ごった煮


□誕生日だからって以下略! 4
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 チョロ松兄さんの声に、もう一人のおそ松兄さんが何故か嬉しそうに笑いながら言った。

「いーのいーの。カラ松のことは一松に任せておけば」
「…でも」
「――てか、今のカラ松は、一松以外じゃダメだからさ」

 二人には大事なことだから。そう言って、ソラが落とした銭湯グッズを拾ってもう一人のおそ松兄さんが歩き出す。その横に並ぶように駆け足で並ぶおそ松兄さんとチョロ松兄さん。その後ろを末松が並んだ。僕は再びクソ松と並ぶ形になる。暫く無言で歩いた。歩いて、考えていたことが口から出ていった。今日の昼のことだった。
 何故か、クソ松なら判るんじゃないか。そう、思ったんだ。

「お辞儀を?」
「そう。食べ終わった相手にしてる訳じゃないって言ってたけど…なんか気になって」
「――ふむ……」

 クソ松は今までのソラの行動を思い出しているのか、無言になった。そして頷いてから僕の顔を覗き込んだ。その目は、何故かキラキラと輝いて見えた。

「凄いな一松!お前は人の小さな仕草も観ているんだな!」
「いや…別にいつも見てる訳じゃ――…」

 ただ、ソラがお前だから。もう一人のお前だから。だからどうしても、目が行くんだ。ソラがする言動に、お前を重ねてしまうだけ。もしもソラがもう一人のカラ松じゃなかったら。きっとここまで気にしない。きっと。

「俺の推測だが…ソラは食材に対してお辞儀をしていたんじゃないのか?」
「…食材?」
「俺達が生きていくために、食事は必要不可欠だ。そのために食材を調理するが、その食材は決して俺達に食される為にこの世に生まれた訳じゃない。けれど、生きていくためには彼らを食さなければいけない。その命に対して敬意と感謝を込めてお辞儀をしたんじゃないか?」
「―――…」
「だとすると、やっぱりソラは最高にクールだな!流石もう一人の俺!!」

 全ての命に感謝と敬意を。
 そういう意味を込めてお辞儀をしているのだとしたら、ソラはいったい何者なのだろうか。だって、物心がつくまえからだと二人は言っていた。その頃からこんな理由でお辞儀をしてたら、寧ろ可笑しくないだろうか。

「――ソラって、アンタだけど…アンタじゃないかもね」
「ん?当たり前だろう、いちまぁつ?俺というギルトガイはこの世に一人だけだぜェ?」
「――そうだね」
「え…?」

 ソラは、クソ松だけどクソ松じゃない。同じだけど違うんだ。

 だから、ソラを見ても平常心でいられる。同じ顔をしていても、他の兄弟にはムカつかないのと一緒だ。


 此奴だから、僕はおかしくなるんだ。僕の心臓も、心も、胸も。此奴だから。カラ松だから。

「――…なんだ、そういうことか」
「…一松?」
「…うん。判ったらなんかスッキリした」
「そ、そうか…?」

 答えに導いてくれたのが、僕にずっと疑問を抱かせていた張本人っていうのも変な話だけれど。そっか、僕…好きなんだ。




 カラ松兄さんの事が――…


 
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