紫黒玉響、無音にて


□星、堕ちる
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 父が、私にいつも言っていた。私につけた名前の意味を。けれど、今の私は、その父の願いには添えていないはずだ。そのことに、罪悪感はあれど、後悔はない。
 私は、私の為に復讐を止める気はない。そのせいで星の数ほどの命を奪っても、構わない。
 私の生は、あってないようなものだった。父が、あの日、研究室から私を連れ出さなければ私は世界がどういう事かも理解しなかった。

 あの頃は、研究と実験の為だけに生かされていた。話すことは必要とされず、誰もそれを教えてはくれなかった。与えられた課題をこなすだけ。出された問題を解くだけ。聞かれた質問に答えるだけ。私に名前などなかった。父が、連れ出してくれるまでは。
 その父を、何者かに殺されたのだ。だから、私も殺し返す。私の世界を奪った奴らに、同じ苦しみを。同じ痛みを与える。そのために私は依頼があればどんな存在でも殺してきた。でも、私は快楽殺人者ではないから、必要以上の殺しはしない。殺しに何かの感情を抱いたことなんてない。
 仕事だから、殺すんだ。


「……はっ……ついに、焼きが、回ったかな」
《なに言ってるんですか、そのまま真っすぐ飛んでてくださいよ?合流地点まではあなたを援護できませんよ!》

 私は殺し屋だ。いつもは単独で動くけれど、今回は国からの依頼だったから二人で行動していた。潜入捜査だけなら、今の連絡相手の唐沢だけで済むけど殺しもとなると、国は私と彼を組ませることが多い。理由としては私がどの国にも組織にも属していないことと唐沢が表は刑事をしているせいだと思う。深く理由を追求したことはない。必要もないし。
 もし私が任務に失敗して殺されても特に被害はないからだろう。

 そう、今回みたいに。

 私は撃たれた腹部を抑えながらカイトで空を滑っていた。今日は新月。頼りない星明りで私は黒を纏い空を切る。任務をクリアして撤退中に撃たれた腹部にはまだ弾丸が残っていた。段々と滲む出てくる血に、思わず舌打ちをするとイヤホンから唐沢が何かを話してくる。もう、それすらも億劫になって、私は返事をしたくなかった。

《早くここまで来てくださいよ!今回はGPSをつけてないんですから、途中で意識を失って墜落とかされても探せませんからね》
「その時は死んだってことにして探さないでね。面倒くさいから」
《減らず口が出るなら大丈夫ですね》
「…ま、実はもう視界がかすんでて、どこ飛んでるかわかんないだよね」
《……は?》
「誰も、受けた銃弾が一発だなんて言ってない」
《何発食らったんですか?!そもそも、なんでそんなヘマしたんです?!》
「うるさい。避けたら猫に当たるから仕方がなかったんだよ」

 そう、仕方がなかったのだ。猫に罪はない。それに…

 
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