OP連載

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話を聞き終えたあと、シノはベポの首に手を回し、ぎゅっと首元に顔を押し付けた。
先に行った麦わらの一味がいなければ、危うく死んでいたかもしれなかったのだ。
ベポのちょっと硬い肉球が、そろそろとシノの頭を撫でた。


「カイドウにはドフラミンゴと”スマイル”の件で既に狙われる理由がある……しかもこのゾウが既に連中にわれてるとなると時間の問題だ」

「ジャックが死んだってのも何か信じらんねェし…」

「ああ…ありゃ正しく化物だった……」


ベポ達の無事に安堵していたシノは、彼と同じ戦場にいた仲間達の意見を聞いて顔を上げる。
死亡記事など、所詮記事だ。
間違う事だってあるし、ドフラミンゴなんて情報操作して七武海離脱の誤報記事を世界中にばら撒いていた。
そう考えると危機感も更に助長されて、シノは仲間達と再会してから解いていた索敵を再開した。
シノが操るのは音だが、役割的にはハートの海賊団の耳であり、目でもある。
危険が迫っているのだとしたら、誰より先に察知したい。


「…」


肩の辺りにあるシノの頭が俯いた気がして、ベポが視線を下げる。
シノはそれに気づかず、索敵範囲ギリギリの場所に感じた何かを精査する為、能力に集中していった。


「シノ?」


ベポの声に、ローも目だけを横に動かして、瞳を閉じて集中しているシノに眉をひそめた。


「……霧の外に2…3……5隻の船のグループがある……多分…ここを目指してる」

「!ジャックか?」

「えっ」


仲間達が固唾を呑んで続きを待ち、シノはふるふると首を横に振った。


「…まだ何とも……遠くて形を掴むのがやっとで断定は出来ない。ただ……」

「「「「たっただ……?」」」」

「今、ゾウは霧の海域の端寄りにいるから、このままならあと2日…早ければ1日でゾウに追いつくかもしれない」

「「「「ええええええ〜〜〜〜っ!!??」」」」



安心したくて探ったはずが、逆に不安を呼び寄せてしまう結果となってしまった。
シノは、正確な情報が伝えられないもどかしさに下唇を噛み、気づいたベポが手を伸ばす。
しかし、その手が届くより先に、唇に触れる指が横から伸ばされた。
ローの親指が歯から唇を遠ざけるように掠るって、驚いたシノの唇がふるりと元の形をとり戻す。
少し硬い指の腹に触れ、動きを止めたシノの顎をとり、ローは己の方へと顔を向けさせた。


「痛めつけんな。距離は仕方ねェ…もし敵ならまだ索敵範囲外の遠くにいるのはむしろ好都合だ」

「……うん…」


納得したのか、頷けない顔の代わりに目を伏せたシノ。

以前より……海賊になる前と比べても、格段に強くなったシノは、悪魔の実の能力の向上においてもレベルアップしていた。
仲間になった当初は島ひとつ分程度だった索敵範囲も、今ではその何倍もの範囲を索敵可能としている。
それでも届かなかった力の不足を思い知るのは大事だが、シノは向上心を知らない慢心まみれの自惚れ屋などではない。
ロー以外の仲間達も、それは皆わかっていた。
わかっている事だった。


――のだが、目先の問題はそこではない。
そんなものではなかった。
仲間達は今、誰もが皆こう思っていた。



「「「「(なんか……なんか前と雰囲気違ってね??)」」」」



ローはたしかにシノを常日頃から虐t…ではなく、他のクルーと比べても、お仕置き含めて触れる機会は多かった。
しかし、唇にダイレクトに触れたりなどした事は一度たりとも無かった。
少なくとも、誰の目にも触れたことは無かったのだ。
それがどうだ。
シノも然程驚かずに許容しているように見える。

ゴクリ、と再び固唾を飲んだのは誰が先であったか――



瞳を伏せたシノの唇に、ローのそれが重なる。



「「「「!!??」」」」



「!…ん」


そこでシノもやっと驚いたらしく、伏せていた瞳がパッと開いてローを見上げた。
最後に下唇を舐められ、くすぐったさにまた軽く唇を噛んだシノを見下ろし、ローはやっと顔と手を離した。


「次ぎやる時痛むからもう噛むんじゃねェぞ」


生憎と、次があるのか!?とツッコミを入れられる者はいなかった。
口をあんぐり大きく開けたベポやシャチ達の目をキョロキョロと確認したシノは、急に恥ずかしくなって黙って俯くほか無かった。
そして、とうとう解放された魂の叫びが、部屋を抜けてくじらの森いっぱいに響いたのだった。



「「「「えええええええええええ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!!??」」」」



まるでどこぞの神もかくやといった顔で、クルー達の顔からは色んなものが飛び出していた。
あまりの声量に、反射的に自分の耳に入る音量を調節したシノとは違って、ローは耳を塞いで嫌そうな顔をした。
恥じらいのあまり、シノにローの耳まで守る余裕などなかった。
ローとてこの関係性の変化について、一言言うつもりはあった。
何がしか反応があることも予測していた。
それでも、うんざりしてしまう程のクルー達のリアクションにローは眉を顰めて言った。


「――うるせェ…」


いやいやいやいや!うるさくもなるよ!!
だってキャプテンいきなりシノにチューすんだもん!!

普段なら、誰かがそんな風に反論したろうに、皆未だに口をパクパクさせている。
言葉より先に行動を目にしてしまったクルーの衝撃は、大きかった。
それをまざまざと見せられてしまったローが、小さく息を吐いた。



「………シノは名実ともにおれの女だ。文句はねェな」



だからそう喧しく反応してくれるな。
ローと、まだ恥ずかしくてチラチラと皆の反応を気にしているシノの願いなどどこ吹く風とでも言うかのように、本日二度目の魂の叫びが森に響いた。


最初の叫びには、何事かと思いながらも、久々の再会に何か迸る気持ちがあったのだろうと気遣い、ミンク族達も気にしていなかった。
二度目となるとやはり気になってしまい、近くにいる者達が見に行ってみる。
ところが、彼らの家に近づくにつれ、やはり「なんだ…」と苦笑して帰ってゆくミンク族。
再会の喜びに浸っていると思われた彼らが、まさかようやくくっついたじれったい男女に喜びを馳せていたなどと、彼らも思ってはいなかった。
ただ、喜びに笑い涙するベポ(仲間)の仲間達を、微笑みとともに見届け去って行った。



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ジャイアントキラービーは創作です。
後に小人達を通じてドレスローザにも輸入され、入手困難で希少価値が高い、最高品質のはちみつとして時価で出回る事に。
平均金額は、ドレスローザ価格でおよそ100gで15万ベリー。
復興中のドレスローザでは、国内消費より輸出がメインとなり、関税や輸送費も上乗せされて、20万ベリー程度で流通する事になる。
管制官はキャプテンの予測通り弱肉強食で奪ったのでタダ。
kg単位でプレゼントしちゃうベポ君への愛プライスレス!

ゴーイングルフィセンパイ号は、1週間くらい霧の中を進んでゾウに辿り着きましたが、ジャック再来の前日、船団の背景の空は晴れていたので、おそらく霧の海域か象の移動、もしくはその両方によって、象と霧の海域の端までの距離が変わっていると思われる。
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