OP連載

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それから、ローの言うとおりにしたシノは……何故かゴリラのウッホー君におかきの入った袋を差し出されていた。
元々はセンゴクの持っていたそれは、先程ウッホー君にもわけてあげようと差し出した瞬間、袋ごと強奪されたものだ。
目をハートにしたウッホー君の向こうから、センゴクが何とも言えない顔でシノ達を見ている。


「ウホッ!」

「…いい」

「!!ウホォッ!?」


哀れな老人から奪ったものは受け取れぬ、と手のひらを立てて見せたシノが断ると、彼は失恋のショックで項垂れた。
真面目な話をしている所なので、腰を折るのも気まずい。
シノはかわいそうなゴリラに眉を下げると、ローが背にする崩れた壁の上に腰掛けた。
とぼとぼとセンゴクの所へ戻ったウッホー君が、ボリボリとおかきをやけ食いする音が響き渡る。



「……そいつは私にとって特別な男だった
 ガキの頃に出会い…息子のように想ってた……」



ローの話してくれた彼の恩人コラソンは、ドフラミンゴの実の弟でありながら、センゴクの部下だった。
電伝虫のやりとりからそれを知っていたローは、この千載一遇の機会を逃すまいとしていた。
ローの七武海の称号は既に無効となっている。
元は元帥、今でも大目付として海軍本部にいるセンゴクと話せる機会など、これを逃せばインペルダウンにでも行かない限り二度と訪れない。

ローはこれまで、ドフラミンゴを討ちとる事だけを考えて生きてきた。
死んでしまった恩人の想いを遂げたくて、それだけを目標にしてきた。
ようやくそれをやり遂げた後、これからは彼の言うように”自由”に生きようと、シノにも示した。
だが、導は果たしてそれだけだったのだろうか。
ローの人生の最大の恩人と過ごした時間はあまりに短く、また彼は海兵としての顔を極力ローに見せようとしなかった。
彼のために出来ることは本当にもうないのか。
全て終わったのだと、胸を張って生きていてもいいのだろうか。
導の喪失は、ローの心に僅かな波紋を齎した。
そこへ現れたのが、もういない人の事を知る存在センゴク。
何かを伝えたかったわけでも、伝えて欲しかったわけでもない。
ただ、コラソンの生きた痕跡を知る存在と会うことで、何か得られるものがあるのではないだろうかと思った。



(―――それだけ……キャプテンの中では大きな人だったんだな……)


ローとセンゴクの話を聞くうち、シノは思った。
センゴクとの面会を求めた時から何となく思っていたが、やはり……そして、センゴクにとってもかけがえのない存在だったのだという事が、2人の話を聞いていてよくわかった。


「――だがこれがコラさんの望む”D”の生き方なのかわからねェ」

「!!”D”?」

「”麦わら”と同じ様に…おれにもその隠し名がある…!!あんたは”D”について何か知ってんじゃねェか?」


ローにも”D”という名がある。
シノも初めて耳にした事実だった。
驚くセンゴクは言葉を濁した。
知っているのだとしても、言うつもりがないという事なのか。


「……さァな――だが少なくともロシナンテは何も知らない筈だ…
 ――つまりその為にお前を助けたわけじゃない
 受けた愛に理由などつけるな!!!」


「!!!」


ローより上の位置で腰掛けているシノに彼の顔は見えない。
だが、センゴクから顔を背けた事が彼の心の的を得ている証明だ。


そんな風に思っていたのか……シノは、だからか、とも思った。
だからセンゴクと会おうと思ったのではないか。


『冥王が何をする気か……”D”はまた必ず嵐を呼ぶ………へへ…』


ローが嬉しそうにしていた顔が思い出された。



「どうしても奴の為に何かしたいのなら互いにあいつを忘れずにいよう…――それでいい…
 お前は自由に生きればいい…あいつならきっとそう言うだろう…」


「……………!!」


帽子のつばを下げる手に隠れ、震える唇を噛み締めるローの吐息が、シノの耳に強く滲む。
シノは空を仰いだ。


本当はそんな事、ローが一番わかっていたはずだ。
あまりに大きかった悲嘆と報恩の想いに、ほんの少し惑わされただけ。


(………変だな……知らない人は嫌なのに……)


出来れば会ってみたかった、と思う。




「ウホウホ!!」


その時、藤虎によって遠くで空高く巻き上げられていた国中の瓦礫が、いよいよロー達のいる場所にまで影響を及ぼし始めた。


「何だ!?」

「藤虎」

「っ行くぞ!!」


引退したという名分で見逃した海賊の背から、センゴクはしばし目が離せなかった。
とうに亡くしてしまった息子の生きた証がそこにはあった。
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