OP連載
□32
1ページ/2ページ
「ピーカはどうした?」
ドフラミンゴは、自身が発端となったゲームにより、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した王都を見下ろしていた。
高みの見物を決め込み、膝を組んでソファに肩肘をついていたドフラミンゴは、石造りの王都では他の追随を許さぬ岩石巨人の姿が見えなくなった事で眉をひそめる。
「べへへっ!あいつの事だァ〜〜やられちまったわけじゃあるめェ〜〜」
「おれもそう思いたいがな……絶対なんてもんはこの世にはねェ」
ピーカが最後に動いたのがコロシアム付近だという事から、マンシェリーは少なくとも一時はあそこにいたはずである。
しかし、並みいる幹部達が挙って向かったコロシアムからは未だ、マンシェリーを捕獲したという連絡は無い。
ドフラミンゴは、懐から電伝虫を取り出した。
「ディアマンテ。旧王の台地へ向かえ」
********
牛の背に乗っていたシノの耳に、電伝虫の声が聞こえた。
反応したのはゾロで、スーツの内ポケットに入れていたそれを手のひらに乗せる。
「何だ」
『私よ。今王の台地にいるわ。フランキーだけコロシアムでまだ戦っているけれど…そっちは?』
「おおロビン!!今〜〜…1段目の山だけど『ひまわり畑』って所に向かってる」
『ひまわり畑は4段目よ!?それよりヴィオラがシノの錠の鍵を見つけたの』
それを聞いた当事者のシノが顔色を変えた。
―――現在、電伝虫を手に取るロビンの周りには、大勢のリク王軍や別れたままだった錦えもんの姿もある。
コロシアムに集う大勢の敵に足止めを余儀なくされていたロビン達の形勢が逆転したのは、彼らのおかげである。
彼らはスクラップ場に捨てられたままでいた、元オモチャのドレスローザの兵士達である。
彼らを引き連れて現れた錦えもんは、無事仲間のカン十郎と合流出来ていたらしい。
ただ、オモチャの解放とともにスクラップ場にいた人間達からの頼みで、これまた面妖な能力を操るカン十郎が一肌脱いだおかげで、コロシアムのならず者達と鉢合わせし、そこへまた、王の台地の内部からコロシアムに降りていたヴィオラが現れた。
リク王家に忠誠を誓う彼らが王女の命に従わぬはずはなく、レベッカを救った後のヴィオラに真っ先に駆け寄ったタンクを筆頭に、辺りの敵を蹴散らしてから、王の台地の頂上にいるリク王とレベッカの元へと合流を果たしたのだった。
「それでレオ…ここからの方がいいというのはどういう事?」
「はいれす!!下は戦場、危ないですから上から行きましょう!!」
一旦下へ降りようとしていたヴィオラを止めたのは、コロシアムで合流したレオであった。
彼はヴィオラに返事をすると、ロビンの肩に乗る。
「こんにちはトンタッタ族のレオれす!!今からヴィオラ様とレベッカ様とロビランドをそちらに超特急でお連れするれす」
「あとで4段目の『ひまわり畑』で落ち合いましょう!!」
『お前らどうやって追いつく気だ?』
「説明は後れす!!とにかく『ひまわり畑』で!!」
ゾロの電伝虫が切れた後、ルフィはにかっと笑ってシノを振り返った。
「ほら何とかなった!!!」
「(えー……?)」
シノは何ともいえない顔で両手の錠を浮かせて、仲間である剣士を見上げた。
口以上にものを言うシノの目が訴える。
解せぬ、と。
見下ろすゾロは、黙って首を横に振った。
無駄だ、と。
前だけを見て牛を囃し立てるルフィが、気づく様子はなかった。
そして、シノと、その後にいるジェット、アブドーラを遮るように現れた人影に、シノはまた顔色を変えた。
一時は、もう会う事も叶わないかと思った人が、まっすぐシノを見た。
見つけてくれた。
「シノ!!!」
「キキキキュイイイ〜〜〜〜!!!!(姫様よくぞご無事で〜〜〜〜!!!!)」
「!!――っキャプテン…スータ!」
突然、背中にかかる重量が増して驚いたウーシーが飛び上がった一瞬、反動で放り出されそうになったシノの身体が掬い上げられる。
シノの寝ていた場所に滑り込んだ男を見つけたルフィの顔が、パッと笑顔になった。
「おおトラ男!!そっちはうまくいったみてーだな!!!」
「ああ…麦わら屋…!!だがここまで………いや……」
「うん?」
国を挙げてのサバイバルゲームになる程、事を大きくするつもりのなかったローは、関わったからには台風の目になる才能がぶっちぎっている同盟相手に何か言おうとして、やはりやめた。
それよりもと、腕に抱いたシノと向かい合う。
言いたい事は山ほどあった。
勝手に捕まりやがってだとか、その怪我は、海楼石は何だとか。
だが、今は全部後回しにしたっていい。
「シノ」
呼びかければ、シノもローに負けず劣らず、見上げる視線を険しくしていた。
「おいトラ男何て顔してんだ!シノはミンゴとだって立派に戦ったぞ!!」
「うるせェ!!…んな事はわかってる」
「ならいいや」
あっさり引き下がったルフィは、再び前を向いた。
ローだってわかっている。
その上で、シノが考えている事も。
だから、全部吹き飛ばして、そして
「よくやった……!!」
「!」
海楼石が触れてしまう、と身を引こうとしたシノを許さずに、ローは横抱きにしたシノとの距離をゼロにした。
「よく生きてた……これ以上の事はねェ…―――!!」
また失わずに済んだ。
一番大事なものが……指の間を零れ落ちる雫のように、手をすり抜けてしまうあの絶望を…また味わうところだった。
黒いパーカーに顔を押し付けられたシノだけが、その肩が僅かに震えているのに気づき、目を剥いて、じんわりと眼球に広がる水分ごと、自分から顔を埋め返した。
眼前で行われる男女の再会に、ジェットとアブドーラが乙女さながらにキャッと両手で顔を覆うも、指と指の隙間が不自然に開いている。
何とも言えない剣士の顔が、げんなりする。
「……ごめん…キャプテン…私……ちゃんと」
「話を聞いてなかったのか馬鹿が…何も謝る事はねェ」
「……うん……っ」
「うおおおんっいい話だよ〜〜!!」
「感動したよ〜〜!!もうロリコンでも気にならねェよ〜〜!!!」
「ァアっ!!?」
感涙に咽び泣いていた男2人を、般若の如き形相が振り返る。
「「ヒィ〜〜ッ!!」」
「誰だか知らねェが……死にたいのなら首を出せ」
「やめてやれ…そいつらただの馬鹿だから」
ローに抱えられたシノまで、顔の上半分を暗黒にして海楼石で素振りっぽい事をしている。
キャベツの二の舞にする気のようだ。
この世界の体格基準値のせいで周囲に誤解を生みやすいシノにとって、大変敏感なフレーズが聞こえたので仕方のない事と言えよう。