OP連載

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「タイムオーバーか…」



糸が引き、小さな空洞が出来たシノの身体が、ローに覆い被さる。
ローの喉から、引きつったような音が鳴る。
反射的に受け止めようとした腕は、そういえばほぼ使い物にならなくて、残った腕も思ったようには動いてくれなかった。
胸に当たったシノの顔が、ずるりと滑り落ちていく。



「っこんにゃろォーーーーッ!!!!」


怒りに猛ったルフィの足が、ドフラミンゴに伸びる。


「何でってめェっ!!?」


どこかへ糸をかけ、くるりと回ったドフラミンゴは腹に手を当て口を開いた。



「――…時間さえくれりゃあ……おれは自分で応急処置できる…!!」

「……………!?」

「おれの体内では今…”糸”による内臓の『修復作業』が進んでいる。ロロノアが”鳥カゴ”の方に気づかなきゃァもう少しゆっくり出来たんだが…」


赤に塗れた空洞から目を離せず、唖然としていたローは、その言葉を聞いて息を呑んだ。
目の前の惨劇のせいで一瞬、理解が追いつかなかった。

と、いう事は……という事は………


「……!!何…だと……!?」


ドフラミンゴの口角がニヤリと上がる。
全てを理解したローの顔が、愚か極まりないと言うように。


「能力は使いようだ…”回復”とは少し違うがな……」


ローの頭の中で、この時様々な事が氾濫していた。


――倒れたシノ――治療――失う――コラさん――ドフラミンゴ――可能性の見誤り――――……また…おれの、



「―――ぅっうゥアァあアアああああああーーーァアッ!!!!!」



無我夢中で”ROOM”を発動する。
手のひらから広がるサークルは、一度シノを覆う程まで広くなったが、数秒でその大きさを半分程に縮めてしまう。
焦ったローが力を込めても、広がるのはやはり一時的なもので、サークルの円周は不安定にブレ続ける。


「っぐッ畜生ォ……!!!」

「フッフッフッフ!!!!おれが、おれがと吠えては粋がり…!
 勝手に自爆してくれたおかげで、てめェはもうそいつを満足にオペする力も残されてねェ…!!」

「くそォ!!!」


それなら最悪、患部だけでも覆えれば……!!
僅かでも動く片腕1本で、命を繋ぐ円を描く。


「シノ……!!おいシノ起きろ!!!!」

「惜しかったなロー!!おれという”王”に歯向かった時点で、所詮お前もコラソンも”音凪”も死「”ゴムゴムの”ォ」!!!」

「”JET銃(ピストル)”!!!」


失わずに済んだかもしれない命を前に、隙だらけになっているローへ指を向けるドフラミンゴに、ルフィの拳が飛ぶ。
矛先を変え、またしても攻撃をかわしたドフラミンゴの指が、ルフィへと向けられる。


「”超過鞭糸(オーバーヒート)”!!」

「!!」


凄まじい破壊力の糸は王宮の石を割り、鞭のようにしなってルフィのすぐ横を通り抜ける。
軌道を変えた鞭の先は、ハートを背負った背中に向けられていた。


「させるかよ!!」

「ゾロ!!」


目標をルフィと見せかけ、なおローを執拗に狙った攻撃を、ゾロの二刀が退ける。


「トラ男達を頼む!!」

「ああ!!そっちも早くケリつけろよ」

「まかせろ!!」

「腹立たしい安請け合いだ」


己より遥か下の世界しか知らない若造共の、出来もしないやりとり。
ドフラミンゴの糸が、彼の怒りを表すように鋭く、速さを増してルフィを狙う。
ロー達から引き離したいというルフィの思惑にあえて乗ってでも、先に始末してやってもいいと判断したのか。
互いに標的を絞りあったルフィとドフラミンゴの戦いは、地を変え空を変えて続いていく。


