OP連載

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「…ここを通れば地下交易港に出るのか」

「いかにも!そこにいるシュガーを倒し、ドフラミンゴの首を獲る!!」


小さな小人達の作った穴は、人間1人でギリギリの広さだ。
トンタッタからここへ来る道と同程度の広さを想像していたので、誤算はフランキーである。


「フラランド。お前その『肩』と『腕』外した方が」

「外せるか!!おいこんなせめェ通路おれランドにゃムリだ!!!」

「無理じゃねェ……”ROOM”」

「へ?―――うおおおおォ!!?」

「「「「ええーーーっ!!!?フラランドがァーーー!!!」」」」


肩と腕どころか肉体に至るまで、ゆうに20以上は分割されたフランキー。
本人がサイボーグなだけに、最早完全に部品扱いだ。
落ちてきた鉄と人の塊をつい受け止めてしまった小人達は、それでも喋り続ける首にまた驚いている。


「てめェトラ男!!」

「小分けにすりゃ行けるだろ」

「そりゃそうだが!するならするってせめて予告してからにしろ!!」

「いっ生きてるれす!」

「フラランドは頭だけになっても生きられるのれすか?」

「んなわけあるか小人共!いくらおれがスーパーでも本当なら、分割されたらただの粗大ゴミだ!!こいつの能力だよ!」

「ヒーローはそんな事もできるのれすか!?」


「いやそれどんなヒーローだよ…」


驚異的な柔軟さで受け入れている小人達に、ボソッと言うのは勿論皆のヒーロー、ウソランドである。
武器をくれなければ悪い人、と頑なに主張したりして頭が固いと思いきや、信じ安すぎてそうでもない。
彼らの精神構造は一体どうなっているのか。


「まるでぼくの”ヌイヌイ”の逆れすね」


レオがそう感心していると、ローは通路の周りに待機している面々を見渡し言った。


「おいてめェらよく聞け……これはおれからの忠告だ。それでもやるってんなら止めはしねェが―――工場はともかくシュガーとドフラミンゴの首を獲るつもりならやめておけ」


何を言われたのかわからない。
小人達は顔全体でそれを現し、そこらから「…え?」などの声が上がる。
そして質問と反論がやってくる前に、ローは続ける。


「おれ達はこれから工場を破壊する。取引相手のカイドウは、スマイルを作れなくなったドフラミンゴを生かしてはおかねェ。そうなればこの国にいくらかのダメージはあるかもしれない。だが、この国全ての人間が皆殺しにされる可能性がある作戦を決行しようってんなら、その覚悟をすべきだとおれは話してるんだ」

「!!どういう事!?何故オモチャを解放する事が…国民全ての命を奪う事に繋がるの!?」


そして、真っ先に反論したのはヴィオラだった。
兵隊の言うとおり、オモチャの解放による混乱は免れないだろう。
多くの犠牲が出るかもしれない。
ローの言う可能性もないわけではないが、あくまで極論ではないか。
この国を乗っ取り、裏社会において絶大な富と権力を得たドフラミンゴが、みすみす全てを捨てるだなんて考えられない。


「どういう意味だ?」


国民の命を持ち出されて感情的になっているヴィオラとは反対に、兵隊の声はひどく落ち着いたものであった。
オモチャが解放された後の混乱など、これまでどれだけ予想しようにもまったくわからなかった。
それはそうである。
人に戻った元オモチャ達に加えて、オモチャだった人々の記憶を取り戻した国民達もいる。
誰がどれだけの力で一体何をなし得るのか…それはきっと誰にもわからない。
ずっと、そう思っていたのだ。
数十分後のドレスローザがどうなっているか。
少なくとも、この男には高確率でそうなると予想される事柄でもあるというのか。
兵隊は、単純にそれが知りたいと思った。


「ローランド……君は我々の事もそうだが…何よりドフラミンゴの事をよくわかっているような口ぶりだ。10年奴に支配されていた我々よりもずっと…!何か根拠があるのか?そして君はどうなると思うんだ?」


「……―――おれは昔…ドフラミンゴの部下だった。あいつがこの国にやって来る以前のだがな」


「ヒッヒーローの仲間が…」

「ドフラミンゴの…?」


信じられない、とまたしても混乱する小人達より目線を上げれば、こちらも驚いた様子のウソップとロビンがいた。
彼らも詳しくは知らないが、まさかこの場で話すとは思わなかったのだ。
フランキーは聞こえているだろうが、既に色々と運ばれている最中だ。
正直に言ってしまったローを前にした兵隊は、ある程度予測していたのか「そうか……」と重く頷いた。
思うところがないわけではない。
少なくとも彼の言葉を信じるのであれば、彼はドレスローザに攻め入ってはおらず、また相当幼い時分の話となる。
少年時代に暗い影を落とした経験を持つのは、兵隊も同じであった。


「この島には既に海軍大将がいる。もしあいつらの前でオモチャが人に戻ってみろ。オモチャの件がバレれば地下交易港の事も明るみにでる。そうなればドフラミンゴは七武海の称号剥奪どころの話じゃなくなるんだ。証拠であるこの島ごと目撃者を全て消し去ったとしても何ら不思議じゃねェ」

「島ごとって……そりゃいくらなんでも無理があるんじゃ…しかも大将がいるってェのに」

「それが不可能と言い切れねェところがドフラミンゴの恐ろしい所なんだ。この10年…辛酸を嘗め尽くしてきたお前らにはよくわかってるはずだが?」

「……」


兵隊とヴィオラは、言い返せない事実にとんでもない事に気づかされたように思う。
オモチャの解放による混乱で、この国に与えるダメージが計り知れない事は最初からわかっていたはずなのに、全てが消し去られるかもしれない可能性を今更ながらに思い知らされたのだ。
ヴィオラが10年前、リク王の助命を条件にドンキホーテファミリーになったのも、死んでは何もならないと理解していたからだった。
生きていれば、機会は訪れるかもしれない。
そう信じて、それだけを希望にこの10年を過ごしてきたのだ。


「―――だが……それでも……」


隊長、と小人達の声が漏れた。


「……10年前、一度滅びたこの国で………我々は奴の箱庭で死霊のように生きながらえてきた……そうとは知らず、見せかけの豊かさに幸福を覚える者達と、その影で行われる悪しき循環を、我々は絶たねばならない!我々の手で絶たねばならんのだ!!」


カイドウの軍勢はドフラミンゴを追い払うかもしれない。
オモチャ達も人に戻れるかもしれない。
だがその後は……?
ドフラミンゴが去りさえすれば、かつてのドレスローザに戻れるのだろうか?
平和を尊ぶリク一族の手に返るのか?
ドフラミンゴがカイドウに挿げ替わるだけではないのか?
それでは意味がないのだ。


「かつて、貧しくともこの国の誰もが世界に胸をはれたドレスローザを取り戻す時は今を置いて他にはない!!罪を背負う覚悟ならある!!だが、けしてしくじりはしない…ドンキホーテファミリーにもうこれ以上踏みにじられる命を許しはしない!!!そのために今日、私はドフラミンゴを討つ!!!!」

「―――そうか……ならもう言わねェよ」


そう言って背を向けたローの表情は、帽子のつばが隠した。
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