OP連載

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早朝になり、夜の闇が薄闇に変化してきた頃、少しだけ覚醒したローは、己の隣にぼーっと座り込んでいるシノを見つけた。
まだ半分眠っている状態で問答無用に引き寄せると、ぼんやりしていたシノの目がぱっちりと開いた。
しかし、人肌のぬくもりが眠気を思い出させ、次第にうとうとし、やがで彼女も深い眠りに落ちていった。



しばらくして朝日が差し込んで来ると、シノと入れ替わるようにローが目覚めた。
隣でくうくうと寝ている顔に意外そうな顔をした後、そういえばと己の腕を見て思い出す。
夢うつつの中、引きずり込んだ覚えは一応あった。


「目が覚めたか」


降ってきた声をきっかけに、シノを起こさぬようにしてローも起き上がる。
どうやら一番の目覚めは、家主である片足の男だったらしい。


「先程までロビランド達が寝ずの番をしていてくれてな」


人差し指を顔の前で立てたキュロスに頷いたローは、己が枕代わりにしていた鬼哭をシノの頭の下に差込み、背中の包帯を見た。
マンシェリーの能力で治っていた背中は、またしてもドフラミンゴの爪跡で深く傷ついていた為、寝ているうちに傷が開いてはいないかと思ったが、杞憂であったようだ。
無意識であっても、仰向けにさせなかった自分を内心讃えていると、キュロスが食料調達に行くというのでそれを見送った。



「(痕が残るのは避けられねェか……)」


服を戻し、自分の着ていた毛布を掛けたローは、深々と残る5本の線を思い出して眉間の谷を深くする。
決着がついたとはいえ、世界で最も忌むべき男のつけた傷痕が一生シノに残るのは、許せぬ思いがある。

自分の腕は繋がればどうでも良かった。
これは自分が思いを遂げる為戦った証だ。
しかし、それがシノだというだけで話は随分違ってくる。
傷が、恥や欠陥に繋がるとは微塵も思わない。
ただ、純粋に気に食わないだけだ。

やはりもう一度マンシェリーに治癒してもらうべきだな、と己の能力が及ばない悔しさはあれど、手段が残されているのは幸運である。
小人の姫の方もシノに恩を感じていたようだし、断られはすまい。


「(……そうだな………)」


シノの寝顔を眺めていたローは、この時ある事を考えていた。



********



ローが何がしかを決めた矢先、食料を抱えて戻ってきたキュロスについてきたお供達もまた、何かをたくさん抱えていた。
起きた面々から順に食事を取り始めると、香りにつられたシノやゾロが起き出し、食事の音を聞いたロビンが目を覚ます頃には、ルフィを除いた全員が起きていた。


「キャプテンこれ闘魚!おいしいよ」


ローが受け取ると、シノは待ちきれないとばかりに自分の闘魚ステーキにかぶりついた。
もぐもぐと口いっぱいに頬張るシノは、朝目が覚めるとすぐにお腹が空く健康優良児…もとい、健康的な女性である。
闘魚というワードを耳にしたゾロもすぐに別の闘魚ステーキを引き寄せ「これか!」と目を輝かせている。
ローも口には出さないが、口に合った様で何よりである。
咀嚼しながら、シノは2つの意味でにこにこしていた。
ごはんが美味しいのは幸せだ。


「まだまだ持ってくるれすから皆さん落ち着いて食べてくださいね」

「そうだな。ルフィランドはまだ休息が必要だろうし」


小人とキュロスがそう言うので、シノは防音した方がいいだろうかと思ったが、一味全員で手を横に振った。


「「「「いや…それぐらいじゃ起きないと思う」」」」


戦いで消耗した後のルフィは誰かの食事音くらいじゃ目覚めないし、寝ながら食う術を身につけているルフィなので、それならそれで別に気にしなくていいという一味に、キュロスは「そ…そうか…」と真面目に納得した。
食事が落ち着いてくると、ウソップはとある袋に気づいた。
小人達が持ってきていたその袋は、てっきり食料かと思っていたのだが、開ける様子がなかったので何だろうと気になった。


「よくぞ聞いてくれました!」

「皆さんのお食事が一段落したようれすので、早速!!」

「マンシェリー姫の”チユポポ”れす!!」


昨日、ドレスローザに降り注いだそれと同じものが、袋の中にぎっしりと詰まっていた。
小人達がじゃーん!と手でさし示すそれの効果をレオから聞いていたロビンは、すぐに疑問を口にした。