「行くぞトラ男!!」

「だめだ…っ!!こいつを動かせる状況じゃねェ!!」

「!」


また血を吐いたのだろう。
片腕をシノの傷口に向け、拭いもせずにいる口元が赤い。
何とか気力でもって”ROOM”の円を傷口より少し大きい程度に安定させたローは、うつ伏せに倒れたシノの傷口ギリギリに手をかざした。
千切れた血管から溢れ出す血液を止め、内臓に欠損がないかを診ていく。


「!!何だと…!?」

「どうした!?」


ただならぬ様子のローが呟いた。


「………ありえない……」


呆然としながらも、円だけは大きさを維持している所はさすがである。
ロー達の壁となっていたゾロは、どういう事だと眉を寄せた。
答えは、意外な所から投げかけられる。


「ローランド!ゾロランド!」

「コウモリ族の姫君はご無事れすか?」

「生きてさえいらっしゃれば”姫”が治してくれるはずれす!!」

「姫…?」


ゾロはともかく、ローはそれでピンときたようである。
うつ伏せに倒れたシノの手を見る。


――そうだ…シノは何かを取り出そうとしていた。


既に塞がりつつある傷口には極力負担をかけないようにしながら、膝と片腕を器用に使ってシノの身体を横に向けると、シノの両手は何かを包むように握られていた。
指の隙間からは、黄色く淡い光が漏れ出ている。
シノを膝に凭れさせ、ドクドクと早鐘を打つ心臓に負けないくらいの速さでシノの手を剥がせば、金色に波打つ豊かな髪と掲げた両手に光を宿すマンシェリーの姿があった。


「……お、まえは…」

「きゃっ!あっあなたは……!?」


鷲掴みにされた記憶が蘇り、思わずビビッてしまったマンシェリーに、カブから話を聞いていたレオがすかさず「姫!!」と呼びかける。


「レオ!!」


「カブさんからマンシェリー姫もいると聞いた時にはヒヤッとしたれすけど、カブさんがシノ姫がマンシェリー姫を掴んだ所をちゃんと見ていてくれたのでホッとしたれす」

「しっ心配してくれたの?」

「勿論れすよ!!」

「レオ……!」

「シノ姫は姫を2度も救ってくれた大恩人れすから心配して当然れす」


そっちかよ!!


「レオーーー!!」

「いてっいたたたたっ!!何で叩くんれすか!相変わらず怒りんぼでわがままな姫れす…!」


せっかくのドキドキを!どうしてくれる!
という気持ちを消化させるようにポカポカと愛しい人を叩くマンシェリーを、カブが優しく眺めていた。


「…そいつが傷を治したのか?」


不思議な事に、マンシェリーがシノから離れた時には傷が塞がっていた。
服ごと空いていた風穴からは、健康的な肌色が覗いている。
ゾロは元々小人達や工場破壊についてはノータッチだった所もあり、マンシェリーについては咄嗟に思い浮かばなかった。
そういやさっき復元能力がどうとか言われたな…と、今頃ヴィオラに言われた事を思い出していた。
すっかり塞がり、臓器の損傷も血管もすっかり元通りになっている患部から円が消え、直接ローの手のひらが包んで肌の感触を確かめる。
失った血は戻らず顔色は優れないものの、シノは生きていた。
生きているのだ。
ここに。


「―――ッ」


また、失ってしまう所だった。
込み上げるものがないわけではない…が、事が急を要するのもわかっていた。


「おいトラ男!」

「わかってる……おい小人!」

「ひゃっひゃい!!」

「「はいれす!」」


ローに対し、やけに緊張してしまうマンシェリーを除き、小人達の声はしゃきっとしたものである。


「助かった…!!」

「「「!」」」

「お前らでこいつを連れて走れるか?」

「はい!」

「姫は我々の近くで走ってください」

「いいえ私も!!」


レオとカブで持ち上げるつもりだったシノの身体の下に入ったマンシェリーが、ふん!と両手でシノを持ち上げる。


「よし行くぞ!!」


片手に刀、もう片手にローを抱えたゾロを先頭に、彼らは王宮脱出に走った。
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