OP連載

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―――所変わってグリーンビット。
シノは多分、自然系じゃなかったら死んでいたような目にあっている。


「「「「キイイ〜〜〜!!!(姫様〜〜〜!!!)」」」」


長(おさ)の帰還に真っ先に飛びついたのはコウモリ族だ。
そして蝙蝠達の喜び様を知った動物達から、シノの帰還は瞬く間に島全土に知れ渡った。


「「「「ウオオオオン!!!」」」」

「「「「ガオオオオオッ!!」」」」

「「「「フゴオオオオ!!!」」」」


様々な鳴き声、咆哮が島に響き渡り、動物達が集結していく地響きは、トンタッタの集落を揺らすほどの規模であった。
その中心でもみくちゃにされているシノ。
最初は身一つだったのに、蝙蝠を貼りつけ、蠢くダークマターに変化したかと思うと、次は小動物達がしがみつき、色鮮やかなイエティに進化した。
それから大型動物までやって来て、最終的によくわからんキメラのような状態になっている。
この光景だけ見られたら、おそらく問答無用で討伐されるレベルの不審な生命体の完成である。



「えええいっ!!散開!!!!」



しばらくの間共に暮らした仲間達だ。
甘んじてもみくちゃを受け入れていたシノも、さすがに限界がきたようである。
というより、自分は構わないが、中心部に居たコウモリ族、並びに小動物達が窒息、圧死しそうだったのだ。
シノが叫んだ瞬間、外側の動物達から機敏な動作で離れ、整列していく。


「「「「きゅう〜〜〜〜(死にゅかと思った〜〜〜〜)」」」」


中にいた小さな者達は、力が抜けてボトボトと落ちていき、ようやくシノ本体が姿を現した。


「もう!小さい子達には、食べる時以外は優しくって言ったでしょ!!」

「ガルゥ……」

「ウウン…」

「バウ……」


めっ!と叱られた大型動物たちが、しょんぼりと大きな身体を小さくする。
瀕死の小動物達は(さすが姫様…!!)と、心の中で拍手喝采を送った。
身体はヒクヒクして上手く動かない。



「……でも……――皆今までよく頑張りました!!いっぱい助けてくれてありがとう!!」



満面の笑みは動物達を安心させ、礼は心を奮い立たせた。
特に叱られた後の者達には格別の喜びだっただろう。
応える声はグリーンビットのみならず、ドレスローザにまで届いたという。



********



「何だあの地響きと遠吠えのような……!!」

「グリーンビットの方角からだ!!」

「まさかまだドフラミンゴが仕掛けた何かが残されているの?」


グリーンビットは、人の都のあるドレスローザより遥かに自然豊かな地域である。
人の住まぬそこには、ドレスローザでは見た事もないような、闘魚を凌ぐ程の大型動物も生息している。
その咆哮たるや、未だ恐怖の色濃く残る民達の心をおおいに揺さぶっていた。
ただし、声の意味を理解している動物達は別である。
自分より強い生き物に、人より敏感な彼らが恐れていないのを一目でも見れば、人々も心穏やかにいられただろうに、心にそれ程の余裕はまだ生まれていなかったのである。
昨日の今日だ。
無理も無い。


王都で唯一、千里眼で状況を理解していたヴィオラが兵士達の前にカツカツ、とヒールを鳴らして歩いて行く。
狼狽する兵達とは違い、凛とした佇まいの美しく伸びた背筋は、王族としての威厳に満ち溢れていた。


「落ち着きなさい!!」

「ヴィオラ様…!!」

「大丈夫!!あの声もまた、解放の喜びを知ったグリーンビットの勝どき。昨日の我々と同じよ…!!」

「「「「!!」」」」

「国民達にも知らせておあげなさい」

「「「「はっ!!」」」」


10年オモチャになっていた者もいるというのに、寸分乱れぬ敬礼を見せてくれた兵士達が町へと向かい背を向ける。
ヴィオラは、またしてももみくちゃにされているグリーンビットの姫を見ながら、微笑んだ。


「……ありがとう…か…………こちらの台詞ね……」


自由な空を見上げ、願わくば、とヴィオラは思う。
それは、レベッカがルーシーに抱えている思いと同じものだった。


「どうしたヴィオラ」

「お父様」

「先程の騒ぎは…解決したようだな」

「ええ。この国にいるのは人だけではないという事を、私はあの子から教わったから」

「そうか……お前の友達に…」


言いよどんだのか、指先で頬をかく父を見ていたヴィオラには、その理由も何となくわかった。
一度は海賊だ、とヴィオラを嗜めた手前、実際にその”友達”に命を救われた事が気に掛かっていたのだろう。


「…機会があれば…直接礼を言いたいものだな……無論彼らにも……」

「……はい……」


その願いは夕暮れ時、たまたまヴィオラが1人になった時に叶えられ、結局リク王は会えず終いとなってしまうのだが、致し方在るまい。
夜、娘からその事を聞かされたリク王は残念がったものの、もう一度言葉を交わせたと言うヴィオラの顔が幸せそうだったため、これで良かったのだと思った。
友人同士の別れに水を差すより良かったのだと……納得してから思い出した孫娘の存在に、何だか嫌な予感がしないでもないリク王であった。
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