「それって昨日の…?時間限定の回復と聞いていたけれど…」

「ご心配なく!マンシェリー姫が”献ポポ”で集めた”チユポポ”れすので!!」

「”献ポポ”?」


聞きなれぬ言葉に再びウソップが問えば、小人達は喜んで説明してくれた。
通常、マンシェリーの涙から作られる”チユポポ”との違いを。



「それはまた…海軍も報われねェなァ…」

「いいじゃねェか」


真相を知ったウソップが気まずそうに言うのを、ゾロがニヤリと受け流す。
まさか海軍も、国民を治癒するための”献ポポ”の一部が、海賊の治療に横流しされているなどとは思いもしないだろう。

シノはその中から2つ程可愛らしい綿毛を貰い、背中と”弾糸(タマイト)”で打ち抜かれた足の傷に当てた。


「すごい…」


足の包帯をとってみると、傷の影も形もなかった。
試しに足を少し動かしてみても、全然痛みがない。


「コウモリ族の姫様!グリーンビットの動物達も姫君のお帰りをお待ちしていたようれすよ」

「ドレスローザの動物達もれす!」

「マンシェリー姫も姫様にまたお会いしたいと言っておられましたので、もし良ければお顔を見せて下さると嬉しいれす!」

「…っう、うん……」


わらわらと小人達に囲まれたシノは、今まで一方的にしか見聞きしていなかった彼らに一斉に話しかけられた事で、ビクッと肩を揺らしていた。
反射的に握ったローの袖に、ぎゅっと皺を作っている。
小人達はというと、「あの名高いコウモリ族の姫君とお話してしまったれす〜〜!!」「帰って皆に自慢するれす!」などなど、きゃっきゃ言いながら散って行った。
音に聞こえた有名人に会い、浮かれているのがありありとわかる。


「……?キャプテンどうしたの?」

「いや……」


背中に視線を感じた気がして問えば、ローは少し変な顔でシノを見ていた。


「奥歯に何か詰まった?」

「詰まってねェ」

「?」

「いいんだ」


治癒した右腕が頭に手を置き、問答は終いにされる。
日も随分高くなり、丁度今日の分のサイコロを転がすのがわかったシノの意識は、海岸に停泊した海軍の方へ向けられた。


「!………海軍、今日も来ないみたい」

「何」

「そういやお前ら昨日は寝てたな」


知らないだろうとフランキーが代わって説明してやれば、ウソップを筆頭に海軍大将の行動へツッコミが入る。


「適当か!!?助かるけど!!」

「そういえばあの藤虎とやら…何やら戦の最中にも壷振りをしておったな」

「うむ。賽の目に行動を託すなぞ海軍大将の考える事はよくわからんでござる」

「!?ってェ錦えもんにカン十郎いつの間にィー!!?」


目玉が飛び出すくらい驚いたウソップに対し、小屋の中だけではなく、知らぬ間に会話にまで入っていた錦えもんとカン十郎は、もごもごと口を膨れさせてテーブルの上の肉に手をつけている。


「しかも何か食ってるしィーー!!」

「ムグッ頂いているでござる」

「モグモグ」


昨夜は王宮にいた2人は、麦わらの一味と合流がてら、町の様子も探ってきたようだ。
シノは聞かずとも大よそわかるので、今のうちにとグリーンビットへ行く事にした。
いつ出発するかわからないのだ。
別れは早めに、ちゃんとしておきたい。


「スータ」

「キュ?(戻られるのですか?)」

「うん」


小屋の天井にぶら下がっていたスータがパタパタとシノの前に舞い降り、羽を畳む。
それを慣れた様子でむぎゅっと鷲掴んだシノは、着ていたTシャツの襟を指で広げ、黒い棒状のスータを谷間に収納した。
ギロッとローに睨まれたシノは、「じゃっじゃあ行ってきます!」と若干慌てた様子で姿を消す。
睨む相手がいなくなり、次は呆けた顔の侍がその標的となる。


「むっ無実でござる!!」

「左様でござる!!」


外つ国(とつくに)と比べて女性達が慎ましい気風の為、免疫が少ないワノ国の侍達は、うっかりガン見してしまったのを誤魔化すように両手を前に出して首を振った。
しかし、彼らがムッツリの気があるのは既に周知の事実なので、信用もあまりなかった。
ややあって不機嫌そうに鼻を鳴らしたローが目を逸らすと、侍達は「ふィーっ!!」と大きく息を吐き出した。
過失は無くとも、やましい気持ちはあったので…。

呆れるウソップをよそに、ロビンは楽しそうに微笑んでいた。
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