くろいぼうし(真田長編)
□エピローグ
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うーん…でもなぁ…
秋の競技大会が終わり、3年間の部活を引退した後のある日の昼休み、私は机の上に並べられた3冊の小冊子とにらめっこをしていた。
暦は10月の中旬。受験生として悩むべき志望校選びだ。
少し前に担任との個人面談を終え、3校のパンフレットをもらった。
2冊は立海大の附属の高等学校である立海大附属高校と立海大附属工業高校のもの。
これは、全生徒に配られる。
というのも、立海大附属の中学校の生徒の8割は附属のどちらかの高校に進むからだ。
そして、もう1冊は少し公立も視野に入れて考えたいといってもらった神奈川県立高校のものだ。
さて、どうしたものだろうか…
立海大附属高校は関東圏内の名門、氷帝学園高等部までは及ばないが、それでも十分学力の高い。
偏差値は大体、68〜くらいで、私の成績だとギリギリ厳しい。
そこまで勉強を疎かにしてきたつもりはないが難しいものは難しいのだ。
そして、立海大附属工業高校。
こちらは専門学科のため、普通科である立海大附属高校に比べて学力はかなり落ちる。
偏差値は55前後くらいなので、難易度としてだけなら問題ない。
そして最後に神奈川県立高校。
いわゆる公立高校で偏差値は64〜で、よほど倍率が跳ね上がらない限りは私の合格圏である。
女子として工業高校というのは若干、抵抗がある。
将来は特に技術者になりたいとか、高卒で就職したいという希望もないので普通に進学系だろう。
やはりここは手堅く神奈川県立高校だろうか…。
そう思いながら、私が机の上から県立高校のパンフレットを手にとると…
パッと手の中からパンフレットが上に抜き取られた。
「ったく、たるんどる。」
私からパンフを取り上げたのは、10日前から彼氏になった真田くんだ。
「えっ、ちょっ…」
「何を悩んでるんだ。おまえは、俺と同じ高校に行くんだろう。俺は高校でも一緒にいたい。そう思ってたんだが?」
付き合い出した後、真田くんがクラスの男子から「おまえら付き合ってんの?」と、聞かれることがあったらしい。
そのときなんの抵抗もなく「そうだが?」と彼が答えたことで、私たちが付き合い出したことは瞬時にクラスに広まり、(当然、テニス部のみなさんにも)今ではこんな甘いセリフを堂々と学校でも言ってくる状態になっている。
「そ、それは、私だって同じだけど…その…やっぱり、真田くんと私だと学力も違うし…」
「なら、勉強すればいいだろう。わからないところは俺が教えてやる。」
そういうと、机の上うえから工業高校のパンフレットも消え、机の上に立海大附属高校のパンフレットだけが残った。
つまりいうと彼の志望校はここであり、私にも勉強をして実力を上げ、ここを受験しろという意味だ。
「まだ、入試までは、4ヶ月弱ある。絶対に無理ってわけでもないのだろう? 今日から放課後、勉強を見てやる。」
こうして、私のワンランク上の学校を目指した受験勉強がスタートした。