ニュートリショニスト!(幸村連載)

□3.mission?乾汁の情報を掴め!
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新学年になって2週間くらいが経った日、午前中だけで授業が終わった後、私は電車、バスにのり自宅の最寄駅を普通に通過し、東京の都心の方まで来ていた。

ざっくり言うと偵察。まあ、こっそりと偵察できるような性格じゃないから堂々と調査しに行くつもりだけどね。
それは偵察って言わないだろってツッコミはなしね。


偵察に来た理由は、蓮くんから、今年、アメリカ帰りのルーキーが青学に入学し、テニス部に入ったという情報を聞いたからどんな子か気になっちゃったんだよね。


立海から直接、青学に向かい、1時間弱くらいで目的地についた。
青春学園前のバス停で下車し、校門をくぐる。



テニス部のコートに行くとレギュラーと思われる、周りとは違うジャージを着た人たちがコートで打ちあっていた。

その中で一人、明らかに1年生と思われる身長の、白い帽子をかぶったプレイヤーを見つけた。
サウスポーの選手の様だ。私と一緒……、そして、おそらくあれが、蓮くんの言っていたアメリカ帰りのルーキーだろう。


でも、それより……

その子の相手をしている背の高い選手に見覚えがあった。


以前よりもやたら背が高くなっているが、たぶんあの特徴的な眼鏡は間違いないだろう。

私は部外者であることなんて気にせず、堂々と青学のテニスコート内に入って行った。



ああ、やはり間違いないようだ。



「ドリィーーーーーー!!!」



叫んだ声、そして、明らかな他校の生徒の乱入で周りがかなりざわついている。



「お、おい、一葉!!!」



慌てて呼ばれた逆光眼鏡の人物が私の元に近づいてきて、その後ろにさっきまで打ちあっていた帽子クンも興味本位なのかついてきた。



「へぇー、乾先輩って外国人だったんスね。“どりー”ってことはきっと欧米人スね…。ああ!だから背も高いのか…」



「ち、ちがうっ。俺は日本人だ。ドリィっていうのは、こいつが勝手に呼んでるだけだ。」



「ところで、その人誰なんスか?制服見る限り、あきらかに他校生みたいですけど?」



乾がこいつと呼んだ侵入者……つまり私のことを帽子クンが尋ねた。



「ああ、こいつは柳一葉。東京の町田の方に住んでて、俺と昔同じテニススクールにいたんだ。越前、お前は知らないと思うが、去年、全国大会優勝校の立海大附属の柳蓮二の従兄妹になる。ん?そういえば、立海の制服だな。一葉、お前も立海に入学したのか?」



「そそ。入学と言ってももう2年だけどね。私の住んでるところ、もうほぼ神奈川との県境だから、通学に支障はないし…。」



「ああ、そういえば1個下だったな。蓮二も立海だと噂で聞いたが、学校内で会うことはあるのか?」



「え、蓮くん?…うーん、会うことというか、私もテニス部(のマネージャー)だから毎日嫌でも顔合わせてるような…。」



と、言ってから、今の核の部分をはしょった言い方はプレイヤーとして解釈されたかもしれないと思った。



「ねぇ。取り込み中悪いんだけど、なんで乾先輩はどりーなんスか?」



「ああ、それは俺が乾だかららしい。」



「は?」


あまりのわけわからなのか、先輩に対してなのにまさかの「は?」……。
赤也くんだったらたぶんちょい気を悪くするだろう。

この越前という子はあまり先輩を敬まうって気持ちはないのかもしれない。



「乾って漢字は送りがなをつけて訓読みにすると【乾く】だろう?乾くは英語でDRY。で、ドリィらしい。」



「無茶苦茶っスね。ところで、あんた、テニス部って言ってたけど、テニス強いの?強いなら、ちょっと俺の相手してよ。乾先輩とラリーするの飽きたし。」



「え…あー、テニス部と言ってもマネージャーだから…。たまにはみんなと打つこともあるけど…。」



「女子のくせに、プレイヤーだった当時は俺や蓮二に引けを取らなかったおまえが、マネージャーだからと拒否するのは納得いかないな…。あの独特の感覚のおかげで、俺もシングルスでは相当苦戦させられたし、俺が中学に上がった後も小学校出るまでは続けていたのだろう?1年離れてた程度でテクニックは落ちるもんじゃないというのが俺の見解なんだが?まあ、筋力やスタミナは落ちるだろうが…。」


そういいながら眼鏡の蝶番の分をくいっとあげた。


「やだ、断る。確かに、マネージャーとしてルーキーくんの情報が掴めるのはおいしいチャンスだけど、1年間のブランクは大きすぎるし、1試合フルでできる体力もない。それに今、制服だよ?」



「ふーん、俺のこと気になってるんだ。というか、今日、手塚部長が通院でいなくて、部外者とやるにはチャンスなんだからさ。体力もたないなら1ゲームだけのタイブレーク試合とかでどう?どっちもサービスできたほうが公平でしょ?制服でも上着脱げば動けるでしょ。」



それでも私が渋っていると、ドリィがマグカップに水筒から黒い液体を注いだ。かすかに茶色く見えるので、どうやら完全な真っ黒ではないようである。



「越前と一葉、二人のデータが同時にとれるチャンスだからな。一葉がまだ渋るようなら、この試作品の乾特製ドリンクを飲ませよう。」



ほわほわと湯気が立っているのでホットのようだ。
まだまだ、春風が冷たい時期には温かい飲み物はありかもしれない……。


「べつに、温かい飲み物飲むくらいならそれでいいし。」



「や、柳さん。やめた方がいいッス。乾先輩の飲み物は普通じゃないというか、むしろ飲み物じゃない。飲んだら場合によっては意識とぶから……。」


最初から飲む気だった私を越前くんは真っ青な顔で止めた。
とうやら、顔色からして、ガチでヤバいみたいだ。



「いつもは野菜ベースだが今回は趣向を変えてみた。まだ試作品だが「粉悪秘胃(コーヒー)」だ。通常の30倍のカフェインとメロン30個分のビタミンCを含有してる。」



ん………?なんだと……
カフェインはともかくとしてメロン30個分のビタミンC……だと…。



一気に栄養オタクの血が騒ぐ。



「……気が変わった。タイブレーク戦1ゲームくらいならやってもいいよ。そのかわり条件があるんだけど。」



「ん?なんスか?」



「えっと越前…?くんじゃない、ドリィに対しての条件。その特製コーヒーのレシピを見せてくれるか、コピーをくれたら、試合してあげる。」



「コーヒーじゃない。粉悪秘胃だ…。レシピか…。まあ本当は極秘だが、現在は試作だからな、それくらいやる。それより二人のデータが取れる方が俺としてはおいしいからな。」



「じゃあ、さっきまで俺と乾先輩がラリーしてたコート入ってよ。はい。ラケット。」



彼のスペアなのか赤いラケットを渡され、私は上着を脱いで、近くの汚れなさそうな場所に畳んで置き、コートに入った。
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