OP連載
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「《……お前が鼠か……!!》」
石畳が波打ち、甲高い声が人型を作ってゆく。
馬の首に掴まり、見上げたヴィオラの腰には、もう銃口はなかった。
後にいたはずのシノの姿も、今は上空にある。
「あなたは……ピーカ!?」
「《ヴァイオレットを捕らえたのはやはり”音凪”……ドフィの読み通りだ》」
「”フレア・ヴィブラート”!!」
シノとヴィオラを引き離すように現れた石の壁の端が爆発する、が、それもほんの僅かである。
見聞色も合わせて探れば、本体にはなんら影響を与えていないのは明らかだった。
「《その程度の攻撃でおれが倒せると思ったか!?》」
しかし、目に見えない音の膜はヴィオラを取り戻そうと、風穴を空けるためではなかった。
凄まじいスピードで迫る、圧倒的脅威に対する牽制であった。
人型の岩石の、人では有りえない大きさの腕が、シノのいた場所を何度も殴るのを、町の人々が次々に目撃する。
「あれはっピーカ様!!」
「ピーカ様!?」
「何をしておられるんだ?」
衆目には、何もない場所で岩石ピーカの腕が空振りをし続けているように見えている。
すると、何が起こっているのかと驚き恐れる人々の頭上に、不敵な笑みを浮かべる男が浮いていた。
「おっと……!!危ねェ危ねェ」
「あれは…!国王様!!」
「何故ドフラミンゴ様がこんなところに!?」
フレア・ヴィブラートの牽制は、この男に向けられたものであった。
ドフラミンゴは建物の間にひいた糸に足をかけ、僅かに千切れて舞い落ちるコートの羽を見て笑う。
「よォ”音凪”」
「!!」
悠然と空中に立っているだけのように見せかけて、ドフラミンゴが背に隠した手指は、人形師のそれのように動いている。
肉眼では捉えにくい糸を、会話に乗じてシノへと飛ばす。
見聞色の覇気をもってすれば、音波化したシノの位置もわかる。
なまじ探知に優れたオトオトの実の能力のせいか、シノは見聞色より武装色の方が得意である。
そのためか、目前に迫る糸への対応が遅れた。
腕に感じるピンとした感触に、シノはすぐさま”フレア・ヴィブラート”を防御体勢へ移行させる。
攻撃用に帯のように伸びていた音波の膜が、シャボン玉のようにシノを包んだ。
そのせいで、シノに巻きついていた糸がぷつりと切れ、他に伸びていた糸も次々と切れていく。
膜に包まれ、音速移動をやめたシノが姿を現した。
「やっと見つけたってェのにツレねェなァ!せっかくのコートが台無しだぜ」
「……」
「ヴァイオレットを唆したのはお前だな」
ドフラミンゴの視線が、建物の影で立っているヴィオラに向けられる。
「………ヴァイオレットには用がある。あなたには返さない」
「用だァ?こっちはお前のせいで今日1日、あのクソガキに舐めたマネを許しちまってさんざんだったんだがなァ」
ヴィオラの前の石壁がなくなり、ドフラミンゴとは逆側――つまりシノの背後を陣取るように、岩石体ピーカが現れた。
その騒ぎに、海軍も続々と集結しつつある。
「何だ?あの子供は」
「国王様はあの子供を追って?」
「国民達よ!下がっていろ…!!こいつは”七武海”海賊トラファルガー・ローの右腕”音凪”のシノ!!何を隠そうこいつらこそが今朝の『王位放棄誤報事件』の犯人だ!!」
「何だって…!?」
「あんな子供が…七武海の片腕?」
「おれもガキを殺すのは好きじゃねェが……国家転覆を目論んだ大罪人とありゃァ話は別だ!!」
「あいつらのせいだったのか!」
「ドレスローザがめちゃくちゃになる所だった!!!」
「そっそうだ!!!いくらガキでも許さねェぞ!!」
今朝の事件が色濃く胸に残る市民達は、屋根の上に立つ小さな存在にいっせいに怒りの声をぶつけた。
中には、言葉だけに飽き足らず石や持ち物を投げるものまでいる始末。
それは尽く膜によって阻まれたわけだが、けして気分のいいものではない。
地上からその光景を見ていたヴィオラは、人知れず口を手で覆っていた。