ごった煮
□ちゃんと給料三ヶ月分の奴を用意しろよ?
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声が、若干震えてしまった。その声に気付いたチョロ松は、いつものツッコミを止めて静かに俺の言葉に耳を傾けてくれた。依然として、俺のトレーナーで視界は遮られたままだ。
「でも、でも……お前の為なら――…チョロ松とずっと、一緒に生きていくためなら、働いてもいいかなって…思う」
「―――…っ」
「…今すぐは、無理って判ってる。でも、なるべく早くそう出来る様に頑張るから――…」
あー、恥ずかしい。こんなの俺のキャラじゃない。
でも、決意を見せるのが大事だと、思うんだ。
だから、だから…さ?
「松野チョロ松さん。俺、松野おそ松と結婚してくれますか?」
「……ば、か…じゃねぇの」
「俺は、お前を幸せに出来ないかもしれない。でも、俺の幸せにはお前が必要なんだ……お前を幸せにする努力を怠らないって誓うから、俺の傍でずっと、俺の為に微笑んでいてほしい。一緒に寝て、おやすみを言っておはようって言いたい」
「………」
「お前が俺を選ぶこと、俺がお前を選ぶこと。それでどれだけの人に迷惑をかけて、不幸にするかも判ってる。お前をそれに巻き込もうとしてるのも重々知ってる。俺が兄貴失格だってのも、自覚してる。でも、俺はお前じゃなきゃ、ダメなんだ」
「……自分勝手だな、相変わらず」
チョロ松は、そう呟くと俺の手を自分の口元に寄せた。そしてそのまま小さく口付けをされる。その表情は、俺のトレーナーが隠していて良く分からなかった。
「自分勝手で、身勝手で。我儘なメンタル小6のおそ松なんて――…俺しかついていけないだろ。昔も、今も………これからも」
「―――…チョロ松」
チョロ松はフッと鼻で笑うともう一度俺の手にキスをした。左手の薬指に。俺はそれを見て、同じようにチョロ松の左手の薬指に唇を寄せて、トレーナーを取る為に手を離した。
トレーナーから出てきたチョロ松の顔は真っ赤になっていて、目が潤んでいた。今までで見た中で一番きれいな顔で微笑んでいる。
「普通、プロポーズするなら指輪用意しない?」
「しょうがないじゃん。俺達ニートよ?そんな金ないって。それにさっき急にしたくなったんだもん」
そういえば、告白も突然だったよな。
えー、何のこと?
そんな風に互いで照れ隠しをしていると、ふと、さっきまでチョロ松の顔を隠していたトレーナーの存在を思い出す。
「……ね、チョロ松。もう一回これひっかけていい?」
「は?なんで?」
「ベールの代わり」
「……は、バ――!?」
チョロ松が何か言う前に、もう一度トレーナーを頭に軽くかけて唇を塞いだ。本物よりもやすくて、寧ろ代用として使うのが俺のトレーナーなんて、俺ららしくていいと思わない?
なんて耳元で囁くと、頭を殴られた。
でも真っ赤な顔で「……これで我慢してやるから、ちゃんと給料三ヶ月分の奴を用意しろよ」と言われた。
そんな俺とチョロ松だけの疑似挙式をした、ある夏の日の出来事だった。