ごった煮


□ちゃんと給料三ヶ月分の奴を用意しろよ?
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「もー、どうすんのこれ。着替えもないのにさぁ」
「僕はパーカー脱ぐだけでいいから大丈夫」
「俺は今日ツナギなんだけど?」
「知らないよ、そんなの」

 クスクスと笑うチョロ松はパーカーを脱ぐことはしなかった。基本的にアイツが濡れている個所はチノパンだけだからだと思う。俺は逆で上半身。トレーナーを脱いで、いつもは腰で縛っている袖に腕を通すことにした。適当に前を閉めようとすると。チョロ松がトレーナーを預かってくれた。

「――はい、オッケー」
「ん」

 短い返事にチョロ松を見ると、俺は思わず息を呑んだ。

 太陽は、堕ちかけていて、海が真っ赤だった。空も、真っ赤。砂浜もテトラポットも、何もかもが真っ赤で。その中に一つだけの緑色。
 チョロ松だけが赤には染まっていなかった。その風景が、光景が、まるで俺の世界にチョロ松だけしかいないような、そんな錯覚を作った。
 チョロ松は、決して俺の色には染まらない。交わらない。ずっと存在を主張して俺に寄り添ってくれる。俺の相棒。ずっと前からも、これからも。

「――…綺麗だ」
「…それ、さっき僕が言った」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」

 恍けて誤魔化す振りをする。でも、意味が違うんだ、チョロ松。俺が綺麗だって言ったのは海じゃない。お前だよ、チョロ松。

「……少し、歩こうぜ」
「……うん」

 俺達は、特に何も言うこともしないでフラフラと浜辺を歩いた。いつものように並んで。時々何かを拾っては海に投げたりして。それにチョロ松がたまに『女神さま』なんかやったりして。

 そうして歩いていると、見覚えのない公園を見つけた。どうやら最近できたらしいそれを、俺達は互いに見て笑った。少し遊ぼう。言い出したわけではなくて自然とそういう流れになった。
 俺は近くのジャングルジムに適当にトレーナーをひっかけた。酷い濡れ方をしていないから、きっとすぐに乾くだろう。そう考えて適当にブランコに乗った。立って漕いでいるとチョロ松が滑り台から降りてくる。ローラー式の様でチョロ松は気に入ったのか二回目をやりに行っていた。俺はそのタイミングを狙って靴を蹴り飛ばした。俺の靴は見事に滑り終わったチョロ松の頭にヒットした。俺が爆笑しているとムッとした顔でチョロ松が俺の靴を拾って投げつけようとして構えて、止まった。そしてニヤリと懐かしい悪童の顔で笑いだす。やべぇ、スイッチ入れちまったらしい。

 
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