OP連載
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ところが、ベポの奮闘も空しく――
「ガ、ガルチュ?」
「ガルチュー!!」
シノはネコマムシの旦那と、恥ずかしそうに頬を合わせていた。
ベポの目が、それとローとを何度も往復してハラハラしている。
「ニャニャニャニャニャ!!ベポの妹分は随分とまァめんこい女子(おなご)ぜよ!!」
「そんな…!」
バリン…!!
今しがた持たされたローの杯が、潰れて割れた。
酒浸しになった手を見たベポの顔が青くなり、バッと妹分の捕獲へ走る。
両頬に指先を当て、熱を逃がそうとするシノときたら、ネコマムシの旦那を一目見た時から、その”器の大きそうな雄オーラ”にやられているのだ。
けしからん。
何年も自然界で生きてきただけあって、動物の王者の風格には敏感な性質(たち)のシノだった。
ベポは、ヒソヒソと担いだシノを咎める。
「シノ!!何ポーッとなってるんだよ!?メッ!!」
「なっなってないよ…!何言ってるのベポ君てば」
「シノにはキャプテンがいるだろ…!」
「だからそーゆーんじゃないんだってば…!」
「じゃあ何!?」
「だからっ…キャプテンはキャプテンで……その…っ」
ローとは確かにそんな感じになり、でもネコマムシはそんな感じではなくまた別の……!と説明したいシノだが、まだまだ照れが勝って中々口には出来なかった。
もじもじモゴモゴとらしくないシノに、ベポは何言ってるの!と声を大きくした。
「キャプテンがキャプテンなのはキャプテンなんだからキャプテンだよ!」
「何言ってんだベポ」
聞こえたローがつい呟けば、ベポは「だって…」と言葉を濁す。
これで、ローに気を利かせて隠しているつもりなのだ。
ローは濡れた手をそこにあったツナギで拭うと、新しい杯を受け取った。
「あっキャプテン!!」
「…シノ」
酒臭くなったツナギに気づいたシャチの声はまるっと無視され、呼ばれたシノがいそいそとローの横に腰を降ろす。
ガルチューのくだりはあれだが、その後の恥じらいはわからんでもない、と理解が示されたらしい。
シャチの肩がガクッと下がった。
シノはネコマムシの旦那から勧められたラザニアを持って、ローへ向ける。
「キャプテン、ラザニャー…こほん…!……ラザニア」
「……ああ」
(あ…キャプテン嬉しそう…)
仲良き事は美しきかな。
ベポの怒りは、ほっこりで昇華した。
ネコマムシの旦那の影響も、必ずしも悪い方向に出るとは限らないようだ。
―――少し前まで、カイドウに居所がバレている事や、サンジの件で話し合っていたとは思えないほど、盛り上がる宴。
宴を中断してきたはずが、ネコマムシの旦那の音頭によって、麦わらの一味も加えたくじらの森全体で飲めや歌えのどんちゃん騒ぎに発展してしまった。
元々、正体不明の船団については混乱を広げない為にも、麦わらの一味やミンク族の長(おさ)ら、ごく少数に打ち明けるつもりだったローは、頃合を見て宴を抜ける気でいた。
シノにもそう指示し、各々気づかれぬよう森に誘導させたのは、ロビン、フランキー、ブルックを除いた麦わらの一味と、ネコマムシ。
それに、ナミと一緒にいたワンダだ。
「なんだよトラ男〜〜?話したい事ってェ〜〜?宴はまだ終わってねェんだぞォ〜〜〜」
「話しなら手短にな。酒がなくなる」
頬を赤くして宴を名残惜しむルフィに、早くも手持ちの酒を飲みつくしそうなゾロ。
酔って寝そうなチョッパーは、ナミが角を掴んで引き摺り、慌ててもう片側の角を持ったワンダによって、宙ぶらりんになっている。
さながら捕獲された宇宙人のような扱いだ。
ウソップは「何だよこそこそと……何か不吉な事を言うんじゃねェだろうな…?」と、持ち前のネガティブさを発揮して身を震わせる。
その頃には、不鮮明だった形がわかるくらいには、船団がゾウへ近づいてきており、海賊らしい荒々しさがシノにも伝わってきた。
外れていてほしかった答えが、わかってしまうくらいに。
「――キャプテン……外れて欲しかった”当たり”だよ」
「?」
わからない、という顔をしたのはルフィだけではなかった。
誰かがその、意味深な言葉を聞き返そうとする前に、ローから”ゾウ”にとっては残酷な報せが告げられた。
「ジャックだ」
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ネコマムシの旦那を見た後、ラザニアをラザニヤと言ってしまいそうになる不思議。
たけのこだけかな。