くろいぼうし(真田長編)
□].10/3幸せになろうか
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自販機の前に着くと、幸村はポケットから小銭を出して迷うことなくアクエリを購入した。
どうやら、最初から買いたいものは決まっていたみたいで、必要な金額を予め用意してあったみたいだ。
商品を取り出して、その場で一口飲むと、再びコート方面に向かって歩きはじめる。
「でさ、真田。話したい事なんだけどさ……」
「あ、ああ。」
「お姫様との進捗(しんちょく)聞かせて。」
「な……!!?」
話したい事と言っていたので何事かとは思っていたが、やはりその事か。
学祭が終わった後も、いろいろとからかられたので予想はしていたが……。
「進捗もなにも、いつもと変わらんっ。お前には関係ないっ。」
「全国大会の時にアドバイス求めてきといて、お前には関係ないはないだろ。」
……う……。
確かに、幸村の方が筋は通っている
「真田はさ、告白しようとか思ったりしないわけ?」
「こ、告白だと、たるんどるっ。確証もないのに、そんなリスクのでかいことできるか。」
「確証がない……か(笹川さんの気持ちはそれなりにわかりやすいと思うんだけど、本人は気付かないものなのかなぁ……)。つまり、それはフラれるのが怖くてできないってことだよね。つまり、逃げてるってことだね。」
幸村が歩いていた足を止め、立ち止まって俺にそういった。
……俺は、逃げてるのか?
でも、実際よくない結果になるのを恐れて、先に進むのを躊躇してるのは事実だ。
「さっき赤也に言ってたよね。「別に俺は逃げも隠れもせん」って。じゃあ、こっちの問題も逃げちゃ駄目なんじゃない?」
「……そう…かもしれんが……。」
俺は帽子を外して、くしゃくしゃと髪をかき上げる……。
「大丈夫。きっとうまくいくから……。精一杯気持ちを込めれば、伝わらないことってないと思うんだ。真田なりの言い方でいいからさ。」
「だが……」
「別にたるんでたっていいじゃないいか。好きなんだろ、彼女の事。弓の弦だって張りっぱなしはいずれ切れる。たまには弛ませる(たるませる)ことも必要だと思うよ。」
幸村の言う事は確かに説得力があった。
弛ませることも必要……か……。
「さてと、そろそろ、赤也が真田のこと探し始める気がするから、戻らないとね。まだまだ調子乗ってるからお得意の風林火陰山雷で叩き潰してやって。」
「ああ、当たり前だ。」
「もう一個の方も、それくらい前向きならいいのにね。」
「幸村っ!!」
「ふふっ、ごめんごめん。じゃあ、行こうか。」
幸村の謝罪は謝る気があるのかないのかいまいちわからなかったが、まぁ、からかうときはこんな感じだし、いつもの事か……。
俺はさきほど外した帽子をかぶり、テニスコートの赤也の元に向かった。