OP連載
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「鳥カゴを通り抜けられる小さな子達は外へ!!それ以外の子達は皆中心へ!!急いで!!!」
動物達の呼応が、ドレスローザ全土を埋め尽くした。
島を震わせる程の咆哮は、人々にその命の数を思い知らせる。
団結した動物たちの足音は、逃げ惑う人々を軽く凌駕していた。
食物連鎖を考えれば当然の事である。
元は自然豊かな国だったドレスローザには、発展した王都こそ人間とオモチャの姿ばかりが目立っていたが、町の外は未だ緑豊かな土地が広がっているのだ。
そして今回の鳥カゴは、王都のみならず、島全土を覆いつくしている。
シノの双肩には今、それらの命の重みが圧し掛かっていた。
********
「失望したよ」
王宮に辿り着いていたルフィとローを迎えたドフラミンゴは、肩肘をついて笑う。
身の程知らずの愚か者達を前にして―――
シノと別れた少し後、ひまわり畑を突っ切っていた一行の前に現れたグラディウスによって、ファルルの足が背後から打ち抜かれた。
その際ルフィとローだけが能力を行使し、王宮へ侵入。
シノから得た情報でシュガーの身体的特徴を理解していたローにより、油断させてタッチ、という彼女の常套手段はあっさりと看破される。
手で触れた相手をオモチャにする、というのを逆手に取ったローは、彼女の両腕を肩から斬り落とすと、その腕を逆さに縫合した。
肝心の手のひらが自分の肩を掴むようにつけられたシュガーは、もう誰にもタッチする事はできないだろう。
ついでに、驚愕のあまり立ち尽くすシュガーの膝から下も斬り落としたローは、その足を脇にあったプールに捨てた。
能力者であるシュガーは、おかげで尻餅をついたまま動く事すらままならない。
見た目が幼い少女相手の情け容赦ない行為に、ルフィが少し気の毒そうにしたが、ルフィと違って作戦会議で寝ていなかったローが舌打ちとともに能力と、実年齢はおそらく大人である事を説明すれば、目を丸くして驚いた後、先を急いだ。
辿り着いた最上階で彼らを待っていたのは、足を組んで肩肘ついたドフラミンゴとトレーボル。
そして、操り人形とされたベラミーである。
ルフィとローの合わせ技でドフラミンゴとトレーボルの意表をついたまでは良かったが、ベラミーと”糸ジョーカー”によってルフィと分断されたローは、ドフラミンゴと事実上一対一の戦いをしていた。
トレーボルは先の攻撃、ローの”ラジオナイフ”によって行動不能にされている。
コラソンの想いとともに生きてきたローの成長を嘲笑うかのように、ドフラミンゴは数々の攻防の中で、ローの上をいった。
空中で腕をとられたローの上に、ドフラミンゴの足が乗る。
その足には、”糸ノコ”がピンと張っている。
「――コラソンが命を賭けてやった事は結局全てムダだった」
「――それはこれからおれが決める!!」
「?」
「おれが死ぬまでにやる事全てがコラさんの残した功績だ!!!」
「成程そりゃ泣ける話だ…そうさ!どんな悲劇も失態も!!起きちまった事だけが現実っ!!!」
「!」
高度が下がっていく。
「お前が”オペオペの実”を食って逃げた事もパンクハザードでおれに牙をむき!!今ここにいる事も!」
「ぐわァアア!!!」
「べへ〜〜〜っ!!!やりやがったべっへへへへ!!!”糸ノコ”!!”糸ノコ”!!」
王宮へまっすぐに落下した彼らを、手を叩いて喜ぶトレーボルの視線の先には、右腕を斬り落とされて苦しみもがくローの姿があった。
「うわああああああああああああ!!!」
腕を押さえ、痛みに眩む目でローがドフラミンゴを見上げた頃には、彼は余裕綽々で銃を構えていた。
「フフフ!!もう1人の”D”に感化されてか…お前が直接おれに挑んできたのも起きちまった現実!!
――だからおれは許す!!!
実の父と弟を許した様に………!!!
”死”をもってな!!!」
「くっそォ……!!!」
「―――だが」
その時、王宮内部で戦っていたルフィが、ベラミーと共に彼を追い込んでいた”糸ジョーカー”を倒した。
糸のほつれた”影”が、天井を壊して打ち上げられる。
しかし、ドフラミンゴが銃を下ろしたのはそのせいではなかった。
それとほぼ同時にドレスローザに響き渡った”声”の主が、能力を取り戻し、生きていたからだった。
「やはり生きていたか―――”音凪”」
「!」
「お前ならわかるよなァ…ロー?お前の命がまだ首の皮一枚繋がっている理由を……!!」
「…!!」
「この”鳥カゴ”の中にあっておれが唯一足元を掬われる可能性がある能力……それが”オトオトの実”の力!!!
そしてお前が食った”オペオペの実”の”不老手術”……!!!」
電伝虫の念波さえ封じる”鳥カゴ”の中にあって、外界との接点を持ち続ける事が出来ている唯一の人間、それがシノだ。
”鳥カゴ”は、純粋な音波や空気そのものを遮断出来るわけではない。
シノがその気になれば、彼女だけ”鳥カゴ”の外へ逃げ延びる事も、”鳥カゴ”の外へ出た瞬間から電伝虫を使う事だって出来るのだ。
仮に、現在のドレスローザを”鳥カゴ”の外から撮影でもされて、後日他の島へ落ちのびた後にでも世界に配信されてしまえば、この”鳥カゴ”の存在意義すらなくなってしまう。
――もう1人、メラメラの実を手に入れた革命軍の参謀も”鳥カゴ”からは出られるだろうが、島から出られるかといえば”NO”だ。
逃がすつもりもない。
「”自然系(ロギア)”って奴はつくづく便利だ―――だが、能力なんぞ結局は使いようだ。あの馬鹿みてェに甘い女はどうやら自分の命よりお前の方が大事らしい」
「!」
「あの女を呼べロー…!!お前の声が届かねェはずはねェ」
島中に音を届けられるという事は、島中の音を聞けるという事。
今更ドフラミンゴがそんな簡単な事に気づかないわけがない。
あのシノが、ローに気を配っていないはずがないのだ。
腕を落とした絶叫とて聞こえていただろうに。
「よく躾けられてるようだが……お前はどう思う?――あと何回”音凪”はお前の”声”を無視出来るかな」
ドフラミンゴには、確信があった。
ローの命が尽きるより先に、シノは絶対やって来る。
引き金に指をかけて回した銃を握り直し、ローの心臓の上に銃口を向け――次に腹、足へと思わせぶりに下ろしながら、またひとつ、ここで確信が生まれた。
「―――そうか……お前もそうなのか………フッフッフッフ!!」
「……だったらどうした」
未だ瞳に屈服の色が見えないローを笑ったドフラミンゴは、トレーボルを呼ぶ。
”ラジオナイフ”の効果が持続する数分は、とうに過ぎていた。