OP連載
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こちらは王の台地、ニコ・ロビンからの電伝虫が終わってすぐの事である。
「よし行くぞ!」
ひょいっと小脇に抱えられたシノの反対側には、ゾロの姿もあった。
「……待って!何で抱えるの?」
「ミンゴんとこ行くに決まってんだろ!!」
ドドドドッと土煙を上げて走るルフィと、落ち着き払った様子で抱えられているゾロを見て、シノはさあっと顔を青くした。
まさか…
「待って!私まだ海楼石がっ」
「そのうち外れるよ」
「何を根拠に!?」
その闇雲な自信は何だ。
まるでいつものローを彷彿とさせる。
船長というのは、どいつもこいつもこういう生き物なのだろうか。
「どういうルートで行くんだ」
「まっすぐ!!」
王の台地を飛び降りた。
「待ってろドフラミンゴ〜〜〜〜!!!」
「わあああああんキャプテ〜〜〜〜ン!!!」
膨らんで風船となったルフィが、遥か下の地面にぶつかりバウンドする。
その衝撃で絞まる首にシノとゾロがぐえっとなれば、瞬く間に萎んでいくゴムから空気が抜け、今度は横に飛んでいく。
苦しさが止み、やっと着地したと思ってシノが閉じた目を開けると、そこは針の筵。
敵だらけであった。
「”麦わらのルフィ”!!!”音凪のシノ”!!”海賊狩り”!!!」
周囲360度を囲む敵を見たルフィは、今頃驚愕の表情を浮かべた。
「えれェ所に落っこちた!!!」
「……やっぱり知らない人なんて…嫌い…」
「?知らなくねェだろ友達だ!!」
「言っとくがどこに落ちても”えれェ所”だ。この国中が敵なんだからよ!!」
だから落ちなきゃ良かったんだよ!
なんでわざわざ落ちたんだよ!
シノは頬を膨らませて歯を食いしばった。
「とにかく走るぞ!!」
「ゾロ!!そっちじゃねェぞ!!」
「!?そっちでもないよ!!!」
……シノは後にこう語る。
あの時私は死を覚悟した、と―――
「うわっ何だァありゃ!!?」
「あれは…さっきの石の奴か!!」
「あっちは……」
王の台地から見た光景と照らし合わせるならば、コロシアムのあるはずの方向だ。
巨大な石の巨人が、地面に向かって腕を振り上げ地形を歪めている。
敵を切り伏せ、道を開くゾロの言葉にシノは大きく頷く。
「ってェ事はお前の送ったもんが届いてたっつー事だな!どうりでこの辺の奴らは手応えがねェわけだ」
「あっちはトラ男がいるから大丈夫!!それより何か変な声しねェか?何か高っけェの」
「はァ?空耳だろ」
「……」
耳のいいシノは、その正体を遠目に睨む。
あれを目印に、幹部達が続々と集結しているだろう。
なのに今のシノは、悔しいが何の役にも立たない。
ぎゅっと引き結ばれた唇が、舌を噛まないためじゃない事くらい、ルフィにだってわかった。
「心配すんな!!トラ男もおれの仲間も強ェんだ。絶対負けねェ信じろ!!」
「……」
海楼石のついた両腕がはためくシャツを潜り抜け、悪戯にルフィの横腹を突付いた。
ルフィの身体から一瞬のうちに力が抜け、萎びた茎のようにビニョリとなってから、またすぐに復活する。
「何すんだおまっ(ピトッ)ひゅえ〜……お前っ!!?」
敵を殴りながら、顔を真っ赤にしてシノを怒るルフィに、再度海楼石がピトッと付けられる。
それでも片手間で敵を薙ぎ倒すのだから、4億は伊達ではない。
しかしシノは、むすーんと頬を膨らませてちっとも悪びれなかった。
「力抜けんだろ!!」
「…私だって抜けてる」
「おれ戦ってんだから危ねェじゃねェか!!っつーか何で邪魔(ピトッ)ひゅんらよ……いいかげんにしねェと落とすぞお前ェッ!!?」
「遊んでんじゃねェぞお前らァ!!!」
「遊んでねェ!!」と言い返したルフィは、鼻の穴を大きくしてイライラを鼻から出すと、目の前の敵に集中した。
自分が悪くないのは確かだと思うが、何故だかシノが怒っているのもわかる。
わからん!まあいい!と男らしく口を噤んだルフィの横顔を、シノはチラッと見てから、ふん!とすぐに逸らした。
新参者への風当たりが強いのと、同じ心理である。
新入りが入ると、よく「お前おれの下ね!」と言いたがるベポの気持ちが、少しだけわかった気がしたシノだった。
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新参者(キャプテン歴)=ルフィ<管制官
という式。
口下手な管制官の心をコミカルに言うとこんな感じ↓
「言われなくてもわかってるのよこの新入り!(ピトッ)新入り!(ピトッ)」
やってる自分も(海楼石で)結構辛い。
でも何か悔しいんで頑張る。