ごった煮


□ちゃんと給料三ヶ月分の奴を用意しろよ?
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「ちょ、チョロさーん!?」

 チョロ松はそのまま俺の靴を持って俺から離れていく。慌てて片足で追い掛けるが捕まえられるはずがない。もう面倒になって片足は裸足でそのまま追い掛けた。暫くそうして二人で追いかけっこをしていると、陽が完全に落ちそうになっていることに気が付いた。そうしてチョロ松はやっと俺に靴を返してくれた。靴を履いていると、チョロ松が俺のトレーナを手にして戻ってくる。暗くなりはじめた公園の常夜灯が着くと、チョロ松がふわりと笑って言った。

「――…おそ松の時間、終わっちゃったな」
「『俺の時間』?」

 俺はトレーナーを受け取りながら首を傾げる。何の事だろう。そう思ってチョロ松を見ていると、チョロ松は少し恥ずかしそうにしながらポツリと言った。

「……夕焼けと、朝焼けってさ。世界が赤に染まるだろ?」
「…そう、だね」
「まるで、おそ松に包まれたみたいで……好きなんだ」
「―――――」
「…おそ松?」

 嗚呼。
 なんで、こんな時に、そんなことを言うんだ。同じことを思っていたなんて。こんなにうれしい気持ちにさせてお前はお兄ちゃんをどうしたいんだよ。
 そう思うと同時に、俺も何かお返しをしたいと思った。俺に包まれたようでその時間帯が好きだというのなら、ずっと包んであげるよ。ずっと傍に居てあげる。この気持ちをどうしたら表現できるだろう。そう思って、俺は不意に、カラ松が左指に指輪をしていたことを思いだした。一松とお揃いの指輪。同じ左手の薬指に。

(…俺も、何かあげたい。でも、おれ、こんなに何もない……)

 個性も、仕事も。何もないクズニートだ。そんな俺に未来を誓われても、きっと迷惑なんじゃないか。でも、俺は、弟の中で一番チョロ松を失いたくない。せっかく手に入れたこの幸せを、永遠にこの手で守っていきたい。
 俺は、何が出来るだろう。

 チョロ松が好きだと言ってくれた赤い時間はもう終わっていた。俺はチョロ松の手を握って黙って歩き出した。チョロ松は首を傾げながら黙ってついてきてくれた。やがてたどり着いたのは、公園の端にあった赤い遊具。小さい子用のアスレッチクだ。俺はその赤い遊具の壁にその辺に転がっていた小石でガリガリと絵を描き始めた。

「…おそ松?急になにしてんだよ。なに描いて――……十字架?」
「――…チョロ松」
「……?」

 お世辞にも綺麗だとは言えない十字架。俺はその前にチョロ松を立たせた。そして持っていた俺のトレーナーを頭に引っ掛ける。急に視界を奪われたチョロ松は慌ててそれを取ろうとしたけど、その手を俺が掴んで止めた。

「なに?!いき「聞いて、このまま……聞いてほしい」

 心臓が、バクバクと煩いなと思った。こんなの俺らしくないし、こんなことしても絶対引かれると思うけど、でも、何かしたかった。俺の想いをどうにか目に見える形で伝えたかった。

「俺は、中身ガキだし。楽観的だし、正直まだ親のすね齧って生きていきたいし働きたくないしずっとゴロゴロしていたいのよ」
「……おいクソ長男。改めてクズ発言やめ「だまって」

 
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