くろいぼうし(真田長編)

□\.9/27準備と本番
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海原祭までの期間が残り1週間となり、劇の練習も役同士の合わせ練習が多くなってきた。
毎年、この1週間は各部活、朝練も含めて練習としての活動は停止となり、学祭に向けた活動のみとなるのが毎年の定例だ。



今日も放課後残ってのクラスでの準備・練習があり、今日の練習、役者陣は最初から真ん中あたりまでの通しを重点的にやるらしい。
そして明日はその残り半分だ。


俺の役は知っての通り、最後の部分が演じ所なので、明日の通しがメイン。今日はひたすら暗記の作業だ。


台本を見てはそれを隠してブツブツと言ってみて、思い出せず詰まったらまた台本を見てを繰り返す。



彼女は一応、主役なので、前半も後半も演じ所があり、今は女王の家来と話し、森の奥に逃げるシーンをやっているみたいだ。

練習の場所を広くとるために、教室の机は後ろに下げているので、壁にもたれて通し練習を見つつ、個人練習をしていると…



「ねぇ、真田。衣装なんだけど、一応ベースはできたから、着丈見るために一回来てみてくれない?」



と、衣装係から声がかかった。



「む? ああ、カッターシャツの上からでいいか?」



「うん。当日も下はカッターシャツ来てもらうつもりだから上からかぶる感じで来て見てくれる?」



今日から衣替えの移行期間になったので、着てきたブレザーを脱ぎ、役の衣装を着る。
サイズは丁度いいのだが、なんというか……これを着ると王子役になったことがいよいよ現実味を帯びてきて、ものすごく複雑である。



「うん、丈は大丈夫そうだね。当日はこれにもう少しいろいろ付くからよろしく。」



「あ、ああ……。」


ベースの衣装とやらを脱ぎ、返却する。
衣装係はそれを受け取るとそのまま作業にもどった。俺も再び台本に目を落とす。


それからしばらくして今日の練習が終わった。
後ろに下げた机を元に戻し、帰りの支度をする。



「真田くん、お疲れ様。」



「それを言うなら今日は、お前の方がお疲れ様だろう?」



机を戻し終わった時に笹川から労いの言葉がかかる。
最近は彼女が部活に行く前のお決まりの挨拶みたくなっている。
そういえば、今日から海原祭まで部活はないのだったな。ならば久しぶりに一緒に帰りたい。



「なあ、笹川。久しぶりに……「じゃあ、私、部活行くね。」



誘おうとした俺の言葉を遮り、教室から彼女は出ていく。



「お、おい、今日から部活は……」



忠告もむなしくスル―され(たぶん聞こえてない)俺は、教室に取り残された。

仕方ない。今日は一人で帰るか……。


荷物を持って昇降口に向かう。


「あ、委員長!!!」



「む?」



靴を履き替えて校舎から出た時、後ろから女子の声がして呼ばれた方に振り返った。

振り向いてから、別の委員長を呼んでいたのかもしれないと気付く。
確かに俺は風紀委員長だが、学内の委員会の数だけ委員長はいるはずだ。

だが、その心配の必要はなく、間違いなく俺にあてられたものだったようだ。


確か風紀委員にいた顔だ、えっとどのクラスだったか……ああ。



「お前は確か、2Dの風紀委員だったな。」



「あ、はい。委員長すごいですね。クラスまで覚えてるなんて。」



「ああ、一応自分のクラスと部活、委員会のものの顔くらいは覚えている。部活と委員会に関しては全員のクラスを覚えてるわけじゃないが、2Dは赤也のクラスだろう? だからたまたま覚えてただけだ。」



「ああ、なるほどです。そう、今日は委員長に報告があって、そんな切原くんの事なんですよ。」


赤也の?
またあいつなにかやらかしでもしたんだろうか?
3年が引退して副部長の任についたというのに、問題行動ばかり起こしてたら先が思いやられるのだがな……。



「赤也がまた何かしたのか?」



「いきなり何かしたって疑われちゃうなんて切原くんもかわいそうですけど、まあそんなところです。これですね。」



そういいながら、彼女は鞄から何かを取り出す。

出てきたのは全国大会の帰りの時に遊んでたDSとかいうゲーム機だ。



「今日、こっそり授業中にやろうとしたんでしょうね。電源つけた時、音量を消しとくのを忘れたみたいで起動音が授業中にポポーン♪と…。で、一応、風紀委員なんで私が預かったわけですが、今、委員長見かけたんで、部活の先輩みたいですし、委員長から叱っていただこうかなと。」



「授業中にやるだと?……はぁ、全く困ったやつだな。」



「というわけで、これは渡しておくのでよろしくお願いします。」



「わかった。じゃあ、確かに受け取った。これからも赤也の見張り頼んだぞ。」



「任せてくださいっ。」



そういいながら、風紀委員の後輩は俺に敬礼した。
ふ、おもしろいやつだ。



「じゃあ、私、向こうに友達待たせてるんで失礼します。」



「ああ。」



受け取ったゲーム機を鞄にしまいながら、俺も校門の方へ向かう。
ファスナーを閉め、鞄の口に落としていた目線を再び正面に上げる。

ふと、逃げるような軽い小走りの音が聞こえ、音のする方を見ると……


笹川……!?


確かにあの走り方はそうだ。朝、たまに一緒に自主トレをするようになったので小走りの雰囲気はなんとなくわかる。
俺は確信して彼女を追いかけた。
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