OP連載
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「ヴィオラ様!?ダメれす!!ダメれすよそんなの!!」
「いいえ」
ヴィオラの目には、旧王の台地の様子も見えている。
父であるリク王や、集まった兵士、民衆が突然のディアマンテ襲来に負傷したようだが、キュロスによって形勢は逆転しようとしている。
ディアマンテが倒れれば、もう残るファミリーの強敵はドフラミンゴただ1人。
ひまわり畑のグラディウスも、今しがた倒れた。
「ドンキホーテファミリーが崩壊するというのに…幹部だった私が……何のケジメもつけないなんてムシが良すぎるでしょ…!?」
「リク王様は!?レベッカ様は…っリク王家の皆様はどうするつもりれすか!?」
「ごめんなさいレオ…でもわかって。命を無駄にするつもりなんてない。ただ……」
ゾロとドフラミンゴの戦いによって、王宮の一角が崩れ落ちる。
足場が崩れ、体勢が不利になったところを、空中戦に分があるドフラミンゴの糸が飛ぶ。
「ドフラミンゴが倒れるまで私はここを動かない!!」
「……言ってもきかないのは昔からでしたね」
ローの腕を繋いだレオは、昔馴染みの王女と並び立った。
「叱られる時は一緒れす!!」
********
「じゃあスータ…ここは頼んだよ」
「キュッキュ!!(おまかせください!!)」
シノは先に負傷した母親を、次に娘をシマウマに抱えて乗せた。
「……この子があなた達を乗せてくれるって。中心に向かうよう言ってあるから」
「ありがとうございますっ!!ありがとうございます!!あのっ」
「お姉ちゃんはっ?一緒に行かないの?」
「……助けたい人がいる…から」
本当は、話している暇さえ惜しい。
でも、これだけは言っておかなくてはならない。
「この子達の事をお願い。この子達を怖がってしまう人もいると思うから……そうなったら…危なくないんだって伝えて欲しい。この子達のかわりに……」
合わせたくなかった目を合わせ、見知らぬ女の子と母親を見上げる。
精一杯唇を震わせるシノの気持ちと恩義から、2人がしかと頷くのに頷き返して、シノはシマウマの腹を軽く叩いた。
走り出したシマウマの頭の上にくっついたスータが、振り返って敬礼するのを見送って、シノもまた姿を消した。
「……あの女の子…もしかして……」
手綱もないシマウマから、娘共々振り落とされぬよう気を張る母は、思い至った考えにふと振り返る。
彼女の姿は既になく、喧騒で母の呟きが拾えなかった娘が「どうしたの?」と母を見上げる。
「ううん……なんでもないわ」
この国に突如訪れた―――いや、本当はこの子を授かるずっと前からあった災厄の火は、今まさに轟々と燃え盛っている。
非力な自分達は、儚く命を諦めなくてはならないのかと覚悟さえしたが、命を救われ、人より速く駆ける足にまで恵まれた。
とにかく、この子と…この子だけでも助からせなければならない。
幸運が齎した可能性を取りこぼさず、娘を守る決意と覚悟を固める母の腕の中で、娘はこんな時だというのに笑っていた。
「動物のお姉ちゃん、やっぱり優しい人だったんだね!!」
「え?」
「あのお姉ちゃんでしょ?”ハート”のお姉ちゃん!!」
「……」
やはり、という気持ちが母の胸に広がる。
娘の命と共にありがたがる事しか出来なかった幸運の正体はやはり、先程の声の主だったのだ。
もっと言うと……昼間、ドフラミンゴ王が追い詰めていた海賊の少女だ。
あの時自分は何をしていたかと考えるだけで、胃がサッと冷たくなり、潰れた足の痛みさえ遠ざかる。
アドレナリンのせいだけじゃなかった。
ぎゅっと歯を食いしばる母に、下から心配する声がかかる。
「お母さん…?足のケガが痛いの?」
「っいいえ…っ全然っ大丈夫……大丈夫…っ」
―――夕飯の、買出しをしていた。
あの時、私は……町にいた。
『良かった……!!あんな子まで海賊だなんて……娘に近づく前に捕まって良かったわ』
戦っていた彼女の顔は遠く速く、よく見えなかったが、血を流して石畳に突っ込んだ彼女の近くにいた。
満身創痍の彼女を見て、近所の奥方と一緒に喜んでいた。
「……助けてもらったんだもの……!!生きて、せめて……――お姉さんのお願いを守りましょう」
「うん!!」
海賊の正しさなど知らずとも、恩に報いる事は正しいと思える。
母娘の様子を聴いていたスータは前を向いたまま鼻を鳴らし、シマウマの耳がピクリと回った。
「…キュ」
どうやら、振り落とさせる程の恩知らずではないらしい―――小さなコウモリがそんな事を考えているなどと、母娘は知る由もないのだった。