィオラが1人でいるのを万一発見されればどうだろう。
シノの姿が共にあれば、少なくとも一目で裏切りを悟られる事はない。
それにシノは、そこらの幹部になら遭遇しても負けない、もしくは逃げ切れる自信があった。


「……ううん……ヴィオラが、キャプテン達に賭けてくれたから……それに……」

「ええ、わかってる。だから…ありがとう」


ヴィオラより頭1つ分は低い頭部に、一羽の小鳥が舞い降りる。
シノが指を差し出すと、そこに少しだけ止まってピチピチと鳴いて再び飛び立っていく。
ヴィオラがシノと行動し始めて、まだ数十分といったところだが、こんな光景はもう幾度も目にしていた。
ドレスローザの動物達だけじゃない。
それどころか、もっと多くのグリーンビットの動物達が、彼女を慕っている。


「私…あなたに会えて良かったわ」


名を変え、立場を変えても、ヴィオラの心はドレスローザの王女のまま。
魂までドフラミンゴに売った覚えはなかった。


「私はあらゆるものを見通せる能力を持っていたつもりだったけれど……あなたのおかげで目が覚めた気がする」


ドレスローザで今も苦しんでいるのは、何も人間だけではなかった。
オモチャだけでも、小人達だけでもなかった。



地下に飛ばしていた”目”から、ヴィオラに新たな情報が齎される。
シノではこうはいかないだろう。



「―――工場の警備は、やはりコロシアムの幹部達からまわされたようね…ラオGにデリンジャー、セニョール・ピンク。麦わらとロロノア対策に、ディアマンテとマッハバイスを残してる」

「ドフラミンゴも戻ってきた……」

「あとはお花畑の彼らが……シノ?」


苦しくはない、が…ヴィオラはマントに大きな皺を作るほど、ぎゅっと握られた小さな拳に気づいた。


「ねえヴィオラ」

「何?」

「…私がいなくなっても、キャプテン達を助けてくれる?」

「え…?」

「ヴィオラとヴィオラの大事な人は私が守るから……だから…」



お願い―――と呟いたシノの顔を、ヴィオラが見ることは叶わなかった。
俯いたシノの手には、本来彼女には必要もない銃があった。


「!」


腰に銃口の感触を感じたヴィオラは、反射的に身を竦める。
一体どういう事なのか。


彼女がそれを知るのは、この後すぐ―――取り返しがつかなくなってからの事である。
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